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はじまりの店 アイラブ漫画喫茶。#3

ものごとには何でもはじまりがある。

でも、そのはじまりの瞬間に立ち会える機会はそうそうないのだから、もしその機会に恵まれたなら大事にしてほしい。

なんの話かって。

漫画喫茶の話です。

□ □ □

ある日、豊見城の高台へ登る中腹、饒波というところに、新規オープンの漫画喫茶を見つけて立ち寄ってみた。大量の漫画を入荷という触れ込みのとおり、たしかにコミック数はかなり多くて新しめ。チェーンじゃない個人経営店ならば県内最大級かもしれない。

しかしである。このお店、なんだか普通の漫画喫茶とはまったく違った雰囲気を醸し出している。

入った瞬間から、造りが上品というかゴージャスというかデコラティブなのである。

美しい木目の床材に重厚感のあるテーブル。景色が見えるように広くとられた窓、大理石でつくられた手洗い場にはバラの花が飾られている。

さもありなん、この店はもともとレストラン。しかも、地域のマダムがランチしそうな上品なお店だったのを、ほぼ居抜き状態のまま漫画喫茶にしているのである。

しかも、レストラン時代の踏襲なのかもしれないが、メニューもなんといいますか、いわゆるニアリーイコール大衆食堂ではない。イチボステーキとかチキンソテーのプレートとかデミグラスハンバーグとか手作りのタルタルソースとか。そういえば洋食店っぽいなぁ。しかもめっちゃ美味。

サラダバーとスープバーも付属されていて、そのスープが毎度毎度目を見張るくらいおいしかったりする。

……ていうか、漫画喫茶で大丈夫か?
普通にレストランでよくないか?

□ □ □

むかし、「漫画喫茶は敷居が高い」という人に会ったことがある。

苦手な理由を聞いたら、
「そこはかとなくアングラな感じ」という答えが返ってきた。アングラとは…。

人によっては、古びた大量の漫画におそれをなすかもしれないし、客が無言でいる空間をものものしく感じたり、あとは、何やってるかわからない客に不信感を抱いたりとか、そんなことかな…。

ド平日のド昼間にフラッとやってきて『ザ・ファブル』をガッツリ読んでる私だって、はたから見れば「何やってるかわからない客」だろうしなぁ…。

そんなことを思いながら、漫画の多さとメシのおいしさに惹かれて、ちょくちょく足を運ぶようになっていたのだが、最近、オッということに気づいた。

この連載を読んでくださっている方なら周知のことと思うが、「漫画喫茶の客層は9割が男性」である。

しかしながらこのお店はそうではない。「模合仲間からこのお店おいしいよと教えてもらったミセスと、妻に連れられてきたお父さん」みたいなシニアカップルがけっこういるのである。

さらに、ほかにも増えてきたと感じたのが、「小学生くらいの子供を連れた親」である(ちなみにだいたい子供は東京リベンジャーズを読んでいる)。

どっちも、ちょっとだけ「よそいきランチ」の雰囲気を醸し出しているのが特徴。ほんのりオシャレしちゃったりして。

要するに、漫画喫茶というのは、ふだんは足を運ばない客層にとってアングラ的に感じられがちである。

ところが、居抜きの結果として誕生した「やたらデコラティブな内装の漫画喫茶」によって、そういう方々にとっても“理解”(わか)りあえる“漫画喫茶”(とも)となったのではないか。

漫画は一切読まずに、ニコニコと仲良くイチボステーキを召し上がる年配のご夫婦を眺めながら、そんなことを考えてしまった。

はい、というわけで、ゴハンおいしいし漫画もたくさんあるし、漫画好きの人もそうでない人も、何度も行ってほしいお店のひとつです。

こんな締め方でいいのかな、まいっか。(え)