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鹿児島旅行2日目

 目が覚めて時計に目をやると7時。がさこそと洗面所から音がする。お嫁さんだ。起きていた。俺たち寝坊してない?ちがうよ予定通り。そんな会話を交わす。出発の荷造りをする。飲み切れなかった焼酎と炭酸水をどうするよ?持って行くつもりで買ったんだから持って行く。昨夜食べたハンバーガーの紙袋に900ml瓶と1Lペットを入れる。これで一日片手がふさがることが確定。そうならないよう出発前に、荷物をリュック一つにまとめたのだが。この子(焼酎)を置いていくことはできない。飲み切るまでは共に行く。

 いい夜をありがとう。さらばホテルマイステイズ。


 本日は午後から雨の予報。レンタサイクルをまた拾ってフェリー乗り場まで。フェリーは1時間に3本の運行。夜中にも便はあり運賃200円。そのフェリーがでかい。続々と車が腹に吸い込まれていく。これは地元の足だな。観光用でこうはならない。我々も乗船する。そして船内にやぶ金を探す。お嫁さんが友人から勧められたうどん屋だ。俺は全部のっけ的な島津桜島うどんを注文。お嫁さんはごぼ天うどん。

やわらかい麵だった。


 食った後はデッキに上がった。港を出るとみるみる桜島が迫って来る。航海時間は体感10分ぐらい。もっと乗っていてもよかった。

 9時前に桜島に到着。上陸して港に街はない。あれ?そうなんだ。フェリーに乗っていた人も車もすぐにどこかへ消えた。我々も桜島ビジターセンターに向かう。自転車を借りて観光バスルートを走ってみる作戦だ。
 作戦は失敗した。センターで係の人が俺に聞いてきた。「すごいに上りますよ?」「電動ですよね?」「電動じゃありません」 隣の国民宿舎に行く。こっちには電動のレンタルがあるという。「貸出は10時からです」
 展望台へはバスだ。バスで行ってバスで帰る。何かさびしい。バスの時間まで20分ほどあるので、1つ先のバス停まで歩くことにした。お嫁さんの提案だ。

 実際歩いてみて、このバスルートは期待していた海沿いを通っていない。オーシャンビューなし。桜並木ではあった。花も少し残っている。我々の他、道に歩く影はない。ネコはいた。島の色味がどうにも煤けて見える。きっと火山灰のせい。道沿いにコンクリートで囲われた避難所を見つけた。飛来する噴石避けらしい。危ないよ。これが桜島で暮らすということ。そんな頻繁に飛んでくるわけでもなかろう。

 烏島展望所でバスに乗る。かつてここに烏島という島があったと言う。大正噴火の溶岩流に飲みこまれちゃった島。それで今現在、周回バスのバス停が立つ地面となっている。すげーな噴火。そんな歴史を展望台のプレートで読んだ。そして更なる事実を知る。桜島は俺らのいる島の逆側で大隅半島とつながっているというじゃないか。それ島じゃないじゃん。地図を改めて見てみるとつながっている。島と半島をこれも大正噴火の溶岩流が橋渡ししたのだ。じゃあ、アレだ。フェリーが運んだ人も車も、大隅半島の人を含んでいたんだな。鹿児島市内の方が店も仕事もありそうだもん。

 バスに乗って当初の目的地、湯の平展望所に直行の予定が、桜島国際砂防センターでアドリブ下車。目の端に入った入場無料の案内を俺は見逃さなかった。次のバスは1時間後。
 入館すると静かな館内におじいちゃん係員が一人。桜島の秘密を示すパネルが並ぶ。桜島が浮いている湾は丸ごと2万9千年前の大噴火で出来たカルデラなんだってね。大正噴火もすごいが、その比じゃない。この大噴火で今の鹿児島県全域に60mの火山灰が積もったそうで、それでは県民全滅だ。大自然の力に畏怖する。展示をこってり読んでいるとおじいちゃんが「こっちが見どころ」と隣の部屋を勧めてくる。わーVRで桜島南岳火口探検だって。VRゴーグルを装着。砂防の涸れ川を遡上して、煙吐く火口に入るまでをドローンの視点で体験する。VRなので俺がぐるり首を巡らすとその場にいるように岩肌、空、海と視界が移る。見上げればドローンの機体。おもしろかった。1時間学んで館外に出る。バスの時間だ。改めてセンターを見ると展示があったフロアは一部。残りは砂防の実務をする仕事場なんだろう。

