_いっぴき_レビュー

レビュー『いっぴき』(高橋久美子、ちくま文庫)

浅生鴨さんにオススメいただいて知った一冊。著者は高橋久美子さん。恥ずかしながらまったく知らなかったのだけれどチャットモンチーのドラマーと聴いて驚いた。『シャングリラ』くらいしか知らなかったけどその『シャングリラ』が割と好きで、しかも歌詞をこの高橋久美子さんが書いたという。俄然興味が湧いて、そのとき浅生鴨さんに会いに行ったかも書店でこの本『いっぴき』を買ったのだった。

2012年にチャットモンチーを脱退して作家になったとにから2018年までに著者が書いた文章をまとめたものである。

書籍化もされている『思いつつ、嘆きつつ、走りつつ、』(毎日新聞社)が第1章に、第2章は書籍化されていないが雑誌や新聞に著者が寄稿したもの、第3章は書き下ろしとちう構成だ。

僕としては第1章が好みで、フリーランスの作家になった戸惑いや高まりが滲み出ていて読んでいて楽しかった。それに「ヒトノユメ展」の一部始終は本当に楽しそうで、当時知らなかったことを後悔したくらいだ。

それにしても読み終わった後、夏祭りから帰ってきたみたいな気持ちになったのはなぜだろう。あの楽しくて暑くて未成熟で、終わるのは寂しいけれどその寂しさも含めて好きだったあの気持ち。僕は情緒を描くのが苦手なのだけれどそんな僕でも形容詞を多く使いたくなるようなそんなナイーヴな気持ちにさせてくれる。著者の等身大で瑞々しい文章のお陰だ。

「夢みたいにまた朝が来たんだな」

冒頭の一節である。夢の中にいるような読書だった。


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