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レティシア書房店長日誌

相場英雄「心眼」(古書/1300円)

 ”見当たり捜査”は、指名手配中の犯罪者の膨大な量の顔写真のファイルを頭に叩き込み、繁華街や、駅などに立ち続けて、容疑者を発見する捜査のことで、専従の警察官がいます。これ、小説の中のことではなく本当に存在します。
 「ガラパゴス」「震える牛」などの社会派の推理ものの傑作を出してきた相葉英雄が、見当たり捜査現場をルポルタージュするような小説を書きました。

「頭の中にインプットした顔写真と目の前を早足で通り過ぎる人々を見比べるが、該当者は一人もいない。新たな職場で600名分の顔写真を手渡され、目元を注視して仕事に臨めと指示されたが、初めて立つ現場は戸惑うばかりだ。」
 主人公は、見当たり班に回されてきた新人刑事片桐文雄。新宿を中心として街に立ち続ける彼の日常を追いかける、地味と言えば、地味な警察小説です。彼は毎日毎日、暑い日も寒い日も街に立ち続けるのですが、犯人逮捕に至ったことはなく、虚しい気持ちが日々大きくなっていきます。彼の班には、団体行動をせず、自由に行動し、犯人を検挙する稲本というベテラン刑事がいます。片桐は、稲本に捜査の方法について聞こうとするのですが、全く相手にしてもらえません。
 大きな物語が進行するわけでもないのですが、彼が歩き回る東京の街、人々が集まる繁華街が詳細に書き込まれているので、読んでいる者も足を棒にして歩き回っている気分になります。最後まで、銃撃戦も乱闘も追っかけあいもない小説ですが、読みごたえ十分です。

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