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卒寿

 僕の母親は6LDKの家に独り暮らしである。かつてはここに6人住んでいたことを思うと感慨深いものがある。爺さんと婆さん、父親と母親と僕と妹だ。爺さん婆さん父親は鬼籍に入り、僕と妹はそれぞれ家を持ち、母親だけが、広い家にポツンと住んでいる。
 次の誕生日で卒寿である。最もまだ半年以上はあるが。毎回「誕生日の際にお祝いをして貰うと早死にするからいらん」といっていた母親も90歳になるのだから、もはや早死にすることはあるまい。
 足腰が多少弱くなってきたのを除けば、頭はしっかりしているし、元気である。シルバーカーを押して、近くのコンビニに買い物に行くこともできる。もっとも食材はもっぱら生協に注文してはいるが。
 89歳の時にスマホをプレゼントした。89の手習いである。LINEを打ち込むことはまだできないが、LINE通話はできる。その他ヤフーの記事なども読むことができるようだし、年齢から考えると十分合格点である。
 最近の悩みは友達がどんどん減っていくことのようだ。他界したり、ボケて入院したり。それでもまだ数人長電話をする友達はいるようで、おかげでボケ防止になっている。独り暮らしで誰ともあわずに喋らずにいたら言葉を忘れてボケてしまう。
 僕も無料のLINE通話でたびたび連絡は取っている。受話器の向こうまでしっかり聞こえる大きな声で反応してくれる。声だけ聴くと90近い婆さんとは思わないだろう。
 さて卒寿のお祝いには何を送ろうか。今から考えておかなければならないな。

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