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フェブラリーSの行く末

先週のフェブラリーSは大波乱の結末に終わりましたが、ハッキリさせておきたい事があります。それはフェブラリーSの行く末です。ひと月以上前から

・フェブラリーSの空洞化
・盛り上がる要素が無い
・開催時期の変更
・ダートGⅠを増やせ
・賞金を5億円に

などと好き勝手なことが所かまわず叫ばれており、それがネット民からプロの生産者、馬主まで広がっているのだから遺憾どころの話じゃありません。


■競馬とはなんぞや

そもそも競馬とは、レースで誰よりも速く駆け抜けて勝つことを目的としたスポーツです。そして同条件で繰り返し行われてきたレースに自然と歴史・文化・伝統が備わり、それが格に繋がります。そうして格が備わったレースを重賞競走と呼び、その重賞の中でも最高峰のGⅠに勝つ事が競馬関係者の最大の目標になります。これが大前提です。


■中東の招待競走

現在、フェブラリーS問題が騒がれている背景には、同時期に立て続けに行われる中東の招待競走があります。これは非常に厄介で、JRAの春競馬の空洞化に繋がる問題でもあります。

中東の有名な招待競走と言えば、まずドバイミーティングが挙げられます。1996年に始まったドバイワールドカップを皮切りに、98年にドバイシーマクラシック、2000年にドバイターフが創設され、02年にはドバイゴールデンシャヒーンが、12年にはアルクォズスプリントがGⅠに昇格し、現在3月末に5つのGⅠと3つのGⅡが行われています。

施行距離は、芝が1200m、1800m、2410m、3200m、ダートが1200m、1600m、1900m、2000mと多彩であり、どんな馬でも目標にしやすい国際競走と言えます。


次に挙げられるのがサウジカップデーです。ドバイミーティングのひと月前に行われるこの招待競走は2020年創設と歴史は相当浅く、国際格付けはサウジアラビアがパートⅡ国に格上げした2022年から取得し、外国のサラブレッドが出走できる6レースのうち、GⅠはメインのサウジカップのみです。それ以外は、GⅡが2024年からネオムターフカップ、1351ターフスプリント、GⅢがリヤドダートスプリント、サウジダービー、レッドシーターフハンデキャップです。

施行距離は、芝が1351m、2100m、3000m、ダートが1200m、1600m、1800mなので、ドバイミーティングに比べて出走する馬は限定されます。特に芝は中途半端な距離で、1400mや2000mで施行できればもう少し狙いがハッキリするのになぁと思いますね。


そして今年、カタールの国際招待競走アミール・スウォード・フェスティバルに日本馬が3頭挑戦しました。サウジカップデーの前週に行われるこの招待競走がいつから始まったかは色々と情報を集めてみても分かりませんでした。もともと検疫の関係で出走することすら困難だったこともあり、日本馬がカタールの競馬に参戦したのは2019年のユウチェンジが初めてだったとのことです。カタール自体がパートⅢ国であり、その格付けは基本的に自国のみで有効となるもの(国際重賞ではない)ですが、認定を受けたレースは国際重賞となるため、メイン競走のアミール・トロフィーは2024年から国際GⅢに格付けされています。それ以外のアイリッシュ・サラブレッド・マーケティングカップ、アルライヤン・マイル、ドゥハーン・スプリントはカタールGⅡ・GⅢであり、リステッドですらありません。

施行距離は、芝1200m、1600m、2400mであり、ダート競走はありません。


■フェブラリーSのレーティングと売上

フェブラリーSのレーティングは、JRAのHPで公開されている分だけですが、2016年から以下の通りです。

2016年 115.00ポンド
2017年 114.25ポンド
2018年 114.25ポンド
2019年 111.75ポンド
2020年 112.75ポンド
2021年 112.75ポンド
2022年 115.25ポンド
2023年 116.00ポンド 世界のGⅠトップ100(93位タイ)


レーティングはGⅠ昇格基準が115ポンド、降格基準は3年連続112ポンド未満(2・3歳および牝馬は2~4ポンド低い)で、そこから審議→承認で降格となっており、JRAのGⅠだと引っ掛かる事はまずありません。

続いて、レースの盛り上がりの指標となる売上を見ていきましょう。

2014年 112億6403万円 勝ち馬コパノリッキー
2015年 116億2840万円 勝ち馬コパノリッキー
2016年 130億0626万円 勝ち馬モーニン
2017年 131億7448万円 勝ち馬ゴールドドリーム
2018年 128億8625万円 勝ち馬ノンコノユメ
2019年 151億0003万円 勝ち馬インティ
2020年 137億8134万円 勝ち馬モズアスコット
2021年 132億8894万円 勝ち馬カフェファラオ
2022年 156億6193万円 勝ち馬カフェファラオ
2023年 155億6783万円 勝ち馬レモンポップ
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2024年 165億9474万円 勝ち馬ペプチドナイル

