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閑人閑話  「 3ヶ月はモノを買うな、という時代。」

少品種大量生産があたりまえだった時代に、自転車会社に勤めていた。家庭用や子供用から競技用の自転車まで、あらゆる種類のものを生産していた。

新製品が決まると、部品の調達、生産ラインの設定、組付け手順、完成品の品質などを確認するために、最初に量産試験(量試)という少量の生産を行なった。

量試の結果生じる課題に対応してから、本格的な量産スケジュールが組まれた。

量試で課題が生じるとラインを止めて対処したり、組みあがった後に調整し直したりして、完成した自転車は普通に販売していた。品質に問題があるわけではないけど、事情を知ってしまうと敬遠したいものだった。

こうした段取りは量産する製品には共通したもので、自動車や家電のメーカーに勤めていた友人たちとも同じような話をしていた。

生産ラインでは見つけられなかったことが、ユーザーからのフィードバックで判明することもめずらしくなかった。量試の製品を購入した方々は、会社側から見ればテスター的な役割も担っていた。

経験を積んでいくうちに、新しい製品の品質が安定するまでのタイムテーブルの目安を学んだ。

量試で作られた製品が出回って、修正すべきと判断できるだけの情報が会社に集約されるまで1ヶ月、修正内容を検討し生産ラインに反映させるまで1ヶ月、修正された内容で量産された製品が市場に出まわるまで1ヶ月。
第2段、第3段があったりもするのだけど、発売から3ヶ月程度で大きな課題は改善され、品質が安定していった。

いわば発表されないマイナーチェンジ。

当時の私は、多くの工業製品でこうしたことが起きていると体感した。
それからはどんな新製品も発売から3ヶ月は手を出さないようになった。


時代は変わる。

多品種少量生産の現代では、一気に作り溜めたら次の生産は未定ということが多くなったのだろうか。在庫切れになると、次の入荷がいつになるのか分からないことが増えている。

欲しくてもすぐには手に入らない製品の割合が大きくなってくると、新製品情報を見逃さないようにして、発売と同時に入手したくなる。

クラウドファンディングという、まだ存在しない商品を購入するという手段まで一般的になり、もはやロットを重ねるごとに品質を改善する発想そのものが当てはまらないのだろう。
課題は次の製品で対応するということかもしれない。

もう「発売から3ヶ月は買わないゾ」などという悠長な理屈は通らない。
ガジェットを発売日に手に入れるために盛り上がってる人たちも、初期ロットの品質には関心がなさそうだし。

一億総テスター時代みたいにも思えて、世の中変わったなぁと思う。

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