【ダンジョン飯】ネタバレ注意 ハーフエルフと他種族、死と命について

〇はじめに

 これは九井諒子氏による漫画【ダンジョン飯】のハーフエルフがどのように物語に関わるのか考える記事である。加えて、2023年8月現在13巻までのネタバレを含む。
 ここでは登場人物についての詳しい解説は行わないため、各々の記憶と【ダンジョン飯 ワールドガイド】を参考にして欲しい。

☝買おう☟読もう☝買おう☟読もう☝



〇【ダンジョン飯】の種族について

 主に長命種と短命種に分けられる。以下に各種族を寿命順に記載する。

・長命種
◎ハーフエルフ 1000歳 ※マルシル 50歳
①エルフ 800歳 ※ミリシリル 183歳
②ノーム 240歳 
③ドワーフ 200歳  ※センシ 112歳

・短命種
④トールマン 60歳 ※ライオス 26歳 ファリン 23歳
⑤オーガ 58歳 
⑥ハーフフット 50歳 ※チルチャック 29歳
⑦オーク 55歳 
⑧コボルト 55歳 

 ハーフエルフは別格としてもエルフは他の長命種と比べても寿命が長い。その長さ故に他の種族を見下す、或いは過保護になる傾向がある。例として挙げられるのは元カナリア隊所属のミリシリルだ。彼女は養子を何人も育てており(同時期かは不明)、カブルー(トールマン)に対しては本人が望む剣術や迷宮の知識を与えるのを嫌がっていた。また、マルシルはハーフフットが大体100歳くらいまで生きると思っていたり、マルシルの母(エルフ)は夫(トールマン)の老いの早さに強いショックを受けていた。

 他にはエルフは絵(写真?)として表現されることがあり、6巻42話では夢魔の夢の中ではマルシルとその母と思われる人物、11巻74話の扉絵ではカナリア隊やエルフになったセンシが額縁に飾られている。これは、長命種故の不変性を表していると思われる。

〇ハーフエルフとは

 エルフとトールマンから生まれる種族で、外見的特徴としてエルフに比べて耳が丸い。寿命は1000歳と最も長く、成長速度に個人差があり、マルシルは歯が生え変わるのに20年かかった。また、子供を作ることができず、古代戦争以前の長命種は皆1000歳近く生きていたらしい。



〇マルシル・ドナトーの夢

 マルシルはハーフエルフである。12巻で彼女が禁忌と言われている古代魔術を研究していた理由、冒険者になった理由が明かされた。

・ハーフエルフと他種族の寿命差

 圧倒的な長寿種族であるハーフエルフだが、エルフとトールマンの子供として生まれる定めとして、両親の片方が長命種にくらべれば早く亡くなってしまう。その中でもマルシルの父親は82歳で亡くなったため、妻と娘のためにかなり頑張っていた。
 また、母が買っていた南国の鳥(ピピ:享年68歳)を亡くしており、初めて死を実感した時だった。

※この【南国の鳥】だが、現実世界基準で考えるとおそらくオウム目の鳥ではと思われる。オウムの寿命は種族のバラツキがあるが10から50程と言われ、ヤシオウムは90年程生きていたらしい。マルシルの母は長命である自分と長く一緒生きて欲しいと考えていたのかもしれない。

 この通り、マルシルは父親とピピの死によって自分が取り残されてしまうことを自覚する。この恐怖が明確に表れているのは6巻24話の夢魔による悪夢である。

・悪夢

 マルシルが夢魔によって見た悪夢は様々な生物が混ざり合った怪物(以降は夢魔の怪物と呼称する)に追いかけられるというものだが、この夢魔の怪物はマルシルを攻撃している様子はない。夢魔が取り込もうとしたのは父親とピピ、救出するために潜入したライオスである。加えて、夢魔の怪物の触れた者を老化させるという能力から、自分以外の人間が老いによって先に死んでしまうことに恐怖していることがわかる。
 また、この悪夢で友人のファリンが悪魔に対抗するために魔術を行使した際に人形になったらしいが、これはファリンを古代魔術で蘇生したことに起因しているとライオスは考えていた。個人的解釈だが、この魔術によって人間が人形になるシーンはおそらく重要な描写である。

※悪夢の内容はマルシルが愛読しているダルチアンの一族のペルキアンの一族という話をもとにしている。

 夢魔の怪物は夢から覚めた後も表れている。それは8巻50話のチェンジリングによってマルシルがハーフエルフになる場面。チルチャックとライオスからハーフフットとトールマンの平均寿命を知らされ、青ざめた顔の背後に登場した。マルシルが他種族になったことで、自分が数十年先に死ぬことを想起し、他種族の命の短さを改めて自覚することになった。

