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ジャイロボールは魔球?

今回のノートは、変化球の変化について書こうと思います。といっても、いろんなところから持ってきた情報をまとめて、自分なりにわかりやすく書いたつもりなので特に新しい見解はありません。知らない人向けに書くので、知ってる人は知ってることしかないと思いますが。

変化球の変化について、ボールの軌道は主に、回転軸の向きと回転数、それに速度という三つの要素で決まります。ここでは回転軸の向きに重きを置いて話します。

とりあえず説明するうえで必要な2つの要素
マグヌス効果、②ジャイロ回転
がありますので、これらを軽く説明します。

マグヌス効果とは

自転している球や円柱が向かい風を受けると、向かい風と自転方向が一致する側では風の流速が速くなって圧力が小さくなりますが、その反対側では流速が遅くなって圧力が大きくなります。(下図参照)
なんで圧力が小さくなったり大きくなるかについて書くと、流体は位置エネルギー、運動エネルギー、圧力エネルギーを持っていて、これらのエネルギーは総量は保存されます。これをエネルギー保存の法則といいます。ということは、流速が速くなるということは運動エネルギーが大きくなるということで、総量が保存されるので圧力エネルギーは小さくなることになります。逆もまた然りです。
この結果、球は圧力が大きい方から小さい方へと動かす力を受けます(これは感覚的にわかっていただけるかと思います)。この結果、球は上に向かって力を受けます。これを揚力といい、このように回転するボールが空気抵抗を受けることで、回転方向に沿った空気の流れが生まれ、空気の流れに対して垂直の力(揚力)が発生する現象を「マグヌス効果」といいます。

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このマグヌス効果、藤川投手の”火の玉ストレート”が説明されるときのように、上方向の力の時が多く注目されますが、下や横方向の時も同様です。野球の変化球はもちろんサッカーの曲がるフリーキックなどはこの現象を利用したもので、曲げたい方向に回転を加えることでボールの動きを変化させています
上の説明のようにバックスピンがかかっていれば上に浮くような力が働きますし、トップスピン(順回転)がかかっていれば下に落ちるように力が働きます。サイドスピンも同様で右回転がかかっていれば右に曲がりますし、左回転がかかっていれば左に曲がります。トップスピンはカーブ、右サイドスピンは横スラ、左サイドスピンはシュートをイメージしていただければわかりやすいかと思います。
マグヌス効果については分かりやすい実験動画がありますので、見てみてください。

ジャイロボールとは

ジャイロボールとは、1995年にその存在が指摘されたもので、ボールの回転軸が進行方向を向いているのが特徴的です。ボールの進行方向に対して回転軸が垂直になっているバックスピンなどとは空気抵抗やマグヌス効果から受ける影響が異なります。回転の様子としては、ライフル弾やラグビーなどのロングスローに似ていることがよく挙げられますが、あれらは円筒形や楕円形で長軸が存在する(細長いってことです)ので、また話が変わってきます。
ジャイロボールはマグヌス効果による揚力が発生しないためにフォークボールによく似た放物線の軌道を描きます。要するに、ボールには重力以外働きませんから下に落ちる力しかないのです。ボールは発射された時の勢いで前に進みますが、鉛直方向には落ちるしかないということです。
ですから、某超有名野球漫画Mのようなストレートのように落ちないジャイロボールは基本的にはありえませんし、そもそもあれは逆回転をしています(作者も後々嘘と言っちゃってますが…)。

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右投手だったら投手側から見て右回転してなければいけません。

この話は置いといて、もう一つの特徴としてフォーシームジャイロは縫い目が風を受け流すような流れとなり、空気抵抗が少なくなるので、初速と終速の差が小さくなります。(フォーシームジャイロは回転を横から見たとき、フォーシームのように均等に縫い目がみえるやつです。もう一つツーシームジャイロというのがあるのですが話すとまた厄介なので割愛。)
要するに純粋にジャイロ回転がかかっていると、基本的に直進し、減速は少なく落ちていきます。放物線軌道でかつ減速が小さいというミスマッチにより、打者はタイミングが掴みづらくなります。松坂投手やダルビッシュ投手などジャイロボールを投げていると言われていましたが、こういうことだと思います。

