第141話 ワールドカップ
僕は、中高サッカー部であった。
一時期社会人サッカーもしていたが、部活並みの厳しさだったので、一度挫折してしまった。
ただ、懲りずに今のワールドカップ熱に晒されて、また、友達と社会人サッカーを再開しようと画策している。
残念ながら、日本はベスト8に届かなかった。さまざまな見方はできるかもしれないが、とても夢をもらえたし、クロアチアに対して、引けを取らない動きをできていたと思う。それでも、涙を飲むのが世界の高さなんだなぁと、色々考えさせられた。
今でこそ、悔しがっているが、当初僕は、グループリーグは早々に日本は敗退するだろうと勝手に思っていた。なので、ドイツに勝った日は、テレビの前で一人はしゃいでいて、しばらく眠れなかったものだ。
うちで、サッカーに興味があるのは僕だけ。ゴールが入るたびに、絶叫している僕を見て、
「うっさ」
ママは冷静だ。
毎夜、サッカーを見る僕に対して、
「それ、私のテレビなんだけど」
今大会から、ネットメディアが放映権を勝ち取ってくれたため、いつでも自由に見れる環境ができたと言うのは、とてもいい時代だ。
僕は、あまり使われてない部屋で、人知れずに熱狂することができた。
まぁ、今日、昼頃アルゼンチン対オランダの録画配信をこっそり見ており、後半終了間際にオランダが追いついたとき興奮してたら、ママから結果をネタバレされるなど、そういうことはあってしまうのだが。
さてさて、このようなことになっているのは、もちろん僕の行いの連鎖というもの。家族間での行いの積み重ねは、不可逆的なものになっていくのだと遠い過去を懐かしみながら痛感する。
連鎖の始まりは、おそらくママと付き合うようになってすぐの夏祭り、花火を見に行こうと約束していた。
僕はその日、フットサルをしており、ママを迎えにいく時間が予定より遅くなり、結果、渋滞の中、車の中から、花火を見ることになった。
ママは、ピンクの可愛い浴衣を頑張って着て準備して待ってくれていた。その時は、こんなのもいいね、と前向きに捉えてくれていたが、今思い返すと、ママがサッカーを嫌いになる種まきを僕はせっせとしていたんだろうと思う。
そして、前々回のワールドカップ、僕はその頃も変わらず熱狂していた。
長男のひーくんが、ママのお腹の中にいる頃だ。友達とも遊んだり、大好きなワールドカップを楽しんだり、僕は好き勝手をしていたと思う。
日本戦の録画予約をママに頼んだとき、連鎖は絡まり膨張し破裂した。あの日は僕にとってのミネイロンの惨劇であった。
昼間なのに、カーテンは閉め切られ、電気はついておらず、僕は俯き正座をしていた、あの日は忘れられないものとなっている。
そんなことをお腹の中で経験していたひーくんは、だからきっとあんなに争いを嫌う子になっているのかもしれない。
ワールドカップが来るたびに、4年ごとに僕は熱狂と後悔を思い出すのだ。
今回、日本の戦いは終わったが、まだワールドカップは終わっていない。最後まで、寝不足の毎日を続けながら、新たな連鎖を引き起こさないように細心の注意を払わなければいけない。
もう僕にとってのミネイロンの惨劇を、今回ブラジルは負けてしまったが、もうあんなことは、絶対に起こしてはいけないのだ。
そう、そこには絶対にやらかしてはいけない、でも楽しみたい、そんな大袈裟なようでくだらない戦いがあるのだ。
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