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西村京太郎2時間ドラマに見る時代の変遷-終着駅殺人事件

本稿は、その性格上、小説およびドラマ作品に係るネタバレが含まれます。どうぞご了承ください。


はじめに

西村京太郎先生といえば、誰もが知る推理小説の大家。トラベルミステリーというジャンルを生み出し、十津川警部シリーズをはじめとして、その著作数は一説によると650冊近いともいわれています。私も小学6年の時に『宗谷本線殺人事件』を読んだのを皮切りに、とても全冊は無理ですが、何冊か読んできました。鉄道大好きな私ですから、乗ったことのない路線、列車が舞台となっている数々の作品に心を躍らせたものであります。

さて、そんな西村京太郎作品は、メディアミックスも積極的に行われ、十津川警部シリーズはいわゆる2時間もの刑事ドラマとして、テレビ朝日、TBSなどで数多く制作・放映されてきました。十津川警部というと誰を思い浮かべるかは、時代や観ていたチャンネルによって三橋達也さん、高橋英樹さん、渡瀬恒彦さんなど、相棒となる亀井刑事役も愛川欽也さん、伊東四朗さん、高田純次さんなど、議論百出あるでしょうが、それだけ多くの視聴者に愛されてきたシリーズといえるでしょう。個人的には、ストーリーはもとより、登場する列車の走行シーンをたっぷり見られるというのも楽しみのひとつではありました。

そんな中、2023年10月にテレビ東京系「月曜プレミア8」枠で、船越英一郎さん主演の『終着駅殺人事件』(以下「テレ東版」とします)が放映されました。2時間ドラマ自体が退潮著しく、最も多く放映されたテレビ朝日系列「西村京太郎トラベルミステリー」も、2022年12月の第73作をもって最終回となった昨今で、新作が制作されるのは極めて珍しいことです。

その2週間後、今度はテレビ朝日の平日午後のドラマ再放送枠で「西村京太郎トラベルミステリー59 終着駅殺人事件」(以下「テレ朝版」)が再放送されました。

これらはともに、西村京太郎先生が日本推理作家協会賞を受賞された1980年刊行『終着駅殺人事件』を原作としていますが、両者のドラマの内容は大きく異なっています。同じ原作なのに、どうしてこうもドラマの内容が違うのか、大いに興味を持ちました。何冊か読んでいた西村京太郎作品ですが、実は『終着駅殺人事件』は未読でした私、改めて原作本を購入して読んでみることにしました。

すると、実は2013年制作のテレ朝版も、2023年制作のテレ東版も、原作とは大きく異なっていることがわかりました。昨今話題の原作改変問題に切り込むつもりは全くありません。むしろ、原作と各ドラマを見比べてみると、時代の変遷というか、その時々に合わせた苦労みたいなものも滲み出てきて、それはそれで興味深いものがあるのです。
というわけで、今回は『終着駅殺人事件』における原作と2つの2時間ドラマの違い、そこから見える時代の変遷を追いかけてみたいと思います。
ちなみに、『終着駅殺人事件』自体は、2013年テレ朝版、2023年テレ東版のほか、1981年テレ朝、2001年TBSと、都合4回ドラマ化されていますが、ここでは私が実際に視聴した直近2回との比較とします。

以下、ネタバレがあります

登場する列車の違い

原作は寝台特急「ゆうづる」
原作が書かれたのは1980年。東北新幹線も開通しておらず、青函トンネルもできる前だった当時は、上野駅はまさに北の玄関口として、数多くの夜行列車が出ていました。そんな中、『終着駅殺人事件』の事件の舞台となったのは常磐線経由で青森を結ぶ寝台特急「ゆうづる」です。このゆうづる号、当時は最大7往復体制で運転されており、583系を使った電車寝台と、24系などのいわゆるブルートレイン・客車列車で運転されていました。事件が起こるのはそのうちの「ゆうづる7号」で客車列車で運転されており、その前を走る電車寝台「ゆうづる5号」との所要時間の違いが事件考察のヒントになっています。
その他にも、当時は「はくつる」や、夜行急行の「津軽」「十和田」「八甲田」、昼間特急では「はつかり」「ひばり」「やまばと」など、今では見られない愛称の優等列車がひっきりなしに出発していました。あの頃は、それこそ一日中上野駅にいても飽きなかったでしょうね。

