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もしエンジニアのあなたが採用業務を任されたら

前職からエンジニアリング・マネージャー(EM)を名乗り始め、かれこれ5年程経ちました。EMとしての多くの時間をエンジニア採用に費やしてきました。
昨今では久松先生の著書「ITエンジニア採用とマネジメントのすべて」が記憶に新しいところではありますが、「エンジニア 採用」などでググれば、関連する情報が大量に出てくる時代です。それくらいにエンジニア採用市場は過熱しています。
このような状況下で、エンジニア採用業務にエンジニアが関わってくることも、いまや珍しいことではなくなってきましたが、一方で「何をしたらいいかわからない」「本業との折り合いの付け方がわからない」など、エンジニア側の悩みは今も出続けているように感じます。
この記事では、エンジニア採用を任されたエンジニアの方のために、採用業務の始め方をクイックにお伝えします。この記事を起点に、任された業務や疑問に思った点を中心に関連記事を読んだり、周りのエンジニアと話してみたりすることで、より良い採用業務ができることを願っています。
※本稿はnote株式会社 Advent Calendar 2022の23日目の記事です。

エンジニア採用にエンジニアが関わる意義

まず最初に、エンジニアのあなたが採用に携わる意義を改めて考えましょう。あなたはおそらく、誰かから大した説明を受けることもなく、唐突に採用活動に巻き込まれていることでしょう。責任感のあるあなたは、言いたいことをひとまず飲み込んで、採用業務を引き受けます。
なぜ、他の誰かではない、あなただったのでしょうか。どの会社も採用業務で人手が足りているということはまず無いですから、リソース確保の意味であなたに白羽の矢が立った事実はあるでしょう。それでも、あなただから出来ること、あなただから出せる成果はあります。以下は一例としてご一読ください。

候補者の意見を深く理解できる

エンジニア採用業務においては、エンジニアリングに詳しくない方が多く関係しています。そして彼/彼女たちは、現役のエンジニアであるあなたの支援を強く求めています。候補者の魅力に気づき、苦労に共感するのは、同じ職種であるあなたが適任です。

候補者からの心象を良くできる

もしあなたが転職活動を経験したことがあるのであれば、一度振り返ってみましょう。テックリードやCTOからDMが来て、その会社にちょっと興味を持ったことはありませんか?インターネット上で知っていた著名なエンジニアが面接で出てきたとき、緊張と同時にワクワクしたことはありませんか?今度は同じことを、あなたが候補者にしてあげる番です。

組織やプロダクトについての理解が深まる

他人に何かを教えたときに、むしろ教えた自分が深く理解した経験はないですか?採用業務においても同じことが言えます。候補者の方は自社のことを詳しく知りませんから、あなたの言葉で自社の魅力と課題を伝える必要があります。自分のチームや担当するシステムのことしか知らなかったあなたも、段々と会社全体が見えるようになってきます。俯瞰する視点を持つということは、採用業務から離れても有効なスキルです。

アウトラインを知る

登場人物を知る

  • 候補者
    採用活動を通じて、あなたが一緒に働いてもよいと思える可能性を持つ方。あるいは、自社に興味を持ってくださり、選考意欲をお持ちの方。

  • 採用人事
    自社の採用活動全体をファシリテーションしている人物。会社によってはコーポレート機能全体を一人で回していたり、あるいは経営陣のどなたかが兼任されていたりします。0名〜数名のごく少数で構成されていることが多いようです。
    昨今ではWebエンジニア出身で採用人事にジョブチェンジする方も見かけるようになりましたが、まだまだ少数派で、エンジニアリングについて深い知識を持っていない方が多くいらっしゃるのが現状のようです。

  • CEO/CTO/VP of Engineering
    候補者が選考に進んだ際に、最終的に内定を出すか決定する人物。多くの会社の場合、内定者の提示年収も決定権を持っています。

  • 転職エージェント
    自社の従業員の代わりに候補者を探し、候補者と交渉し、選考まで誘導してくれる企業の方。採用人事と同じく、エンジニアリングについて深い知識を持っている方は少数派のようです。

