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イクイノックスは普通の強い馬

イクイノックスの引退が発表されて数日、ちょっと頭が整理できない時間が続いていました。世間ではイクイノックスが最強馬論争を終わらせるほどの歴代最強だと言われているようですが、私個人はどんなに考えてもそうは思えないのですよ。もちろん個人的な意見ですがね。でもねぇ・・やっぱり競馬の本質を考えたら違うんだよなぁ~関係者には声を大にして言いたいですもん。

手段と目的が入れ替わってねぇか?


とね。


■競馬の本質は速く走ること

そもそも論ですが、「競馬とは何ですか?」と聞かれた何て答えます?ほとんどの人がどの馬よりも速く走ること、と答えるのではないでしょうか。そりゃそうです。競馬は貴族が自分の所有馬はお前らのより速ぇよって争いから始まってるので、何よりもまず速く走る=勝つ(1着になる)ことが競馬の基本であり本質です。

では、速く走る馬はどうやって集めればいいでしょうか。それは速く走った馬同士を交配していけばいいのです。単純ですが、それを繰り返したきたのが競馬の歴史です。ダーレーアラビアン、ゴドルフィンアラビアン、バイアリータークの3頭がサラブレッドの3大始祖と呼ばれるのは、それを突き詰めてきた結果、父から父へと遡ると必ずこの3頭にたどり着くわけですね。

つまり、レースで勝つことと、繁殖で速い馬の血を残すことが競馬のサイクル、両輪みたいなもんになるわけですが、それが過度になりすぎているのが現在の競馬界だと私は思うのです。


■手段と目的

かつて貴族が行った「自分の所有馬はお前らのより速ぇよ」という子供のような争いが、やがて多くの速い馬同士での争いに変わり、それを幾度となく繰り返してきたことで歴史、文化、伝統として熟成され、脈々と受け継がれてきた結果が今日の競馬です。

そんな競馬の世界では、どこの国に行ってもその国のダービーが最も勝ちたいレースと言われています。全てのホースマンが目指すのがダービーだと、多くのファンが耳タコレベルで聞いているでしょう。それは多くの馬主も同じです。馬主業で利益なんてまず出ません。失う一方です。

それなのに、なぜ馬主をするのか。それは名誉が欲しいからです。ダービーを初めとした大レースを勝つ、しかもたくさん勝ちたいのです。そのわずかな可能性のために大金はたいて馬を買うのです。

つまり、競馬はレースで勝つこと、繁殖で良い馬を輩出することが重要ではあるものの、競馬の本質は大レースでより多く勝つことなんですよ。これが何よりの目的であり、その手段となるものが速い馬を繁殖に上げて、その能力を引き継いだ馬を生産することです。


では最近の競馬界はどうでしょうか。欧州とまでは言いませんが、実力馬の引退が早いと感じるファンは多いのではないでしょうか。その時に決まって聞くセリフが「血を残す大事な使命があるから」というものです。

だから強ければ強いほど早く引退させたい。翌年以降にGⅠ勝利数を積み重ねられたとしても、前人未到の記録へ到達できたとしても、引退させたい。怪我でもして繫殖に上げられなくなったら困るし、レースで稼げる賞金なんて種牡馬生活なら数年どころか1年で回収できる可能性すらある。だから引退させたい、引退は正解だと言うのです。

はぁ?!?!?!?!?!?!?


それって手段(強い馬の血を残す)と目的(大レースに勝つ)が入れ替わってねぇか?と思うのですよ私は。何のために競馬をしているのでしょう。大レースをたくさん勝って歴史に名を残す名馬になるためですか。速い馬の血を残すためですか。金のためですか。

『ダービーをはじめとした大レースをより多く勝つために』速い馬の血を残すハズなのに、『血を残すために』大レースをより多く勝つ前に引退しては本末転倒ではないでしょうか。


■イクイノックスの評価

今回のイクイノックスの引退、というか彼の現役生活を見ていると手段と目的が入れ替わっていることが良く分かります。

若い時は先のある馬だから無理させないようにし、成長してきたら凄い馬になるからと慎重に出走レースを選定して、大レースを衝撃的な勝利で完成したであろう力を見せつけ、さぁこれからGⅠ最多勝に挑戦だ、海外のビックレースに挑戦だ、と夢を見たら引退です。