SABOは砂防


 当初の目的地、湯の平展望所に着く。なんとこの展望所の真正面に、さっきVRで遡った砂防の涸れ川があるじゃないか。俺、そこ、探検してきたばっかり!

このど真ん中の峡谷を遡上した


 展望所には売店があった。ご当地ビールを飲む。旅のだいご味である。お嫁さんが桜島Tシャツを買う。そしてそのTシャツを、はい、と渡される。俺の手持ちのTシャツはこのように購入された観光地Tシャツが半分を占めている。三たびバスに乗って港に帰還。何とか桜島を堪能できたかな? フェリーに乗って鹿児島市内に帰る。雨はパラパラと降り始めたが、これぐらいなら降ってないのと同じなので、レンタサイクルを拾って昼飯のお店まで漕ぐ。

 昼食は山形屋食堂で取った。老舗デパートの7階に店を構える食堂だ。

老舗デパート山形屋。かっこいい


 並んだがすぐに案内されて、すばらしい雰囲気。昭和レトロ。清潔な店内にテーブルがずらり100個並び、満席。デパートが休日の一番人気だったあの頃の活気に満ちている。注文を聞かれて「お子様ランチとクリームソーダ!」と答えた。嘘です。この山形屋食堂の一番人気は、焼きそば。…焼きそば?

焼きそば


 見回すと半分のお客さんが皿うどんを食べている。焼きそばは皿うどんでした。お嫁さんがそれを注文する。俺は松花堂弁当と赤ワイン。うまかった。実はこの食堂に入る前にデパ地下を覗いていた。覗くに止まらず黒豚串カツと黒豚コロッケとシュークリームをいただいていた。食べすぎ。うまかった。鮮魚コーナーの品ぞろえには、実に、圧倒された。

 今度は路面電車に乗って鹿児島中央駅へ向かう。路面電車難しかった。上り下りの片側だけが止まるという駅があるのだ。一度そのトラップに引っかかってから、鹿児島中央駅にたどり着く。この駅から今夜の宿、指宿白水館に向かうのだ。

 ビールを買って指宿枕崎線に乗り込む。ここにもトラップがあってICカード不可。しっかり1回トラップに引っかかってから電車に乗る。電車の行程の半分程度は正真正銘海岸のキワキワを走る。これが青空だったらと車窓を眺める。曇り空は白い。空の色を映して海も白い。ポツリ、ポツリと船が白い錦江湾を行きかう。向かいの大隅半島が影となって見えるんだか見えないんだか。ビールはうまい。

頭の中では演劇の台詞を回している


 17時前に指宿に着く。まだ明るい。あれ?駅前は寂れているのね。煌びやかな観光地を想像していた。土産物屋が並ぶ参道のような。だってただの温泉地じゃないだぜ?砂むし風呂があるんだぜ? 今夜の宿の白水館にも砂むし風呂はあるが、俺たちは砂浜でパラソルの下に埋まってみたい。砂浜を求めて砂むし温泉砂楽までタクシーに乗る。本当は自転車レンタルがよかった。観光案内所で試みたけど断られた。案内所は17時閉店。日を跨いだレンタルはしないとのこと。
 砂楽では砂浜に案内されるも砂浜には屋根があった。何なら壁もあった。有体に言って小屋の中だ。雨か。雨の日はそうなるのか。今は降ってないけど降ってたしな。小屋の中で埋められる。俺は大学の夏合宿を思い出す。まあこんなもんかと思う。熱海の砂浜で埋められた時もこんな感じだった。一方お嫁さんは大満足。「これたのしー」を連呼。なら、よかった。