  • 広報(PR)/技術広報/DevRel(Developer Relations)
    候補者が自社を知り、選考に進んでくれるまでを支援してくれる方々。昨今では、オフラインイベントよりも、オンラインイベントやSNSの利活用が多くなってきており、戦略的な情報拡散は必須になってきています。

  • エンジニアチームのリーダー・EM
    候補者の選考について、通過・不通過を判断する人物。EMポジションが在籍している会社はEMがリードしていますが、不在の会社はエンジニアチームのリーダー・マネージャーなどが対応していることもあります。
    ※この記事の対象者はここに当てはまる想定。

選考フローを知る

2019年にWantedlyさんが公開した「リクルートメント・マーケティング入門」という資料がとても良くまとまっていますが、かいつまむと選考フローには6プロセスあります。

  1. 認知
    候補者が、自社や自社が運営するプロダクトを知っている状態。社名とプロダクト名が一致している場合は認知されやすいようです。ブログを書いたり技術イベントに参加したりすることで、面接や面談が苦手なエンジニアでも比較的着手しやすい部分でもあります。

  2. 興味
    候補者が、認知している会社・プロダクトに参画したいかどうか迷っている状態。カジュアル面談はこの段階でよく実施します。カジュアル面談は選考ではないので合否判定はしません(してはいけません!)。選考に進んで頂くためのご案内をする場なので、人によっては面接より難易度が高く感じる場合もあるようです。

  3. 検討
    候補者が転職活動を本格的に開始し、選考を進める会社を選定している状態。

  4. エントリ
    候補者が自社に応募した状態。
    流入経路は3パターンに分類できます。
        a. 自社(自社採用サイトから自己応募、あるいは自社従業員への連絡など)
        b. 媒体(転職媒体を通じた応募)
        c. エージェント(転職エージェントを使った応募)

  5. 選考
    自社の選考プロセスに従い、候補者が採用要件にマッチしているかを判断する状態。
    書類選考・コーディングテスト・面接などがよく用いられます。
    マネージャーや人事から「採用を手伝って」と言われたエンジニアが、真っ先に投入される部分でもあります。

  6. 採用
    候補者に対して、所属してもらいたいポジションと、入社時の年収を提示する状態。
    もし候補者が他社の内定を辞退し自社の内定を承諾したら、入社が確定します。

候補者に選考に進んでもらうまでに出来ること

Job Description(求人票)の作成

入社後にご活躍頂けそうな人物像(=採用ペルソナ)を具体的にイメージします。要件をあれこれ追加していくと、いつの間にかスーパーマンを期待することになりがちです。世の中にはそう何人もスーパーマンはいませんし、運良くスーパーマンを見つけられたところで、そのスーパーマンはあなたを選んでくれるでしょうか。私達が採用を通じて獲得したい本当に必要な人物とは、同僚たちが解決できないようなチームの課題を解決できる人物です。
    a. チームが解決したい課題はなにか
    b. 私達が候補者に提供できるもの(強み・魅力)はなにか
を端的に述べましょう。

情報発信

採用対象が興味を持ってくれるような情報発信をします。候補者は年中転職活動をしているわけでもないですし、ずっとTwitterやはてなブックマークをチェックしているわけではないです。転職意欲が少しでも上がったときに視界に入っているために、継続的に自社の情報がインターネット上に供給されている状態が望ましいです。
そのためには広報/技術広報/DevRelと協力して、以下のことに挑戦してみましょう。
    a. ブログを書く/動画やポッドキャストを投稿する
    b. Twitter/Facebook/はてなブックマークで情報拡散に協力する
    c. 技術イベントに参加する(登壇するとよりGood)
情報発信すること自体に価値はあるのですが、成果としてより精度をあげるために、以下のような指標を計測するのが良いでしょう。
    a. はてなブックマーク数
    b. 記事/動画のPV数, Twitterのインプレッション数
    c. 記事/動画経由でのカジュアル面談成立数

スカウト

自社と接点の無い候補者にバイネームでアプローチする、ほぼ唯一と言って良い手段です。優秀な候補者ほどスカウトメールを大量に受け取っています。
以前はテンプレをコピペしたスカウトメールが大量に出回っていた時期もありましたが、メール開封率のあまりの低さから、最近は1通ずつ時間を掛けてスカウトメールを作成する企業が増えてきています。
インターネット上で公開されている記事やスライドに目を通し、
    a. どの部分に共感したか
    b. どういった点が自社で活かせそうか
    c. 自社からどんな魅力が提供できるか
を端的に述べましょう。