この時点でGⅠ最多勝はおろか、日本競馬において実質最高と言われるGⅠ7勝にも届いていません。海外の一戦でも、負かした馬が後に多数のGⅠを勝利したものの、一線級と戦ったかと言われればそうとも言えるし、そうは言えない何とも微妙な相手で、相手に一発勝負だったからと言い訳を与える余地を残しました。


ただ、イクイノックスは強い馬です。少なくとも日本の現役の中ではぶっちぎりの最強馬ですし、強烈な世界レコードを残すなど、世界を見渡してもトップクラスなのは間違いないでしょう。

でも、数年後はどうでしょうか。
10年、20年後はどうでしょうか。

いずれ同じような馬は現れますよ。その時に、イクイノックスに残っているものは何ですか。GⅠ勝利数は上には7頭も居ますし、タイ記録でも6頭居ます。どの馬もイクイノックスと同じかそれ以上に強烈なインパクトを残した馬ばかりですし、戦績的にクラシック三冠や年間グランドスラムなど王道路線をキッチリ勝っており、それらと比べて優秀だとはとても言えません。海外戦績も、2年連続で海外遠征をして凱旋門賞2着のオルフェ、海外GⅠ年間3勝のラヴズがいる時点で敵いませんよね。

世界レコードだってトーセンジョーダンのように大駆けする馬もいますし、時の流れやJRAの思惑一つであっさりと更新され得るもので、それイコール最強馬の証明というのは難しいでしょう。

繫殖成績では、ディープクラスを集められるかと言えばクラシック未勝利なので難しいでしょうね。同馬は父キタサンブラックの初年度産駒なんで父とも争っていかなければいけませんし、エピファネイアやロードカナロアといった大物を出した実績のある種牡馬やスワーヴリチャードやコントレイルといった新進気鋭の面々も相手になります。

下手をすれば顕彰馬だって難しいかもしれませんよ。まだ門番のキンカメとコントレイルがいますし、繫殖成績を正しく評価されたらハーツだって門番に成り得るわけですし、リバティアイランドやドウデュースなんかも票を分散させますからね。


こうした面を考慮すれば、タイトルのようにイクイノックスは普通の強い馬という評価しかできませんし、歴代最強馬に数えるのは難しいと思うのですよ私は。だからこそ残念ですし、悔しいですし、腹立たしいのです。

もちろん、私だって繫殖の重要性は理解しています。しかし、それを重要視するあまり本来の目的を見失ってどうすると言いたいのです。

今後、どうやってGⅠ最多勝を目指しますか。無敗の三冠馬が翌年GⅠを一つしか勝てなくても次の仕事があるからと引退させ、クラシックは未勝利だったが一年ちょっとで古馬GⅠを6連勝しても引退させるなら、4歳まではGⅠをちょこちょこ勝って、現役続行が決まった5歳から本気出して年間グランドスラム達成くらいじゃないと9勝はおろか7勝だって無理じゃないですか。

個人馬主が夢を追ってくれることが前提条件なんですか?
セリがメインなのに、その個人馬主には良い馬は回るんですか?
庭先ではそういう馬見つけること自体が奇跡なんですよ?


なんか、ますます競馬やってる意味が分からなくなりますね。誰だって上記のようなことは思いますよ。違うというなら、競馬の目的を教えて下さい。大レースを勝つ、それが競馬の最大の目的でしょう。偉い人にはそれが分からんのですか。誰のおかげで日本において競馬で飯食えると思ってるんですか。賞金が高いからやっていけるんでしょう。その賞金は誰が出してるんですか。ファンが必死に作った金で買った馬券から出ているんですよ。そのファンを失望させることしてどうするんですか。

ノブレス・オブリージュとまでは言いませんが、某大手馬主グループには、果たさねばならぬ責任と義務があるんじゃないですかね。もう一度よく考えてほしいもんです。

そしてイクイノックスの引退を撤回して有馬に出走させ、私に全財産を突っ込ませて儲けさせて下さい。


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