2013年テレ朝版は寝台特急「あけぼの」
そんな「ゆうづる」も、東北新幹線の開業、青函トンネルの貫通、車両の老朽化、そして寝台特急それ自体の退潮もあいまって1993年に臨時列車化、翌1994年には正式に廃止されてしまいます。そこで、2013年制作のテレ朝版では、当時、数少ない寝台特急として残っていた高崎線・上越線・羽越本線経由の「あけぼの」が舞台となっています。原作では、被害者のひとり川島史郎が降りるのは水戸駅ですが、テレ朝版では高崎駅になっています。こればかりは「ゆうづる」が廃止され、「あけぼの」が運転されているのが高崎線経由なのですから仕方がありません。

2023年テレ東版はなんと東北新幹線「はやぶさ」!
そして「あけぼの」も、2014年3月改正で臨時列車化、翌年以降は列車の設定がなく事実上廃止となってしまい、その後、唯一残っていた札幌行寝台特急「北斗星」も、北海道新幹線工事に伴う青函トンネル工事の影響で2015年に廃止されました。そこで、2023年制作のテレ東版では、なんと舞台は東北新幹線「はやぶさ」号となります。しかも登場人物の集合場所は東京駅。上野駅ですらなくなります。そもそも北へ向かう寝台特急がないのですから仕方がないのですが、ある意味『終着駅殺人事件』の象徴的な舞台とされた上野駅すら登場しないのは何とも悲しい時代の変遷といえるでしょう。被害者のひとり川島史郎が途中下車したのは仙台駅でした。

登場人物の違い

早速ネタバレですが、犯人は町田隆夫、共犯は松木紀子、これは3作品とも同じですが、登場人物の設定も原作・テレ朝版・テレ東版では大きく違います。これは時代の変遷というよりもドラマ制作上の設定の問題なのだと思います。

原作:青森県F高校の新聞発行委員7人
原作では、青森県の高校で校内新聞を作っていた仲良し7人組で、彼らが東京に出てきた後、7年ぶりに再会して帰省しようと上野駅に集合するということになっています。
宮本孝(弁護士見習い)、片岡清之(東京で物産店経営)、川島史郎(運送会社社長)、安田章(官僚)、村上陽子(新人歌手)、橋口まゆみ(OL)、町田隆夫(詩人)の7人です。この他に、亀井刑事の旧友で教員の森下、森下の教え子でその後町田と交際していることが判明する松木紀子、そして町田の姉が登場します。
宮本孝が幹事となってきっぷの手配をし、各人に合わせてそれぞれしたためた手紙を送って、というもので、町田の犯行動機のひとつがその手紙ということになっています。