リファラル

優秀な人材は優秀な人材の周りにいるものです。自社で活躍しているエンジニア(それはあなたです)が、かつて共に働いたチームメイトの中にも優秀な人材がいるはずです。
同僚の中でも、誰がよりふさわしいか、悩むかもしれません。メモリーパレスというフレームワークがあるので、試してみましょう。

最近ではYOUTRUSTによってリファラル採用がより手軽に行えるようになってきていますので、アカウントを作って繋がりを増やしておきましょう。

流入経路の使い分け

上述した通り、応募に関する流入経路は3パターンあります。それぞれについて、もう少し具体的に見ていきます。

自社採用

採用ページがない会社は無いと思いますが、分類すると以下のようになります。

  1. 自社で採用サイトを独自に持っている
    →コンテンツやデザインの自由度は高いが、更新の手間がかかる

  2. 採用管理システム(ATS: HRMOS, Talentio, Herp, etc…)のJob Description一覧ページで代用している
    →選考後の候補者の管理が楽だが、候補者に興味を持ってもらうためのコンテンツは別に用意しなければならない

  3. 転職媒体の企業ページで代用している
    →候補者管理もコンテンツ管理も楽だが、特定の転職媒体にロックインしてしまうし、転職媒体のステータス(不具合発生・メンテナンス・サービス終了)にもろに影響を受ける

転職媒体

エンジニア採用に強みを持つ転職媒体はいくつかあります。費用面と運用工数を見ながら人事が選択しています。

転職エージェント

転職エージェントは強みにしている領域がそれぞれ異なりますので、自社に合う転職エージェント・担当を探すのが重要です。どういった人材にリーチ出来ているかを確認するために、ブラインドレジュメチェック(個人情報がマスキングされた状態の職務経歴書を見せていただいて書類選考をする)が有効です。
転職エージェントの方々からより精度高く候補者をご紹介頂くために、定期的に社内の状況を共有したり、Job Descriptionについてご説明したりすることも重要なことです。こちらは主に採用人事が担当してくれていると思いますが、必要に応じて会議に同席するなどして支援しましょう。

候補者が選考に進んでくださったら

候補者に早く入社してもらいたい気持ちを抑え、厳密に・公平に選考をしましょう。無意識な偏見はポジティブにもネガティブにも起きやすいので、注意が必要です。特に知人・友人が候補者になっている場合はフェアな判断がしづらいので、そういった場合は選考を代わってもらうかダブルチェックを依頼しましょう。

書類選考

職務経歴書からスキル面のチェックを行います。候補者の職務経歴書は情報が十分でないこともよくありますから、判断に迷ったらインターネットで検索して情報を追加します。
スキルは必ずしも採用要件にマッチしている必要はないときもあります。今までに使ってきた技術にかなり精通している方であれば、技術に対する感度が高いことが見込めますから、入社後も比較的早く戦力になってくれるかもしれません。
Web業界では、かつては3年在籍したら転職する、という風潮がありました。流行り廃りの早い業界ですから、10年以上同じ企業に在籍される方はあまり多くないように見えます。最近はより短期離職化が進んでいて1,2年で転職している方も多く見かけます。
意義深い(あるいはやむを得ない)転職であれば1,2年で転職しているのは問題ないですが、ジョブホッパー(自分と会社との間でなにか齟齬が生じるとすぐ転職する・あるいは興味関心が移り変わりやすい)の方は組織に定着しづらい傾向もありますので、面接で注意深くお話を伺うようにしましょう。

面接

候補者の強みと弱みを短時間で引き出すには、候補者に如何に自然体で話してもらうかが重要です。共感を示したり、候補者の発話内容を復唱したりすることで、話しやすい場であることを理解してもらいましょう。
一次面接では「悩んだら通過」、二次面接以降では「悩んだら不通過」が基本です。
採用基準が明確にされている会社もあるようですが、そうでないところも多いので、いくつか着眼点を列挙します。

