見出し画像

人工知能と密教 高野山時報 寄稿文

 最近、人工知能という言葉をあちこちで聞くようになり、コンピューターが将棋のプロや囲碁のプロに勝ったニュースなどは耳にしたことがあるのではないかと思います。また昨年は葬祭業者の展示会でソフトバンクが販売している家庭用ロボット「ペッパー」に脇導師として読経をさせる「ロボット導師」が登場したり、中国では全長60㎝のロボットにタブレット端末を持たせた「Xian・西安」が参拝者向けに寺の案内や法話を行ったりして話題になっています。

 このように最近は、人工知能やロボットの進歩が著しく、2014年に英国のオックスフォード大学で人工知能研究をしているマイケル・A・オズボーン准教授が発表した「雇用の未来・コンピュータ化によって仕事は失われるのか」という論文では、これから二十五年以内に失われる仕事や半減する仕事を702業種に渡って調査し、コンピュータや自動化によって取って代わられる確率を試算をしており話題となりました。

 こういった人工知能や自動化の話はセンセーショナルな見出しと共に紹介され、その多くは実態とかけ離れた印象や間違った理解をバラ撒く「フェイクニュース・虚報」としてインターネット上を駆け巡り、社会的な問題となっています。実際に先に挙げたロボット導師なども本来の運用であれば脇導師として使用するモノで、単独で引導作法から葬儀全般を行うようなものではありませんが、ニュースでは人間の住職に代わってロボットが全てを行うように紹介されており、あまつさえ堕落してお金に汚い人間の僧侶に取って代わるのではないか?という結びで紹介されたりしております。

 そこで人工知能に何が出来て何が出来ないのか、どういった歴史を辿って現在に至ったのか、宗教と技術はどのような関係になっていくのかというお題で原稿の依頼を頂きましたので、たまさかそういった方面の知人がいたり、研究畑の人間から聞きかじった話を丸めてお話していこうかと思いますので話三割くらいの気分で読んで頂ければ幸いです。

 1・人工知能の種類
そも人工知能とは何ぞやという問いは、実は学会の中でも統一されておらず、大まかには「人工的に作られた、知能をもった実体。あるいはそれを作ろうとすることによって知能そのものを研究する試みである」というもので、ロボットの研究と混同されがちですがロボットの脳味噌にあたる部分が人工知能であり、囲碁や将棋の対戦のように必ずしも実体を持たなくても成り立つものでもあります。人工知能と我々が認識しているものにも種類があり、これを分類すると

 レベル1・単純な制御プログラムで、厳格なルールに定められた通りの動きをするもので、家電製品全般など、本来でいえば人工知能では無く制御工学やシステム工学の分野。例えて言えば、新発意の小僧さんのようなもので勝手な振る舞いは許されていません。

 レベル2・振る舞いのパターンが増えたものでゲーム機などで使用される将棋や麻雀の対戦プログラムやルンバなど掃除ロボットに使用され、古典的ながら人工知能と呼んで差し支えの無いもの。ルールを理解して判断するもので、加行中の行者のようですが一から十までの膨大な指示が必要となります。

 レベル3・入力された知識を元に自動的に判断を下すことが出来る。グーグルやヤフーなど検索エンジンや予測変換のようなものに使用され、主にこの辺りが機械学習と呼ばれる人工知能のメインであり、チェック項目とサンプルがあれば自発的に推論を行い予測して動けるので、こなれた寺生や役僧のようですが最低限の指示は必要です。

 レベル4・ディープラーニングと呼ばれる最先端の領域で、自分自身で学習とチェックを行い、どうをすれば効率的に動けるかまで判断して行動するもので、指示をされなくても動く敏腕の執事やマネージャークラスですが最新鋭なだけにコストが天井知らずで使用できる団体は限られています。

 2・人工知能の歴史
 現在の人口知能ブームは第三次人工知能ブームと言われており、第一次はコンピュータの登場と同時であり、コンピュータを使って人間のような知性を生み出せるかどうかというテーマの元に現在に至る基礎的な理論が生み出されたものの、コンピューターの性能が要求を満たすものでなく、推論や探索を主題として研究が進むも、パズルやゲームなど「おもちゃの問題」は解決できても複雑な現実の問題は解けないという限界が明らかになってくるとブームは下火になっていきました。

 第二次はコンピュータの性能も上がり、先行した理論の実証と実験の時代であり、コンピューターに知識を入れていけば賢くなるのでは?という方法が主流となって進み、家電製品に「ファジー」という程よい具合を判断するような機能が登場したり、意味を理解しなくても定型の返しで人と対話をしてる気分にさせる人工知能の完成に期待は盛り上がりましたが、知識をコンピューターに理解できるように記述・管理するということは、人間に教え込む以上の手間がかかるという事が判明すると急速にブームは下火となります。