 また、他者の生に執着するマルシルと死人(霊)に寄り添うファリンは対比になっているのかもしれない。
 
 

・マルシルの夢

 禁忌とされている古代魔術の研究、冒険者になった理由は種族間の寿命差を無くすため、あわよくば1000歳に統一するためである。この夢は何度が諦めようとしたらしいが、学校での始めての友人ファリンとの出会い、夢魔の悪夢の中での夢は叶うというライオスの激励、関係を深めたパーティのメンバーが老いるという恐怖、ついにダンジョンの主になる機会が回ってきたという僥倖?から叶えるために本腰を入れることになる。
 

・考察:マルシルが研究した魔術

 マルシルは種族間の寿命差について悩んでいたが、寿命統一以外も様々な手段を考えていたと思われる。一つは死体に魔術を施す「ネクロマンシー」、何らかの活用方法を考えていたかもしれない。もう一つは肉体から「魂の移し替える魔術」、これは迷宮の王シセルがヤアドの魂を人形に移している。また、夢魔の悪夢でファリンが人形になったという点から知識がある、或いは研究していた可能性がある。


・二人目のハーフエルフ

 現在、ハーフエルフはマルシル以外にもう一人登場している。それは1巻3話に登場したフィオニル(62歳)である。彼女は西方エルフが迷宮調査のために雇用された魔術師だったが、新米冒険者のドニと出会ったことで共に迷宮探索を行うことになる。
 常に物憂げな表情で殆ど涙を流しているため、マルシルと同じように他種族との寿命差などの違いに苦しんできたのかもしれない。加えて、現場で仲良くなったドニは短命種のトールマンという点が印象深い。
 彼女はカナリア隊が島に来てからは身を隠していたが、ドニと一緒に一度姿を見せているため、近いうちにマルシルの理解者として活躍の場面が来るかもしれない。

・他者の命のためにダンジョンの主になったエルフ

 迷宮の主、狂乱の魔術師シスルは仕えていた国王デルガルが死を恐れたことを切っ掛けに国民に不死の魔術をかける。
 ある意味マルシルが寿命統一を目指した場合の未来にも見える。また、彼の名が「シスル→死する」と読めることから、死(有限)を意識した存在であることが示唆されている。



〇ダンジョンが示す命とは

 生命として死から逃れることはできないが、ダンジョン内では人間は蘇生されやすい環境であり、魔物を中心に生命で溢れている。迷宮の悪魔はそれぞれは別人だと話すが、根っこは繋がっており、記憶が共有されている。無限の存在といえる迷宮の悪魔と有限の生命の違いは子供の有無である

・迷宮内の家族

 迷宮では様々な家族が見られる。その最たる例がオークである。彼らは長命種によって居住区を追われ、迷宮や坑道などで生活している。ライオス達は若い族長のゾンと妹のリドと出会っており、ゾンの子供も登場している。これと似た様子が魔物にも見られる。

 1巻6~7話で登場した動く鎧。この魔物の正体は鎧の内側に潜む多数の軟体動物だった。ライオス達は産卵期に出会ってしまったため、激しい戦闘に発展してしまった。
 5巻33話に登場したドライアド。受粉(口づけ)の様子から始まり、蕾と実が発見されている。センシは蕾の収穫に制限をかけ、ドライアドの子孫を守っていた。
 9巻58話に登場したサキュバス。正体は獲物の理想の姿に化ける昆虫である。イヅツミの母親?に擬態した個体がサキュバスの子供を抱きかかえるなど、親子の描写が強く表れている。

 このように、迷宮では親と子の関係が頻繁に見られる。次世代に繋ぐという思想は子を成せない迷宮の悪魔やハーフエルフには共感しづらいと思われるため、どのように物語が進むのか楽しみである。

※種族差別を意図していないこと知っていただきたい。もし、気分を害したハーフエルフや不老不死の方がいたら申し訳ない。




〇おわりに

 【ダンジョン飯】には命を賭けた戦い、食物連鎖だけではなく、孤独の恐怖と他者への執着、生物としての子孫繁栄が描かれている。現在、迷宮の悪魔との戦いが続いているが、無限と有限がどのように決着がつくのか目が離せない。2024年1月にどうやらアニメ化を予定しているそうなので、今後の動向を見守っていこう。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?