最初に殺されるのは安田章。殺害場所は上野駅のトイレです。
2番目の被害者は川島史郎で、彼は水戸駅で「ゆうづる」から途中下車して姿をくらましますが、やがて茨城県結城市の鬼怒川の河川敷で遺体が見つかります。
3番目の被害者は橋口まゆみ。青森のホテルで見つかります。遺書があり、睡眠薬を大量に飲んでも自殺と思われましたが、死因は青酸中毒死。しかも妊娠3ヶ月であることが判明し、その後、片岡清之がその相手であることがわかります。
4番目の被害者は村上陽子。駆け出しの新人歌手という設定の彼女は青森で前座公演があるとのことで残っていましたが「ゆうづる14号」のきっぷを持って、青森駅の待合室で絞殺死体となって発見されます。その時に目撃された長髪の青年が町田によく似ており、この辺りから警察は町田を犯人ではないかと疑い始めます。
5番目の被害者は片岡清之。青森の名士として物産店を経営する父を持ち、金持ちのボンボンとして、肩書上はその物産店の東京支店長を務めますが、橋口まゆみ以外にも妊娠させた女性が複数いるなど、女好きで遊び人ですが、村上陽子が乗るはずだった「ゆうづる14号」が上野駅に到着する少し前に、上野駅構内で毒殺されてしまいます。実はその「ゆうづる14号」には町田が乗っていましたが、列車到着前だったので町田に片岡を殺害することは不可能で、それが事件の謎となっていきます。
6番目の犠牲者は宮本孝です。弁護士事務所で働くまじめな好青年ですが、呼び出された丸子多摩川で殺害されます。こと切れる直前、宮本は「間違えた」と呟きます。これが後に町田の動機に繋がっていきます。
というわけで、高校時代の友人7人のうち、町田を除く6人は全員殺されてしまうというのが原作でした。

なお、犯人の町田には殺人の前科があります。といっても、当時仲を深めていた女性に会いに岐阜に行った際にヤクザまがいの男に絡まれ、半ば正当防衛に近い形で殺してしまったというもの。
また、町田と交際しているという松木紀子も傷害の前科があります。こちらもかつてホステスとして働く中で三角関係のもつれからバーテンを刺してしまったというもので、2人は共に青森に帰ろうとするも、前科を持っているということで列車に乗り込めずにいた上野駅で出会ったという設定になっています。

松木紀子を探していた亀井の高校時代の親友、森下ですが、こちらも食わせ者。松木紀子が刺したバーテンを探しに行った際にそのバーテンと口論になり暴行事件を起こしたり、また、2年ほど前に松木紀子に実は会っていて、その際に松木紀子と関係を持って妊娠させてしまっていたことなどがわかります。また、その時の贖罪からか、水戸で途中下車して川島を鬼怒川で殺害した後に「ゆうづる7号」に戻れるかの検証をしていた亀井を、敢えて「ゆうづる7号」とは所要時間が違う「ゆうづる5号」に乗ろうと誘って、アリバイの検証を混乱させます。

テレ朝版:青森県八戸実業高校の野球部員7人
テレ朝版では、登場人物はほぼ原作通りの名前なのですが、なぜか松木紀子は鈴木紀子という名前になっています。
また、片岡は卒業後も青森に残ったという設定になっていて東京には出ていません(といってもちょくちょく東京に出張に来てはいたようです)。

友人7人は高校時代の野球部の仲間という設定に変わっています。また、彼らが青森に向かった理由は7年越しの帰省ではなく、青森に残っていた片岡の結婚式のために青森へ行くというものでした。原作では7人が再会するのは7年ぶりという設定でしたが、テレ朝版では1年に1回くらいは東京で会っていたようです。

1番目の犠牲者は原作と同じく安田章。職業も官僚で変わりません。殺害される場所も上野のトイレですが、上野駅の外にある公園の近くのトイレでした。おそらく駅構内のトイレの使用許可が下りなかったのでしょう。
2番目の犠牲者の川島は、原作では運送会社を経営していましたが、テレ朝版では運送会社の運転手という役。ナンパに余念のない女たらしの性格で原作でいう片岡のような役どころです。上述したように、列車が常磐線経由の「ゆうづる」から高崎線・上越線・羽越本線経由の「あけぼの」に変わったので、川島が下車するのは高崎駅になっています。
3番目の犠牲者は橋口まゆみで、ホテルで自殺を装い青酸中毒で亡くなることも、片岡の子どもを宿していたことも原作と変わりません。職業はデパートの派遣社員となっています。テレ朝版で橋口を演じたのは小野真弓さん。たしか「西村京太郎トラベルミステリー70」では犯人役を演じていました。
4番目の犠牲者は村上陽子で、職業は看護師をしていると周りには言っているが、実際は既に辞めていてキャバクラ嬢をしているという設定。以前安田と付き合っていたという設定は原作にはないものでした。殺害される場所は東京で、その殺害は鈴木紀子(原作でいう松木紀子)でした。原作では自分では手を下さなかった松木紀子ですが、テレ朝版では自ら手を汚しています。
宮本孝は自身がきっぷを手配するという設定は原作と同じですが、職業はそのきっぷの手配ができる旅行会社の社員という設定でした。宮本は後半で町田に刺されますが一命はとりとめます。
そして、青森に残っているという設定だった片岡は、新婚の奥さんを人質に取られ、クライマックスで町田と格闘しますが、殺される直前に駆け付けた十津川警部により救出され、ケガだけで済みます。