近10年の内、前年比プラスの年は5回ですが、重要なのは基準点からどれだけ増減したか、です。2014年を基準点にした場合、そこと昨年の売上比は138%、今年なら147%です。


■フェブラリーSの中傷への反論

競馬の前提と、問題の背景となる中東の国際招待競走、レーティングと売上を見てきました。ここで先に述べた内容について反論してみましょう。

・フェブラリーSの空洞化

これは事実ですが、実はフェブラリーSだけではありません。ドバイミーティングが創設されて以降、JRAの春競馬はクラシックが基本となり、古馬の大レースという印象のあるGⅠはありません。大阪杯はドバイの居残り組、天皇賞・春は長距離組、ヴィクトリアMはGⅠの歴史と格が浅く、宝塚記念もアーモンドアイのような東京巧者の中距離組は安田記念に回って出走を控える。秋の古馬三冠と比べたら中途半端ですよね。

もちろん、ボリクリとかロブロイが有馬記念の後に適鞍が無いからと宝塚まで出走を見合わせていた頃に比べたらマシですが、JRAでは古馬の春はもともと空洞化しやすい番組表なんで、空洞化と言われても、ぶっちゃけ今さら・・・という感じなんですよね。空洞化する、じゃなくて古馬の春競馬自体が空洞化しているのです。

仮に大鉈を振るう気持ちで春の改革をするのであれば、ドバイに一流馬を盗られるのを前提に番組を組むべきでしょう。特に天皇賞・春と大阪杯の位置ですね。奇しくも京都の改修工事により阪神で行われた天皇賞・春は意外と評判が良かったので、大阪杯の位置に天皇賞・春、ヴィクトリアMの位置に大阪杯、ヴィクトリアMは天皇賞・春の位置に回せば、ドバイに出走した一流馬は宝塚まで待たずに春の京都の中距離を走れますし、宝塚まで中5週だから連戦も可能でしょう。天皇賞・春と大阪杯は出走馬がほぼバッティングしないですし、大阪杯を京都2400mで施行したとしても天皇賞・春から大阪杯、宝塚記念の両にらみができますし。難点は長年京都で行ってきた天皇賞・春の変更、大阪杯のレース名と距離変更の有無でしょうか。どちらも非常に難しい問題です。


・盛り上がる要素が無い

この言い分ってあまり好きじゃなくて、やむを得ない場合以外は使いたくない言葉ですが、これって所謂その人の主観なんですよね。何がどうなったら盛り上がっているのか、これが分からなければ主観だと言う以外に方法がないような気がします。

そもそも日本の競馬はスポーツである反面、ギャンブルでもあります。この2つが両輪となって発展してきたのが日本競馬です。その日本競馬が盛り上がっているかどうかを判断するのは、やはりレースレベルを示すレーティングと、ギャンブルの隆盛を示す売上を見るのが自然な流れでしょう。

フェブラリーSのレーティングは過去8年の平均が114ポンド、降格基準にも達していないですし、前2年は115ポンドを超えて世界のGⅠトップ100にも入っていますし、これでレースレベルが低く盛り上がっていないというのはちょっと無理があるのではないでしょうか。確かに上には上がいますよ。イクイノが出走したレースは軒並みレートが高いですし、有馬記念なんかは毎年120ポンドを超えていますからね。しかし、それを年の初めの閑散期にやるダートGⅠと比べちゃイカンでしょう。ただでさえ高レートを出しにくいダート競馬ですしねぇ。115ポンドを超えていれば満足、114超えていれば御の字、112ならちょっと危ないな、程度の認識で十分ではないでしょうか。

それから売上については前述のとおり、2014年を基準点で見た売上比は昨年は138%、今年は147%です。売上が1.5倍になったのに盛り上がっていないというのは、誰が見てもかなり無理がある意見だと思うのではないでしょうか。チャンピオンズCと比べても同程度ですが、そちらは盛り上がっていないとは聞かないですし、やはり盛り上がっている、いない論は各人の主観としか言えません。この主観で議論すると、詰まるところ感情論になってしまうのでよろしくないですねぇ。


