ハガクレ・スチール #06

06 電撃

 SG-01は腰をかがめて足音を抑え、一定の距離を保ちながら男たちを追った。獣道を100メートルほども進むと開けた場所があり、粗末な木造の小屋が建っているのが見えた。
『ひとまず隠れろ。推移によっては独自判断で動け』
『マッカセナサーイ』
 手近な樹の裏に潜んで状況を分析する。
 小屋の外に男が三人。小屋の中には最初に見た女性と、たったいま戸を開いて侵入した男二人。SG-01の動体センサーやサーモグラフを使えば肉眼で捉えられないものでも見える。
「ちょこまか逃げやがって、やっと追い詰めたぜえ」
「怖がらなくていいからさ、俺たちと一緒に来てくれよ」
 聴覚センサーが捉える男たちの声音に、遥か上空の輸送機でナニカノ博士は顔をしかめた。
 女性は追われた挙句、袋小路の小屋に駆け込んでしまったのだろうか。屋内の男二人は細い片刃の剣を持ち、女性ににじり寄っている。屋外は一人が同じ種類の剣を、一人が槍、一人が弓矢。
 先ほど彼等が目の前を横切った際の映像記録を再生、数少ないJ地区の資料も参照する。女性が着ていた衣服は一般的な庶民階級のものと思われるが、男たちの着衣は非常に粗雑。髪も髭も文化的に整えられたものとは考えにくい。双方の生活環境の違いが伺える。
 五人の体格と服装を比較検討、屋外の剣を持った男が最適。小屋の女性が野菜の籠を置くと同時に、SG-01は動き出した。

 音をたてぬ早足で歩き、剣の男の前にずいと現れる。
「君の来ている服が欲しい」
 SG-01の発音は流暢であった。
 一瞬前までニタニタと笑いながら小屋の成り行きを見守っていた男は、ぽかんと間の抜けた顔をする。
「な、なんだてめぇ!」
 最初に反応したのは槍の男で、SG-01の背中にすばやく穂先を向けた。その隣に立つ弓矢の男はまだ戸惑っている。さらに二、三秒経ってから刀の男がようやく動いた。
「な、なんだてめぇ!」
 彼は突然の乱入者に切っ先を向け、槍の男とまったく同じ言葉を繰り返した。SG-01は取り合わず、すっと右掌を刀の男に押し当てた。それは攻撃でも何でもない自然な仕草に見えて、動揺する刀の男は咄嗟に反応できなかった。
 電気ショック。掌底に装備された接触型スタンガン。刀の男は力なくくずおれた。
 てめえ、と槍の男が喚いて穂先を突き出す。振り向きかけたSG-01の脇腹に当たった。ガウンに穴が開いたが、それよりも強靭に出来ている人工皮膚には刺さらず、穂先の方がぐにゃりと曲がってしまった。
「なっ」
 男が声をあげると同時に、SG-01は槍の脇を素早く接近。掌底スタンガンで二人目を昏倒させた。
 わああ、と叫んだ三人目の男はSG-01を弓で射た。五人の中で弓矢を担当するだけの技量はあると見え、混乱しつつも命中させている。しかしそれもSG-01に回避の意思が無いことを踏まえての話だ。二度飛んだ矢は胴体と肩に当たり、先ほどの槍と同じく曲がって落ちた。
 三射目の前にSG-01は容赦なく前進し、掌から電極を露出させる。それと同時に小屋の戸が内側から吹き飛び、中にいた男が激しく転がり出てきた。

「おれと喧嘩しようなんざ十年早いんだよ! ニワトリみてえな頭しやがって!」

 威勢よく吼えたのは、追われていた女性だ。着衣がわずかに破損しているが体には傷一つついていない。
 SG-01は屋内の状況もリアルタイムで把握している。SG-01が最初の男に声をかけると同時に、彼女も剣を持った二人相手に立ち回りを始めた。明らかに鍛錬を積んだ動きで刃をかわし、打撃で一人を昏倒させ、もう一人を先ほど小屋から叩き出したのである。
 そして今、彼女の目はSG-01を捉えた。身構え、すぐさま動き出そうとする体勢を取っている。男たちの仲間だと思われ攻撃を受ける可能性があった。
 その為にSG-01はデータベース内にある伝統武術の動きを参照し、わざと大仰な構えを取った上で、
「ハイーッ!!」
 裂帛の気合いと共に掌底を弓矢の男にぶつけた。悲鳴もあげず派手に吹っ飛んだが、打撃ではなくスタンガンで痺れさせつつ押す様な感じだ。SG-01が本気で打ち込めば致命傷になり得る。

 男が倒れる様を見て、SG-01に飛びかかろうとしていた女性は躊躇した。ぐるりと首を巡らし、自分を追いかけていた暴漢がみな動かなくなっているのを認識する。
「え~っと……」
 状況をどう捉えたものか、彼女は構えを解いたSG-01に迷う目を向けた。

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