町田の恋人鈴木紀子(原作:松木紀子)に傷害の前科があるのは原作通りですが、犯人役の町田には前科はありません。町田を演じていたのは黄川田将也さん。背の高いイケメン俳優さんで、原作で描かれる長髪の陰気な青年像とは大きく異なり、詩人ではなく建設現場で働くアルバイトという設定でした。
原作ではバーテンを暴行する亀井の親友・森下は今度は平和的にバーテンを探し出しますが、鈴木紀子に頼まれて亀井にウソの証言をするという形で亀井を欺きます。末期がんに侵されていて余命いくばくもない、また2年前に妻と離婚していた、という原作にはない設定が加わっています。演じていたのは岩城滉一さん。ダンディーな方ですが、老いていく様をしっかり演じられていました。

テレ東版:青森商科大学のゼミ同期6人
2023年に制作されたテレ東版、登場人物での大きな違いといえば、何といっても宮本が出ないことです。原作では、きっぷを手配したり、冒頭ではモノローグもあるなど、いわば狂言回しのような役どころだった彼ですが、テレ東版ではきっぷを手配したのは犯人の町田が、安田章を騙って皆を招集したことになっています。

仲間たちの関係性は大学のゼミの同期という設定です。
最初の被害者の安田はIT企業の経営者。殺害される場所は上野駅のトイレではなく、仲間が集合するよりも1週間以上前に、廃倉庫で手を鎖で縛られて監禁されたあげく餓死するというエゲつない亡くなり方をします。この安田は経営者であり、女性にもよくモテたようです。経営者といい、女性関係が派手というところは原作でいう片岡みたいな役どころになっています。それと官僚ではなくなりました。
次の被害者は川島史郎ですが、喫茶店の経営者。列車の舞台が「ゆうづる」でも「あけぼの」でもなく、東北新幹線「はやぶさ」なので、途中下車するのは仙台駅。遺体も仙台市郊外の河川敷で発見されます。川島の殺害は、呼び出した松木紀子が「解毒剤」と騙して青酸ソーダを飲ませるという方法。テレ朝版では村上陽子殺害の犯人だった松木紀子は、テレ東版では川島殺害の犯人になっています。
原作およびテレ朝版では3番目の犠牲者となった橋口まゆみですが、テレ東版ではなぜか樋口まゆみという役名に変わり、しかも殺されません。原作やテレ朝版では片岡と交際していたことになっていますが、テレ東版では安田と交際していたことになっており、安田との交際が終わった後、やけになってホスト通いを始め、のめり込んで借金を作り、そこに付け込まれて町田や共犯の松木紀子に脅され、勤務先の金属メーカーから青酸ソーダを盗むという役どころ。ホスト通いで借金づけみたいなところはいかにも現代的です。演じていたのは小島藤子さん。刑事ドラマでもよくお見かけする女優さんで大変きれいな方ですね。
テレ東版で3人目の犠牲者となるのは村上陽子。化粧品会社の広報という設定。テレ朝版では橋口と仲がよさそうな雰囲気で描かれていましたが、テレ東版では2人の仲はかなり険悪。というより、村上陽子の底意地の悪さがにじみ出ていて、小島藤子さん推しの私からすると、かなり「いけ好かない」役でした。いや、演じている逢沢りなさんはおきれいなんですけどね。遺体発見場所は青森ですが町田が働いている川崎で殺されて車で運ばれたという設定になっていました。
原作では上野駅で殺され、テレ朝版ではクライマックス、町田に襲われながらも危機一髪で十津川警部に救い出される片岡ですが、今作でもクライマックスで拳銃で尻を撃たれはしますが意識はあります。仕事は東京で商社マンをしているようですが、舞台俳優としても活躍している森田甘路さんが、陰気くさく、いかにもイヤな奴という役柄を演じています。原作でもテレ朝でも、どことなくイケメン実業家として描かれることが多かった片岡という役柄ですが、テレ東版ではその気配は全くありません。

