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自衛官と痛風:贅沢してないのに贅沢病

割引あり

自衛官で松葉杖をついている人を見たことはあるだろうか?
「激しい訓練で怪我でもしたんだな…。お疲れ様です!!」
そう思う人がほとんどだろう。
だけど私の経験から言うと松葉杖の自衛官には何人か紛れている、痛風患者が。

自衛官は生活習慣病がとても多く、中には痛風発作が発症してしまう人もいる。
今回は自衛官の痛風に関して書いていくよ。


痛風ってなんなの?

まず痛風が説明していこう。
痛風とは尿酸という物質が溜まり、関節に尿酸の結晶ができてしまう状態だ。
顕微鏡で見た尿酸結晶の画像はこれだ。

引用:東京大学附属病院 予防医学センター HP

こんなトゲトゲした結晶が関節にできるんだ。
簡単に想像できるだろう、そう死ぬほど痛くなる。
「風が吹いただけでも痛くなる」から痛風なんだ。

痛風が出来やすい部位は足の親指が最も多い。
大体外来に受診する患者は足の親指を真っ赤にかつパンパンに腫らして受診する。
そして少し触診しただけでも激痛で顔を歪ませる。

「風が吹くだけでも痛い」状態なので歩くだけでも辛い。
人類にとっては小さな一歩だが、痛風患者にとっては地獄の一歩だ。

そして駐屯地はバカみたいに広い。
激痛に耐えながら死ぬ思い(大袈裟ではなくそのくらい痛い)でやっと医務室まで必死にたどり着いた患者に告げられる。
「痛風発作を綺麗に抑える薬はない。痛み止めで痛みを”ほんの少し”和らげるだけだ。」

痛風発作の直前から12時間以内であればコルヒチンという飲み薬が効果的と言われている。
ただそんなすぐ受診できないのが自衛官だ。
大体コルヒチンの効果が出なくなる頃に受診する。
そして鎮痛薬と松葉杖を処方されて、また職場に戻っていく。
痛風患者は駐屯地にたくさんいるので、痛風ごときで休む人はいない。

痛風はどんな人に起きるの?

前述した通り、尿酸が結晶化して起きるのが痛風だ。
そして痛風は高尿酸血症という生活習慣病の症状の一つだ
血中の尿酸が高いことを高尿酸血症という。

血中の尿酸値がある程度まで上がった状態で、暴飲暴食、激しい運動などが誘因となって痛風が起こる。
元々高尿酸血症と指摘されていた人も、初回の痛風で初めて発覚する人もいる。

初回の痛風で高尿酸血症が起こる人は後述する理由で若い人が多い。
対して健康診断で尿酸値が高いと言われていたにも関わらず、受診しなかったりサボっていたりしていた人は年配者が多い。
治療に難渋するのはこの年配者たちだ。

痛風(高尿酸血症)は贅沢病?

昔は痛風発作が起こるのは贅沢をしていた人に多かったため、贅沢病と言われることもあった。
また歴史上の偉人(マケドニアのアレクサンダー大王やフランスのルイ14世)などが痛風に苦しんでいたことから帝王病とも言われることがあった。

ただ戦後、庶民の食生活も向上することでそこまで贅沢をせずとも(また帝王にならなくても)痛風発作を起こすことが増えてきた。
これらの患者の特徴として、中年男性で肥満体型であり運動などをしない「見た目だけは中世貴族」のような人が多い。

先ほど述べた治療に難渋する年配の自衛官はまさにこのタイプだ。
「自衛官なのに運動しないの!?」と思った人もいるだろう。
自衛官は様々な職種があってデスクワークなども多い。
また海上自衛官などは狭い艦艇で運動がしづらいこともあるんだ。

そんな彼らを擁護したい。
彼ら年配の自衛官は決して怠惰なのではない。
忙しすぎるのだ。
自衛隊は万年人手不足で、特に中間管理職が少ない。
若手は入っても任期が終わるとすぐに辞めてしまう。
そうなると仕事は残った中年自衛官に集中してしまうんだ。
仕事は忙しく、運動する暇もなく、そのストレスは酒または食事で発散する。そして忙しさから通院を中断しやすい。
こうして中年自衛官の生活習慣病は悪化していくんだ。
彼らは決して贅沢などしていない。
自衛隊からは贅沢するほどの給料は出ない。

彼ら中年自衛官は健康診断ですでに高血圧、高尿酸血症などの生活習慣病を指摘されていることが多い。
ただ生活習慣病はその名の通り主に生活習慣が原因だ。
薬で数値を安定させることはできるが、運動不足、塩分過多、寝不足などの生活習慣を改善させなければ根本的な解決にならない。
そしてこれらの悪習慣は自衛隊生活と結びついている。
そのため中年自衛官の高尿酸血症は改善が難しく、痛風発作を繰り返すこととなる。

ただ2回目以降は痛風発作初期に飲む薬(コルヒチン)を処方するので、発作は軽く済むことが多い。少なくとも松葉杖がいらない程度にはなる。

尿酸の溜まりやすさは体質

では痛風発作で高尿酸血症であることに初めて気づく若い自衛官の生活習慣が悪いのだろうか?
中にはそういう人もいるが、若い痛風患者のほとんどが体質が原因だ。

血中尿酸値の高さは生活習慣に加えて遺伝要因が関係しているんだ。
尿酸は文字通り尿中に排出されるが、ある遺伝子異常があると尿酸が排出されにくくなる。つまり高尿酸血症となりやすくなるんだ。

そのため生活習慣が良好でも、この遺伝子異常があることで高尿酸血症となっており、本人も気づかないうちに痛風となるんだ。

このタイプは体質なので基本的に内服薬を飲み続けることとなる。
ただし生活習慣に問題がない人が多いので、痛風発作を繰り返すことは少ない。

痛風・高尿酸血症の実態解明に自衛隊が活躍している

さて自衛官の痛風・高尿酸血症について説明してきた。
ここまでの話だと生活習慣が悪い自衛官が足を引きずっているだけのイメージで終わってしまうだろう。

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