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ピッチャーとキャッチャーとバッターと

今回はこの記事からヒントを得てみました。
ここにはこう書かれていました。

そして今季の西武の「鍵」。当然の中軸と、1番打者の秋山だった。リーグ順位が決まると、コーチ陣に資料の洗い直しを指示。データ班が用意した200ページものPDFファイルも踏まえ、対策をすり合わせた。
西武のみやざきフェニックス・リーグでの調整もスコアラーが撮影。秋山が特定のコースで示す反応を把握し、攻めを徹底した。データ班は不調時の秋山が示す傾向も把握しており、それは今CS5試合中4試合で一致していたという。結局、リーグ打率2位の切り込み隊長を5試合で3安打に抑え、獅子脅し打線のパワーをそいだ。

なるほど、スコアラー総出でデータを洗い直し、捕手がそれを生かし秋山を抑え込んだと。
ここで思うことがあると思います。秋山がただ不調だったんじゃないの?(ここでは秋山が不調だったのか、配球がどうだったのかの議論はしません…)

言い方は悪いですが、キャッチャーのリードってそんなにたいそうなものなのか?

配球とリード

配球とリードの違いについて里崎さんは以下の記事でこのように述べています。

配球とは机上の理論。でも、こちらのピッチャーのレベルや調子、相手のレベルや調子、状況によって、幾万通りと違ってきます。それに応じてボールを選択していくのがリードです。確かに僕はデータよりも自分の直感を信じる、行けると思えば行く! そういうリードでした。引いて後悔はしたくはありません。もちろん、データ、資料は見ます。家の建築でいえば、いわば基礎工事です。そこに経験と知識と感性で、どれだけ上を積み重ねることができるか。データだけでリードすれば、崩れたときに対応ができなくなります。後は駆け引きです。

配球はセオリーであり、それをもとにピッチャー、バッター、その時の状況などから総合的に作られるのがリードだということです。

リードは結果論?

しかしそうはいっても正しく配球・リードしたところで打者を完璧に抑えられるわけではありませんし、少し間違ったからといって確実に打たれるわけでもありません。どんなにうまく追い込んでも打たれれば間違いだし、甘いボールになってしまっても打者を打ち取れれば結果的にはOKです。
要は、結果論というわけです。

またキャッチャーが要求した場所に、100%ピッチャーが投げてくれるわけでもありません。
石井一久さんがバッテリーを組むことが多かった古田さんに対して「自分のボールが要求通りいかないこともあるのに、古田のリードで勝てたと言われるのが気に入らなかった。」というような発言をしてたことがありました(ソースはちょっと忘れました)。
コントロールがあまりよくないピッチャーに対してリードもくそもないこともありますし、こういう意味でもリードは結果論だと言われることが多いのではないでしょうか。
結果論とは言いましたが、一概に結果論と片付けられるものでもなくて、どちらにも責任はあるわけですから。

じゃあリードってなにするの?

こういう話になってきます。
リードは結果論ではあるけれども、いわゆる名捕手と呼ばれる人たちは対戦した打者からやりにくいなどと評価されたり、シーズン通すと多少は防御率に現れたりします(まあ、捕手別防御率なんて信ぴょう性は?なところはありますが)。やはりリードには上手い下手のような差はありそうです。

配球・リードにおいてこれをやれば正解というものはないですが、これはやらなきゃいけないという最低限のことや、限りなく正解に近いもの、これだけはやってはいけないことはあるでしょう。

まず最低限やるべきことは対戦打者のデータを洗い出して、相手の得意なものや弱点を頭に入れておくことだと思います。これはさんざん世の中で言われていることだと思います。メジャーなどではデータメモを付けたリストバンドなどが使われているそうです(まあこちらは試合時間の短縮が大きな目的かもしれませんが…)。これくらいデータを入れておくのは当然のことだし、大切なことだということです。

このデータをもとに配球・リードをするのが日本に広まったのは、野村克也さんの影響が大きいかと思います。経験や勘に頼ることなく、データを駆使して科学的に野球をしていく「ID野球」は野村さんがヤクルトスワローズの監督であった時に提唱して広まっていきました。
現在ではデータを集める技術や、扱う技術が発達してきているので、すでにどのチームでもデータを大量に使える状態にあります。使いこなせているかは、そのチーム次第でしょうが。

これだけはやってはいけないことは、いくつか考えられるでしょうが、最たるものは配球が偏ってしまうことではないでしょうか。
相手バッターの弱点などを頭に入れてリードしていくとき、その弱点ばかりついたところで相手もいくら苦手とはいえ、張っていたり意識したりすれば相手も馬鹿ではありませんから打てるにきまっています。そこをいかに意識させないか、また苦手なところを意識させることで長所を消すか。それが駆け引きになり重要になってくると思います。