犯人の町田役を演じたのは泉澤祐希さん。子役時代から活躍しているいい役者さんですね。テレ朝版では前科なしでしたが、今作では振り込め詐欺の受け子という前科があります。これもまたいかにも現代的です。
共犯の松木紀子は岡本玲さんが演じます。これがまためちぇめちゃお綺麗な方。最後の独白や別れのシーンなどは涙なしでは観られません。原作、テレ朝双方で前科持ちという設定でしたが、テレ東版では前科はなし。ホステスという設定こそ同じですが、何も無理にホステスじゃなくてもよかった気はしますけどね。ちなみに、原作にもテレ朝にもない、自身が難病に侵されていて余命いくばくもないという設定になっています。

ちなみに、原作とテレ朝版で出てきた亀井刑事の親友・森下は出てきません。松木紀子を探しているのは、亀井刑事たちがよく行く小料理屋の女将さんということになっています。この小料理屋の女将、西村京太郎サスペンスではお馴染みの山村紅葉さんが演じています。テレ朝版では北条刑事を演じていました。

ストーリーも大きく違う

というわけで、登場する列車も違えば、登場人物の描かれ方もかなり異なりますので、当然ストーリー展開も大きく違います。
ここでは、アリバイトリックと、犯行動機の違いを見てみます。

①アリバイトリック
西村京太郎作品の魅力といえば何といっても時刻表を駆使したアリバイトリックです。

原作で登場する寝台特急「ゆうづる」は当時7往復あり、電車寝台と客車列車の2種類で運転されていました。このうち、電車寝台の方が所要時間が短かかったのですが、川島が姿を消した「ゆうづる7号」は時間のかかる客車列車の方でした。

十津川警部たちは、水戸駅で降りた川島を結城まで連れて行き、鬼怒川河川敷で殺害し、そこから車を飛ばして仙台へ向かって間に合うかを検証することにします。ちょうど、亀井刑事の親友・森下が1本前の「ゆうづる5号」に乗って青森へ帰ると聞いた亀井刑事は森下と一緒に「ゆうづる5号」に乗って水戸駅で下車。森下には引き続き乗ってもらって、仙台で落ち合うことにしました。亀井刑事はタクシーを飛ばして結城経由でその後東北道に乗り、仙台を目指しますが、残念ながら「ゆうづる5号」は30分近く前に仙台を発ってしまい、考えたアリバイは崩れてしまいます。
しかし、これが落とし穴。共犯関係にある松木紀子に頼まれた森下が、あえて所要時間の短い電車寝台で運転されていた「ゆうづる5号」に一緒に乗るように仕向け、アリバイトリックを成立させようとしたことが後でわかります。これには十津川警部の奥さん、直子さんの機転が利きました。
十津川警部と亀井刑事は今度は川島が姿を消した「ゆうづる7号」に乗って再び検証すると、時間がかかる客車列車ということもあって、3分前に仙台に着くことができました。これで川島を殺害した後も「ゆうづる7号」に戻ってこれることがわかったのです。
ちなみに、検証にはタクシーを使い「スピード違反をしてもいい」という指示さえしていますが、さすがにこのままテレビでは使えないので、テレ朝版では群馬県警の刑事に協力を仰いで検証しています。