  • 同僚の誰よりも優れた才能/リードできるスキルを持っているか
    →採用は「自分より強いひとを採る」が基本です。自分と同等の人材・あるいは教育すれば戦力になる可能性のある人材、というのは採るべきではありません。これはたとえ新卒採用/第二新卒採用/ポテンシャル採用でも同じです。

  • HRTを自然に使いこなせるか
    Team Geekに記載のある謙虚・尊敬・信頼の3要素を、人として使いこなせるかが重要です。自分に傲慢な人、他者をリスペクト出来ない人、どんな環境でも信頼関係を構築できない人は採るべきではありません。

  • 他責傾向・他者に対する攻撃傾向がないか
    →過去の経歴のなかには、うまくできなかった出来事もあるはずです。誰でも失敗に直面することはあって自然なことです。失敗を分析した際に、責任転嫁していたり、自分に裁量があったはずなのに改善していなかったりしたら、入社後にも同じことを繰り返す可能性があります。

  • 学習思考があるかどうか
    →エンジニアは役割や環境が変わるたびに必要な知識を会得する必要があります。採用活動を依頼されるほどのあなたであれば、それはよくわかっていることと思います。技術を楽しめることは大前提ですが、技術を知って身につけていくことにはスキルが必要です。

  • 過去の出来事を客観的に振り返れられるか
    →面接では基本的に過去の経歴を聞きます。未来のことはどうとでも言えるし、過去のことは覆しようがないからです。未来のことを聞くときは、選考途中で選考ポジションを変えたいときや、内定見込みが高いときのアトラクトで用います。
    過去の出来事を振り返ったとき、うまくいったことを誇張なく評価できているでしょうか。うまくいかなかったことを冷静に捉え次に活かせそうでしょうか。

内定後に出来ること

多くの候補者は自社を含め複数社の選考を同時に受けています。優秀な方であれば他社も内定が出ていることでしょう。自社のオファー金額よりも遥かに高い金額でオファーを出している企業もあるでしょう。
オファー金額・福利厚生・内定条件はかんたんには変えることが出来ませんから、如何に自分たちが待ち望んでいるかを真摯に伝えていくしかありません。

オファーレター

オファーレターでは選考時の評価ポイント・入社後にどんな仕事をしてもらいたいかを書くケースが多いですが、大切なのは「候補者に何を提供できるか」です。候補者はなにか理由があって転職をするわけですから、その理由を満たす十分な環境が自分たちから提供できることを明らかにしましょう。

オファー面談

オファー金額・内定条件を伝えるとともに、入社意思を高めてもらうための対話を行います。内容はオファーレターと同等でも良いですが、候補者の懸念事項や他社比較にはできるだけ正直に答えましょう。

オンボーディングプランの検討

内定承諾を頂けたら、入社後にできるだけ早く慣れて頂けるよう、フォローアップの体制を構築します。どんな資料を読めばいいか、ステークホルダーとどのようにコミュニケーションをすればいいか、チームによって色々あると思います。入社後にほったらかしになるというのは印象が良くないですし、協力体制を作るのに時間がかかりますので、初動が肝心です。

自分に出来ることの見極め

さて、ここまでお読み頂いたあなたは「こんなにやることあるの」とウンザリしていることでしょう。
採用活動全体のファシリテーションは採用人事がやってくれますし、採用業務の負荷はメンバー同士で分担しながらやっていきましょう。ひとえに採用といっても、やることは多岐にわたりますから、まずは出来ることから始めると無理なく出来るかもしれません。
とは言っても同じ目線で作業分担できる同僚がいない・・・と嘆く方も中にはいらっしゃるでしょう。特に小さいチームや会社だと起きがちです。すぐにそういった問題を解決するのは難しいかもしれません。あなたと切磋琢磨し、時にはあなたをリードしてくれる人材に入社して頂けるよう、採用活動を継続しましょう。

終わりに

最後までお読み頂きましてありがとうございました。
採用活動をする方々に対し、少しでもお力になれていたら幸いです。
各種SNSをやっていますので、よかったらフォロー頂けるとなお嬉しいです。

note株式会社 Advent Calendar 2022、明日は @littlekbt さんです。お楽しみに。

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