未亡人日記40●朝ドラと「わろてんか」と「カムカムエヴリバディ」
夫と私は
ヒロインの旦那が死ぬシーンを
ジーっと見ていました。
朝ドラの一コマ。
『わろてんか』で
病床に臥せっている夫を看病している妻。
夫はその時は入院中ではなく
自宅で布団の中でテレビを見ていました。
わたしはダイニングテーブルのところで
同じ方向でテレビを見ていました。
まあ、ドラマと私たちは全く同じ状況だったんですが
その時は
来月は夫が死ぬということはもちろん予知できないわけで。
黙って二人でテレビを見ていた。
あの時間を何と形容すべきか。
朝ドラ空間のエアポケット。
同じ状況の入れ小細工で
現実とフィクションが重なっている
生と死のマトリョーシカ
夫は何を思ってみていたのか
聞いてみればよかったかな?
人生で味わうことがそんなにたくさんないだろう
とってもレアな感じの数分間だったのですよ。
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夫が死んで数週間後
ドラマは終わり、
でも
ドラマの中で死んだはずの夫役の俳優、松坂桃李が
「あさイチ」に出演して普通にしゃべっているのを見て
(あら、この俳優は生きている)
すると
ドラマの中で死んだのは
夫だったんじゃあないのか?
と私は苦笑した。
ドラマの中で人が死ぬっていうのは
毎日毎日繰り返されているシーンなんですが
本当に死んでしまった夫は、もう生きていなんですね
というナイーブなことをぼんやりと考える私
朝ドラは続いていく。
人がいつ死ぬかなんて本当にわからない。
病気をしていても、治ることは難しいと言われていても
人はまだ
あしたが来ると思っているんだし、
それでいいと思うのです。
******
そして今、
放送中の朝ドラのヒロインの恋人が、夫とおなじ名前なので
毎朝私は夫の名前がドラマの中で呼ばれているのを聞いています。
夫はこの朝ドラにもいるんだなあ。
ちらりと、
テレビのついた茶の間で、言葉にできない思いを反駁しているだろう、夫の母のことも思うのです。
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