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レティシア書房店長日誌

生誕140年「ユトリロ展」
 
 
最もよく映画館に通っていた20代〜30代。しかし、フランス映画は苦手でした。でも唯一この人が参加しているなら、と劇場に向かった人物がいます。アンリ・ドカエ。撮影監督です。一時代を築いたヌーベルバーグ派の監督作品の多くを担当していました。私が夢中になったのは、暗黒街に生きるギャング達の暗い情念を描き続けたジャン・P.・メルヴィル作品におけるドカエのカメラワークでした。どよんと澱んだようなパリの空。中でも冬の寒々しい雲が流れてゆく様には、シビれました。彼が撮す空を見たくてフィルムノワール作品を観ていたのかもしれません。
 先日、京都駅美術館で開催中の「生誕140年 ユトリロ展」で観た、いわゆる「白の時代」と呼ばれている作品に描かれているパリの曇天は、まさしくドカエがカメラに写し込んだパリの空でした。

 モーリス・ユトリロ(1883~1955)は、フランスを代表する画家の一人です。極度のアルコール依存症に苦しんでいた時に、治療の一環として行なっていた絵画制作が評価されたそうです。彼の作品のほとんどが風景画であり、描かれているのは、小さな路地、教会、住宅などのありふれた風景です。若い頃は、全くといっていいほど興味がなかったのですが、今回、初めてまとめて観て、心に染み入る作品に数多く出会えました。
 どんよりした冬空。道には雪が残っています。低層階のアパートの窓は締め切られています。遠くに歩く人の影。ありふれた街の冬の一場面なのに、静謐で詩情に溢れています。伸びやかな明るさはありません。かと言って、孤独や寂寥感が画面を支配しているわけでもありません。私には、閉められた窓の内側にある、市民の小さな暮らしの暖かさが垣間見えた気がします。

 展覧会には、後年の「色彩の時代」と呼ばれた作品もあり、パッと会場が明るくなったような心ウキウキする作品が並んでいて、ユトリロのイメージが変わりました。会場の出口付近に、赤ワインの瓶とワインの入ったグラス、そしてシガレットを描いた素敵な小品がありました。その生涯、アルコールに苦しめられた彼がどんな気持ちでこれを描いたのだろう。これが一番、好きな作品でした。美術館えきKYOTOで、25日(月)までです。


●レティシア書房ギャラリー案内
12/13(水)〜 24(日)「加藤ますみZUS作品展」(フェルト)
12/26(火)〜 1/7(日 「平山奈美作品展」(木版画)
1/10(水)〜1/21(日) 「100年生きられた家」(絵本)
1/24(水)〜2/4(日) 「地下街への招待パネル展」

●年始年末営業案内
年内は28日(木)まで *なお26日(火)は営業いたします。
年始は1月5日(金)より通常営業いたします

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