本題に入ります。

変化球の変化の仕方について、説明してきた➀マグヌス効果、②ジャイロ回転、の2つの合わせ技で説明がつきます。ここからはジャイロ回転しているボールを中心に考えていきます。このジャイロ回転軸がどう傾いているかで変化の仕方が変わってきます。

ジャイロ回転の回転軸が右方向に傾くと、バックスピンの成分が入ってきます。これは投げた側の真後ろから見たボールを想像してください。バックスピンに見えますよね。ということでジャイロ+バックスピンということで、ホップするジャイロボールになります。

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カットボールは基本的にこのような回転軸をしています。バックスピン回転のフォーシームよりもジャイロ成分が多くバックスピン成分が少ないので、フォーシームほど揚力を受けずに少し沈むような軌道を描きます。

また、このバックスピンの要素が強くなりフォーシームに近くなると、ジャイロ成分少し入ったストレートになります。これはいわゆる“真っスラ”とも呼ばれたりするカット気味のストレートです。普通のフォーシームほど減速せずそのうえ落ちてこないので、不思議とバットがボールの下を振ってしまうみたいなボールになります。通常のフォーシームよりもシュート変化が少ないので、カット方向に変化しているように見えます。
またバックスピンとジャイロスピンのバランスや、リリース時の力の加え方によっては”浮き上がるような軌道のカットボール”、”ライジングカット”などとも呼ばれるようなボールを投げることもできます。マリアノ・リベラやケンリー・ジャンセンのようなカットボールがそれに当たります。

逆に左側に傾くと、トップスピンの成分が足されます。つまり落ちる成分の強いジャイロボールになります。
これは「縦のスライダー」がこのボールに近いと思われます。この軸の傾きを大きくすればするほど、落差を大きくすることが出来ます。

上方向に傾くと、サイドスピンの成分が足されます。下の図の場合だと、投手から見て左方向(捕手から見ると右)に曲がるようなサイドスピンの成分があることが分かります。ということで、この場合ボールは投手から見て左斜め方向に落ちていくボールになります。いわゆる高速スライダースラッターのようなボールはこの要素が入っていると思います。

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若干ですが回転軸が上方向に向いてるのがわかりますかね。

逆にジャイロ回転の軸が下方向に傾くと、逆方向のサイドスピン(右方向に曲がる)が足されるので、このボールは右斜め下方向に落ちていくボールになります。ですからツーシーム高速シンカーのようなボールになります。

以上が回転軸が傾くことによる変化です。

もう一つ重要なこととしては、曲がる量は回転軸を傾ける角度によって決まるということです。回転軸が傾くことによってジャイロ回転成分が減れば減るほど、大きく曲がりますし、減速が大きくなります。スラッターでいうと回転軸が上を向けば向くほど左に曲がる要素が大きくなりますし、左を向けば向くほど下に落ちる要素が大きくなります。ジャイロ回転に近づくほど減速の少ないボールを投げることが出来ますし、変化量は比較的小さくなります。実際の投げ方については、以下の山本さんのツイートが参考になるかと思います。

ここまでごちゃごちゃ話してきましたが、速い・鋭く曲がる変化球を投げたければジャイロ回転軸に近づければいいし、減速する・緩い変化球を投げたければジャイロ要素を減らしてトップ・サイドスピン要素を増やせばいいっていう話です。もしかしたら抜けカットも意図して投げられるのかもしれません。

回転軸を変えるだけで多彩な変化をつけることができるジャイロボールは、魔球と呼ぶことができるかもしれません。

参考URL
http://venturewatch.jp/nedo/20060223.html (マグヌス効果の画像)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%82%A4%E3%83%AD%E3%83%9C%E3%83%BC%E3%83%AB (wikipedia「ジャイロボール」)
https://imidas.jp/jijikaitai/k-40-008-07-05-g206 (imidas 時事オピニオン 魔球ブームとピッチングの進化(後編))

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