 宿まで3キロ弱の道を歩く。今度はタクシーが捕まらなかった。自転車が借りられていればなあ、と思う。閑散とした道に歩く者はない。そのうち真っ暗になる。コンビニの明かりが恋しい。お嫁さんは尿意、俺はリュックを背に両手には紙袋とショルダーバッグを抱え、這う這うの体で宿に着く。砂むし温泉指宿白水館。将棋ファンにとって、この宿は聖地巡礼に当たる。

やっと着いた。文明の明かりだ


 竜宮城ですよ。この宿は! 思っていた以上に拵えが立派、でかい。本館、別館、新館の他まだ1つある模様。薩摩伝承館という博物館も併設。お食事処4カ所。ラーメン居酒屋1店、喫茶1店、土産物屋、全部館内にある。焼酎道場って何だ?他にも何かいろいろ。部屋に案内される道中、目に入る白水館の仕掛けにトキメキが止まらない。とはいえ本命は風呂。駆けつけ一杯風呂を引っ掛ける。砂むし風呂からの、大浴場元禄だ。いや、ついさっき砂楽で入ったばっかりなんだけどね。

 藤井八冠が「竜王位よりも重い砂」と称した砂むし風呂の砂を俺も被る。砂楽の砂とは一味違う。藤井八冠がこの砂を…と思うと、俺は角一枚強くなった。お嫁さんと並んで埋められた写真を撮ってもらう(冒頭の写真)。15分我慢した。汗だくになる。汗と砂を落として大浴場へ。

 大浴場元禄であるが、なるほど大浴場だった。でかい。天井が高い。空中に通路が立体通過している。あの通路は俺が砂むし風呂に向かって歩いた道。このだだっぴろい空間に客は俺一人。…今は食事時だからだろうか。我々は素泊まりなのでここにいる。この閑散は食事時だからということならいいんだけど、独り占めの特別感よりは経営の心配が先に立った。ともあれいいお湯でした。いいサウナでした。温泉の色は無色透明。濁って見えるそれは湯の華。しょっぱいのとしょっぱくないのがある。打たせ湯がしょっぱい方なのはどういう意図か。そこはしょっぱくない方が。

 素泊まりなのでラーメン居酒屋で夕食を取る。麵屋二郎。その屋号に見覚えあり。鹿児島市内でブイブイ言わせていたチェーンだ。店に入る前に一回、部屋に戻る。浴衣ではポロリが気になるお嫁さんの着替えのため。
 戻った部屋で風呂上りのビールならぬ焼酎の炭酸割り。アテにはチーズさきいか。焼酎は道中の相棒のあいつ。チーズさきいかは館内のお土産物屋で買ったもの。うまい。

 麵屋二郎で、俺は指宿ラーメンお嫁さんは鹿児島ラーメンを注文。普段ならラーメンにはビール一択のところ鹿児島なので焼酎。下戸のお嫁さんはウーロン茶。おつまみに鶏刺しと焼き燻製サバハラミも注文。ラーメンは双方魚介とんこつで指宿ラーメンはそれに焦がしニンニクをプラスしたものか。雑な感想で申し訳ない。双方うまかった。鶏刺しもうまかったけど親鳥がよかった。

 部屋に戻って、さきいかの残りを平らげるまで焼酎の炭酸割りを飲む。焼酎はまだまだ3分の1が残った。明日も一緒に行こう。お嫁さんが先に寝た。明朝であるが10時のチェックアウトまでに、もう一つの浴場松雲と、もう一回元禄に入らないといかん。風呂は5時に開く。



この文章で上がった収益は、全てボス村松の演劇活動と植毛に充てられます。砂漠に水を。セイブ ザ ボース。