そのテレ朝版、使用される列車は「あけぼの」です。
川島史郎がいなくなったとわかったのは、当初は3時半頃と言われていました。3時半頃といえば「あけぼの」は3時18分に村上を出た後。22時46分に着いた高崎駅で下車した川島を、そこから車で20分ほどの利根川の橋から、意識朦朧のまま突き落とし、そこから車を走らせて村上に間に合うかを調べたところ、何とか間に合いそうということがわかりました。これでアリバイを崩せたかと思いきや、その後、実は2時頃にも町田や橋口、村上陽子、宮本の4人は顔を合わせていたことがわかり、その考察は頓挫してしまいます。
しかし、ここでも大活躍は十津川警部の奥さん、直子さん。ちょうど事件が起きた日、直子さんは青森の法事のために「あけぼの」に乗っており(何という出来過ぎなタイミング!)、途中、長岡で運転停車していたというのです。長岡駅には1時6分~44分まで長時間運転停車することがわかり、群馬県警の刑事さんに協力を仰ぎ、高崎駅から川島殺害現場を通って長岡駅まで車を飛ばしたところ、間に合うことがわかりました。これであれば2時過ぎに町田たち4人が顔を合わせた際にも間に合うことがわかったのです。
ちなみに、運転停車というのは乗客扱いをしない停車駅です。その運転停車駅でどうやって乗り込むのか、テレ朝版では特に説明はしていませんでした。いや、普通、乗れませんからね。
車での検証は原作がタクシーだったのに対して、テレ朝版では群馬県警の協力でした。さすがに一般のタクシー運転手に制限速度を破ってでも飛ばせ、とテレビでは放映できなかったのでしょう。

2023年のテレ東版では、そもそもが昼間に走る東北新幹線なので、町田が川島と同じように降りて殺害するわけにはいかなかったので、松木紀子が仙台の河原で毒を飲ませるという設定になったのでしょう。

②犯行動機
さて、犯人の町田の犯行動機ですが、原作とテレ朝版、テレ東版ではそれぞれ大きく違っています。

原作では、町田は高校3年の頃、姉を亡くしています。病死ともいわれていましたが、その後の調査で自殺であることがわかります。その原因は、高校時代にスピリチュアルに傾倒した町田をからかおうと、他の新聞発行委員6名が劇団員を霊能者と偽って町田に近づかせ、その偽霊能者を町田が家族に紹介、そしてその偽霊能者が町田の姉を襲ったことでした。そして、宮本が7年ぶりに再会するためのきっぷを送る際に、各メンバーそれぞれに宛てた手紙を書きましたが、片岡に宛てるはずだった手紙を誤って町田に送り、その内容が皮肉めいてからかうような文面だったことが導火線となって、当時の復讐心を燃えたぎらせたというものでした。本来、町田へは、彼が前科持ちであることもあって、もう少し当たり障りのない文面を送るはずだったのですが、運悪く片岡をいじるような手紙が同封されてしまったことがきっかけとなりました。それが、宮本がこと切れる前「間違えた」と呟いた要因となっています。

