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【お話し】妖精と龍~前編~

 妖精の世界では、月の光が一段と強い特別な夜があって、青く光る大きな花に「幸せの光」が注ぐらしい。
その光を浴びれば、身体の力がみるみるうちに回復するし、心には優しくて甘い感覚が湧いてくるらしい。

妖精のミリーちゃんは最近少しお疲れ気味。
羽が軽やかに動きにくいし あまり良い事もないなぁと思う。

久し振りに光を浴びに来た。
とても眩しい。
すぐに身体が軽くなってきて、それだけでなく心も柔らかくなってきた。

心地よくなって ふと上を見上げた。
そこには真っ黒で若く精悍な龍。
そうでなくても光を浴びて、普段とはちがう
心持ちでいるのに。

いつもは自分の何十倍も大きな龍はとても怖くて 遠くに影が見えるだけで さっと隠れてしまう。
けれど「幸せの光」を浴びたせいか、今日は怖くない。

(うわぁ、大きいなぁ)

とは思うけど、怖さは少しも感じなかった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

龍は、小さな妖精ミリーの姿に気付かなかった。
「幸せの光」が輝く青い花に近付いて行った。

 龍は民を見守り、時に災害から守る。
大きな括りでは妖精の仲間だ。
ただ、龍はいつも1人だった。
自分の姿が他の妖精に怖がられていると知っていたから。

 民の中には龍を神と祀り、社を建て、祈りを捧げる者もいたが、それとて姿を見せれば多くの者が恐怖に体を震えさせるのだ。
だから人間には姿を見せない。
人間の波長と自分のそれをずらし、側にいても見えない様に姿を消している。

 龍の管轄の土地で、大きな嵐があった。
強い雨が何日も降り続いた。
山が崩れ、土が流れた。
龍は何とか山が崩れるのを押さえていた。
だが、力及ばず山が崩れてしまった。
せめて、民の村の被害を少なくしようと、身を盾にして土の流れる方向を何とか変えた。
民に怪我人は出なかった。
その代わりに 龍自身が深い傷を負った。

天災はまさに“天の神の神業(みわざ)”妖精の力など及ぶ訳もない。
本来ならこの傷は民が受ける物だった。
何十人もの民が受けるはずだった傷を この龍たった1人で受けたのだ。
民に対する罰なのか。
天の理か。
龍にも民にも分からない。
しかし龍は民を守る妖精。
傷付くと分かっていて、ただ見ているだけではいられなかった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

深く切り裂かれた脇腹。
それを癒そうと「幸せの光」が降り注ぐ青い花へやって来た。

最初は誰も居ないと思っていた。
が、数メートルの所まで近づくと 小さな淡い光に気付いた。
月の光とも花の光とも違う、淡く白い光。
良くみれば、それは光ではなく小さな白い妖精だった。
龍は慌てて引き返そうとした。
あんなに小さな妖精が自分を見れば、恐怖におののくに違いない。
特別な月の光は ひと月も待てば又輝く。
今日は運が悪かった。
そう思い 帰ろうとしたのだ。

 少し前から龍の姿を見付けていたミリーちゃん。
怖くなかったので、花の上で龍を待っていた。
なんだか今日は あの龍とお話しをしてみたかった。
近くまでやって来たので、声をかけようとした時、龍はハッと目を見開いて、方向を変えた。
その時 龍の脇腹に深く大きな傷があるのを
ミリーちゃんは見つけた。
龍は傷を癒しにここに来たのだ。
でも、自分がいるせいで龍は帰ろうとしている。
ミリーちゃんは慌てて龍の近くまで飛んでいった。

「どうぞ!私は終わりましたから。その傷を
 癒して下さい。」

花の妖精のミリーちゃん。
ふわりとした優しい声。
甘い香り。

いつも他の妖精達に避けられている龍はとまどった。
他の妖精に声をかけられるなんて初めてだったから。
陰でヒソヒソ何か言われたり、驚いた叫び声はよく聞いていた。
だが、自分に向かって優しい言葉を掛けられたのは初めてだった。

「お前はもう良いのか?」

「はい。貴方こそ、そんな傷を負って・・・さ、早く幸せの光を浴びてください。」

龍は戸惑いながらも青い花の上に乗った。
そして静かに「幸せの光」を浴び始めた。

           妖精と龍後編 に続く

noterさんの、KeigoMさんがご自身で素敵な絵を描いてらっしゃいます。
ヘッダーの妖精と黒い龍の絵もそうです。

そして、書き出し17行はKeigoMさん作です。
この続きを書きたくて、考えてみました。
上手く出来たかは分かりませんが、ミリーちゃんと黒龍の出会いを書いてみました。
後半もありますので よろしかったら覗いてみて下さい。


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