この記事ではいわゆるセオリーといわれている、「困ったときは外角」について考察されています。まあ、読んでみてください。偏った配球は良い結果をもたらさないことが少しは分かるかと思います。

リードにおいて限りなく正解に近いものを出していくために必要なもの、これは経験や観察力、感性みたいなものになってくると思います。いわゆるリードがうまいというキャッチャーはこの感覚が優れているんだと思います。
打席に立った打者のさまざまな点を見て、バットやグリップ、打席に立つ位置、ステップの幅、タイミングの取り方が変わったのかなど見て取る必要があります。ピッチャー心理、バッター心理、相手ベンチの心理を敏感に感じ取り、ピッチャーやバッターの細かな変化に気づき、ときには審判も味方につけてしまうようなこともあります。
経験豊富なベテラン捕手は狡猾なリードをすることが多いと思います。やはり経験はひとつの武器となりえます。
下に古田さんがこの感覚に優れていたエピソードの記事を張りますので見てみてください。

リードのやり方の基本

リードの仕方について、僕が偉そうに語ってもしょうがないので2つの方法を紹介します。日本球界でも名捕手とされる古田敦也さんと里崎智也さんの方法です。

古田さんはリードには3種類あると言っており、
投手主体のリード
打者主体のリード
状況主体のリードです。
投手のいいところを引き出す「投手主体」、打者の弱点を突く「打者主体」、ゲッツーを取るなどの状況に応じた「状況主体」のリードがあり、それらを使い分けていくものだと言っています。同時に一番やってはいけないのは自分の思い込みだけのリードだと言っています。
投手主体のリードには投げたいものを投げさせる以外にも、このピッチャーはコントロールがアバウトだから、ここへ要求すると違ったここら辺に来るか、などと投手の癖を考えてリードをすることもあるようです。また投手にしかわからないこともあるように、”投手の勘”も大事にしなければならず、絶えずコミュニケーションをとることが必要不可欠だと思われます。

里崎さんもリードには3種類あると言っていますが、区別が少し異なり上、中、下の3つです。先ほどの記事をそのまま掲載します。
)は、相手や状況に関係なく、ピッチャーだけを中心にリードするパターン。ピッチャーの得意球、その日のいい球を引き出していくリードです。ピッチャーに制球力や信用のおけるボールがなく、そこにしか投げられないというレベルのピッチャーの場合のリードです。
これをクリアできるレベルのピッチャーになってくると、次の()のリードになります。バッターの長所、短所を踏まえた駆け引きのできるリードになってきます。
それもクリアできれば、次に()です。それは、短所、長所を考えた配球にプラスして状況に応じた結果を求めるリードです。ここは三振をとりたい、ここは絶対にゴロ、ここはフライという計算を立てたリードですね。ただピッチャーの力量が(下)であっても、できないのがわかっていて(中)のリードで勝負する場合はあります。信じてレベルをあえて上げる場合もあります。

投手主体のリードが基本となっているものだと思われます。
先ほども言いました通り、正解はないですので自分の好みで考えていけばいいと思います。

キャッチャーに押し付けすぎる風潮

このようにキャッチャーにはピッチャーをリードするという仕事がありますが、このピッチャーをキャッチャーがリードするという形が日本に広まったのは野村さんの影響が大きいと思われます。そもそも昔は捕手軽視の時代でしたが、野村さんがデータや観察を用いて配球・リードするという形を持ってきたことで、現在のような捕手がリードする流れになったと思います。野村さんが捕手軽視の風潮への反発として、捕手を目立たせようとした結果なのだと思います。野村さんが「優勝球団に名捕手あり」といったり、古田捕手をベンチで怒鳴りつけたりなど、いい意味でも悪い意味でもキャッチャーに大きな責任を持たせたのは彼の影響は大きいと思います。

その影響からか、現在では多くの責任がキャッチャーに押し付けられる傾向にあります。メディアなどの解説陣からはリード批判等されることは日常茶飯ですし、ときには監督からも「あの場面はもっと考えてほしかった」などとほぼ名指しで批判されることもあります。
現代野球では勘でリードすることなどほとんどないと思いますし、データは本人はもちろん首脳陣・ベンチにもわたっているはずです。そこをなぜ捕手に押し付けてしまうのか甚だ疑問です。それも先に述べた「捕手に押し付ける風潮」があるからだと思います。もちろん責任がないとは言いませんが、ベンチが協力していく必要があると思います。