 現在の第三次人工知能ブームはインターネットの登場によって、データとサンプルを研究グループ単位で用意して、教え込む知識を厳選しつつ入力という手間をかけなくても、インターネット上から膨大な文章や画像データを引っ張ってこれるようになったので「機械学習」と呼ばれる「意味や概念は理解していないけど、過去の大量のデータを参照すると、こうなる確率が高い」という、ひたすらコンピューターの性能に頼って計算をブン回して予測するという方法が飛躍的に進歩しました。

 しかし、人工知能で出来る分野というのはあくまで「指示されたデータを分類する」という点に特化していましたが、2012年にディープラーニングと呼ばれる「指示されなくとも、モノの特徴を掴んで分類する」方法が発表されると様子が変わってきます。 

 たとえば我々は、猫と言われれば三毛猫でもペルシャ猫でも「これは猫である」と判断しますが、従来の人工知能は教えられたサンプルから少しでも変更されたものは「これは猫では無い」と判断するので、その都度「これも猫である」と教えていくという果てのない作業を繰り返す必要がありましたが、ディープラーニングでは人間の脳の働きを模したニューラルネットワークと呼ばれる手法を用いて、おおまかに似ているモノと、そうでないモノを分類する所まで進み人間の判断は最低限もしくは不要というレベルまで発展しました。

 つまり人工知能はようやく「概念」を把握する段階に進んだといえますが、人間のように複数の概念を組み合わせて自立的にモノを考えることができるかと言われると、まだ遙か未来の話であり、あくまで分類・予測に止まり、フィクションで描かれる「人工知能が人間に取って代わる」ような企てを行うモノにはなり得ていないのが現状といえます。

 何故かと問われれば、色受想行識と五蘊の分類でいえば識のみに特化しても意思や感受や表象などの作用が無く、さらに言えば本能が無いので人間のように自発的に物事を行うには足りないパーツが多すぎるという問題があるからですが、今更ながらに五蘊・十二処・十八界という分類は生命というものをよくよく観察して導き出された答えであり、それぞれが相互に作用しあわなければ生命としての働きにはならない事が示されています。

 とはいえ、人工知能の大量のデータを分類し予測する事に特化された技術は、株式市場の予測や、弁護士のアシスタント業務・銀行業務や税理士・会計士など数字や過去の判例などのデータ全般を扱う仕事、さらに音声解読の発達により、コールセンター・翻訳業務などに関わる人間の仕事を奪うことは確実と言われており、「単純作業などブルーカラーの仕事がロボットに取って代わられると思っていたらホワイトカラーの仕事が奪われたでござる」という状況を生み出しています。

 しかし、人間の精神や心に関係する仕事はいまだに人工知能がカバー出来ない範囲の筆頭であり、そこに我々のような宗教者が活動する余地があるとされていますが、悩み別のデータベースや大蔵経などを分類し、適切な回答や典拠となる経典の文句を引き出してくるような真似は現状でも可能なので、宗教関係者もより一層気を引き締めて学び続けていく姿勢が問われているとも言えるのではないかと。
 
 また遠くない未来に人間のような人工知能が完成したとしても声字実相義に「声字分明にして実相あらわる」とあるように人工物であっても大日所生の身であり、密教の徒が人かそうでないかで排斥するかどうか縄張り根性で身構えるのも本末転倒な気がするので、やみくもに慌てず、流れを把握した上でドンと構えていた方がより「宗教者らしい」振る舞いではなかろうかと思っております。

追記:お題を貰ったときに、そも人工知能とはなんぞやがスッポ抜けたままズラッと寄稿が並ぶだろうなーと思って一般的な概論を起こした簡易版

現状ではどうやってもシンギュラリティには到達せず、人工知能に心が宿るモノでもありませんが、倶舎論的に考えるなら心が宿るのは人工知能の方では無く、素体の方に宿るんじゃないかと。

輪廻のシステム的に死んでから四十九日の間は中有(ちゅうう)という状態で、記憶や魂が輪廻するんではなく指向性であるところの業が相続していくという考えで、例えば人に生まれるときは今生の父母が布団の上でハッスルしている場面に出くわし、母親に執着すれば男子に、父親に執着すれば女子に生まれるというモノですから、世俗の魂的なモノが入り込むという理解で話を進めるなら、人間と見紛う素体こそが業の相続が成立する条件であり

メカ少女や義体やVTuberなどの概念が普及した昨今であれば、死してのちに精巧な素体にウッカリ惹かれて入り込むのが「業の深さ」じゃないかと!


以下は煙草代でも奢ってやるわという方への御礼でして有料記事部分となっております。ニコ生でよく聞かれる精進カレーのレシピとなっております。

ここから先は

593字

¥ 500

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?