2013年テレ朝版では、同じく町田が高校3年の頃、姉ではなく、母親を失ったことになっています。その原因は、高校野球部の同期6人が深夜に行った花火でした。片親だった町田の母親は、同じく片親の鈴木紀子の父と深夜、漁師小屋で密会をしていて、彼らが行った花火の残り火が漁師小屋の周りの資材に引火、漁師小屋が全焼して亡くなったのでした。
町田はその後、東京へ出てから、津軽の郷土料理屋で鈴木紀子と偶然出会い交際をスタートしますが、そんな折、野球部の後輩から、母親が亡くなったその日、宮本ら6人が現場周辺で花火をしていたことを耳にし、それが原因であることを突き止め、そこから復讐を決意したものでした。
最終的に宮本は刺されるだけで一命をとりとめ、片岡はクライマックスで格闘中に十津川警部が駆け付けるという、2時間ドラマではお馴染みの展開で助かります。クライマックスが海辺(八戸の蕪島神社の近く)というのも、2時間ドラマならではですね。
最後に町田と鈴木紀子が、手錠もかけられず犯行動機をとつとつと語り、それに対して十津川警部や亀井刑事が「なぜ新しい道を進もうとしなかったのか」と諭し、2人が泣き崩れる、というのも、これまた2時間ドラマのお決まりの展開でしょうか。

2023年のテレ東版では、町田が亡くしたのは原作に戻って姉になっています。大学3年の頃、町田の姉はバイク事故に巻き込まれて亡くなったことになっています。そのバイク事故の加害者(こちらも死亡)が松木紀子の父親でした。さすがに情事の最中に亡くなったというのは2023年の現代ではコンプラ的に厳しかったのだと思われます。
その事故原因を作ったのは、町田のゼミ同期4人でした。テレ東版では宮本が出てこないので、ゼミ同期は町田・安田章・川島史郎・片岡清之・村上陽子・樋口まゆみの6人ですが、このうち当日バイトがあって遅れた樋口以外の4人が、就職祝いとして花火をし、ロケット花火が予想外の方向に飛んでいき、ちょうどバイクで走ってきた松木紀子の父親の目の前を通過、バランスを崩したバイクが、たまたま道の端を歩いていた町田の姉に直撃したのです。しかも、町田の姉も松木紀子の父親もしばらくは息があったのですが、安田章ら4人は就職が取り消されることを恐れ、通報せずに逃走。それが結果として両名ともに死亡ということになったのでした。
その原因に気づいたのは松木紀子との再会でした。松木紀子が街で苦しんでいるところを町田が助けたのです。その松木紀子と親しくなった後、松木紀子の父親が病院に運ばれた際「花火」と言い残したことで、バイク事故の原因が安田たちが行った花火であることに気が付きます。町田は安田たちと飲みに行った際にわざとカマをかけ、それが事実であることを突き止めます。松木紀子が重い病に侵されていることを知った町田は、彼らへの復讐を決意します。
最後、片岡を殺そうとしたところで十津川警部が駆け付けたり、十津川警部が諭すことで町田が泣き崩れたりするのは、しっかり2時間ドラマの定番を踏襲していました。

というわけで、テレ朝版もテレ東版も同じく「花火」が町田の肉親を奪った原因なわけですが、原作にはひとことも「花火」とは出てきません。これはいったいなぜなのでしょう。まぁ、テレビ的には原作の「偽霊能者」を出すのはちょっと説得力に欠けるという判断があったのでしょう。

まとめ

いつの間にか、ずいぶんと長くだらだらと書いてしまいましたが、ともあれ、1980年の原作に対して、2013年のテレ朝版、2023年テレ東版では、その時走っている列車が否応なく廃止されてしまったり、前科を含めた登場人物の細かな設定、犯行動機など、それぞれの時代やコンプラ観念等に合わせて違和感のないようにドラマを制作していました。結果として、2023年テレ東版では原作と合っているのは登場人物くらいで「終着駅」の意味も原作とは大きく違っています。

数ある西村京太郎作品のメディアミックスにおいて、どのような取り決めがなされてきたのかはよくわかりませんが、このあたりは、それぞれの時代に合わせた変化があることを西村京太郎先生もきっと許容されていたのだろうと思います。マンガとは違って、小説ですから、イメージするキャラクターも読者の自由に任されている部分がありますので、そういう意味では、メディアミックスもやりやすいのだろうと思います。

他にも西村京太郎作品、多くありますので、小説も然り、ドラマも然り、これからも楽しませていただきたいと思います。

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