その流れの中で上記のラミレス監督の考えは画期的だったと思います。
ラミレス監督は「捕手の負担を減らすため、捕手には配球を任せない。それはすべてベンチから指示を出し、捕手は配球を一切考えなくていい」と決め、それをやっていたようです。データ分析の進むMLBでは、ベンチがサインを出すのは珍しくないといいます。捕手にはむしろ、捕手にしかできないプレー、つまり盗塁阻止、キャッチング、そして攻撃の際の打撃を求めるのは合理的な考え方だと思います(ファンの間では賛否あるみたいですが)。若手の捕手は経験が乏しいことも多く、そのリードの手助けをする意味でもよいと思われます。
ベンチからの協力は、キャッチャーにとって必要不可欠なものです。正捕手不在の時代ですから、そこを助けてあげるのはベンチの役目でしょう。ベンチの指示に反発して当てつけのように3球目外しとかやっているチームは話になりませんね(どこの球団でしょう…)。

個人的にはもっとこの思考が流行り、若手の捕手や打撃型の捕手が出てくるきっかけになればよいと思います。

キャッチャーとして必要なもの

ここまでキャッチャーのリードについて書いてきましたが、じゃあキャッチャーはリードがよければいいのかというとそうではありません。

リードはピッチャーとキャッチャーとの信頼関係の上に成り立っています。
ピッチャーの信頼を得るためには、キャッチング・フレーミングは必要不可欠な能力です。ピッチャーが投げた球をポロポロこぼされたり、ストライクだったはずのボールをボールにされていてはたまったもんじゃありません。ピッチャーも気が悪いでしょう。単純にプレーの回数が多いことや、勝負を決める球は常にゾーンギリギリになることから言っても、一番重要といっても過言ではないでしょう。
次にブロッキング(壁能力)が挙げられるでしょう。重要な場面で投げたウイニングショットの落ちるボールを逸らされて1点入ったなどでは、まともに落ちる球を投げることはできないでしょう。特に落ちるボールは決め球として重要な場面で使われます。逸らしたら命取りです。
スローイング(盗塁阻止能力)も重要で、ピッチャーがランナーを気にしすぎてピッチングに集中できなければ元も子もありません。
そのほかとしてバッティングが挙げられます。バッティングは他と差がつけられる部分ですし、特にDH制度のないセリーグではバッティングは重要になってくるでしょう。今シーズンでは特に會澤捕手、パリーグでは森捕手など打てる捕手が活躍し、もののみごとにそのチームが優勝を果たしました。

とまあ、いろいろな有識者の方々の受け売りもありますが、これらの能力(キャッチング、ブロッキング、スローイング)は最低限レギュラーとしての能力を持っている必要がありますし、バッティングはさらなるプラス分として差をつけられます。言い換えると、先の3つのどれかが欠けていたら試合に出られるレベルではないということです。投手からの信頼は得られないでしょう。

ぶっちゃけ言うと、リードする能力なんかなくても他が揃ってれば、ベンチからサイン出しときゃいいんですよ。さっきも言いましたが。
ですからリードもバッティングと同じように他と差をつけられる部分としかなりえません。

投手から信頼を得るためには、先の3つの能力は必ず最低限備えている必要がありますし、コミュニケーションをとる必要があります。試合に出るためにはバッティングは欠かせません。そのうえでリードが上手くできればいいよねぐらいです。

いわゆる名捕手と呼ばれる選手たちは、投手から得ている技術に裏打ちされた信頼感はかなりのものです。今もMLBや国際大会でも活躍する(日本もやられた経験がありますね)ヤディア・モリーナ捕手に対するピッチャーの言葉からもそう読み取れます。
「こっちが何を投げたいかちゃんと分かっている。ワンバウンドのカーブをしっかりブロックしてくれるから、何のためらいもなくカーブを投げられるのもいい。彼との間には言葉で言い尽くせない信頼があるんだ」(アダム・ウェインライト)

最後に

最初に言いました「キャッチャーのリードってそんなたいそうなものなのか?」についての答えですが、個人的な考えを言うと過大評価ではあるだろうけど、影響はあるだろうぐらいですかね。
言いました通り、キャッチャーに任せすぎの時代+野村さんのID野球の広まりすぎでリードの影響が過大評価されているとは思います。でもやはりリードにおいて正解はないでしょうが最適解は存在するので、それを再現できたときに得られる結果は良いものである可能性は高いと思います。かといってそこに固執しすぎるのはよくないですし、他に大切な要素はいっぱいあるよねって話です。

ここまで偉そうに、リード・配球について、捕手軽視からの捕手受難の時代であること、まとめとしてキャッチャーの必要な能力について書いてきました。
僕の意見もありますが、巷で言われていることのまとめがほとんどなので、えらそうですいません。
何かご意見ご指摘あればよろしくお願いします。長くなりましたが、読んでくださってありがとうございます。

※キャプ画像はこちらの動画からです。

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