・開催時期の変更

競馬の大前提として話したとおり、同条件で繰り返し行われてきたレースに自然と格が備わり、そうして重賞と呼ばれたレースの最高峰がGⅠです。そういう前提を考えれば簡単に開催時期を変えろというのは、競馬の大前提を無視した暴論ではないでしょうか。

その理屈で言えば、例えば暮れの香港国際競走が賞金を大幅に上げ、さらに規模を大きくして様々なカテゴリーのGⅠを作ったらどうでしょうか。ジャパンCはもちろん、有馬記念ですら出走馬を奪われる巨大な敵の出現するわけですが、そしたらジャパンCや有馬記念の施行時期が悪いから時期を変えろ、というのでしょうか。そうしたGⅠに歴史・文化・伝統があり、格が備わるでしょうか。

夏の高校野球を甲子園だけではなく、ある年は京セラドーム、ある年は福岡ドーム、ある年はエスコンフィールドで行って伝統の夏の高校野球になりますかね。箱根駅伝を毎年、関東の様々なコースで行ったらどうなりますかね。国民的なスポーツイベントになるでしょうか。

開催時期変更の理由と言われる盛り上がっていないという理屈も通らないですし、変更が自分たちにとって都合の良い関係者が好き勝手言っているようにしか見えないんですよね。


・ダートGⅠを増やせ

こちらの意見も論外もいいとこです。頂上決戦的なレースとしてダートGⅠがもう一つ欲しい、ダートは地方競馬に丸投げしておけばいいというわけではないという意見ですが、今年から何が始まったか覚えていないのでしょうか。地方のダート路線の整備が行われているのですよ。なぜそうなったのでしょうか。それは

芝とダートを両輪とする日本競馬の発展を目指し、地方競馬が主体となってダート競走の体系整備を行うことといたしました。

という理由からなんですよ。JRAでもNARでも同じ発表しており、簡単に言えばダートは基本地方に任せますって話で、だからこそ今まで先延ばしにしてきた国際格付けの取得も段階的に行っていくのでしょう。それなのにJRAにダートGⅠ作るなんて、NARに対する裏切りもいいとこですよ。

現在だって古馬路線は中京距離と短距離でバランスよく分類されていますし、どこに新しいGⅠを作ればいいのか教えてもらいたいもんですね。

・古馬中長距離
 川崎記念 (4月)     平均レート111.92
 帝王賞  (6月)     平均レート115.33
 JBCクラシック(11月)  平均レート115.58
 チャンピオンズC(12月)  平均レート115.58
 東京大賞典(12月)     平均レート114.08

・古馬短距離
 フェブラリーS(2月)   平均レート114.67
 かしわ記念(5月)     平均レート111.83
 さきたま杯(6月)     平均レート109.08
 南部杯  (10月)     平均レート112.92
 JBCスプリント(11月)  平均レート111.17


・賞金を5億円に

これも暴論ではないでしょうか。だって賞金上げれば良いわけじゃないってジャパンCが証明しているじゃないですか。賞金やら褒賞金やらをいくら作ったところで海外の一線級は集まりましたかね。それが答えだと思いますが。

それに5億円程度でドバイやサウジに対抗しようなんて甘くないですか。外国馬を集めるどころか、日本馬の引き留めだって難しいですよ。賞金半分なんだもん。JRAの1着賞金5億円の場合、3着は1億3000万円くらいですが、その金額はサウジC5着とほぼ同じです。日本馬のレベルを考えたら国内だって楽じゃありませんし、それなら高額賞金獲得のチャンスが広がる海外に行くのは当然の選択肢ではないでしょうかね。


■まとめ

結局のところ、時期を変更しろとか、ダートGⅠ増やせとかって利己的な競馬関係者、もしくは競馬の素人が言ってるだけじゃないかなぁと思うのですよ私は。競馬というスポーツをただの経済活動、ただのギャンブルと捉えて、少しの間だけ儲けられればいいや、楽しめればいいやという考えじゃなければ、なかなかこういう短絡的な考えに行きつかないと思うんですよね。

日本競馬はもちろん、全世界での競馬文化の発展という意味を考えた時、最も重視しなければならないのは、『同条件で繰り返し行われた歴史・文化・伝統が備わった格の高いレースを勝つ』という競馬の大前提ではないでしょうか。

まぁズラズラと書いてきましたが、これ全部私の主観ですので、異論反論は大いに認めますし、様々な議論を経て日本競馬が良い方向に向かってくれる事を願って書いている競馬バカですからね私は。皆さんもたくさん議論してJRAや関係者に疑問や意見をぶつけてくれれば、こうした願いが少しだけでも叶うのかなぁと思います。


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