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【お話し】妖精と龍~後編~

 傷を癒しながら2人は話をした。
主にミリーちゃんが質問して 龍が答える形だったが。

「そういえば龍さんは何て言う名前なの?」

「我が名はコウヒ」

「コウヒ?」

「暁(あかつき)を飛ぶと書いて暁飛。」

「暁?」

「夜明けの赤い色だ。」

「夜明け。」

「体は黒いのだがな。」

暁飛は自嘲気味に笑った。
本来龍は 金の瞳に腹はミルク色、その他は
艶のある深い緑色だ。
 暁飛は 背も腹も手足も顔も、真っ黒だ。
何故なのか分からない。
突然変異か、神の悪戯か。
それ故に暁飛は仲間の龍からも離れて暮らしていた。

ミリーちゃんは暁飛の鼻先にフワリと飛んできた。
そしてじっと見つめた。

「暁飛の瞳の色が 暁なのね。キレイだわ。」

「・・・赤い瞳が?皆、気味悪がるぞ。」

「美しいわ。夜明けを見つめる瞳よ。」

暁飛は黙ってしまった。
その後も ミリーちゃんは質問攻めにした。

「どのくらい早く飛べるの?」
「どこまで行ったことある?隣の国には?」
「龍って何を食べるの?」
「神様の声って聞いたことある?」
「どうして、その怪我をしたの?」
「ふーん。雨って龍が降らせる訳ではないの
 ね。」

「我にそんな力はない。我にあるのは守る力だけ。それでも神の力には及ばん。」

「ふーん。」

「そなたは何故ここに?」

「貴方が傷付いた嵐。あれでね、お花達もたくさん傷付いたの。」

その花を元気づけようと ミリーちゃんは何日も飛び回っていた。
妖精の力を使って、草花に元気を分け与えた。
けれど、それでも足りなくて枯れてしまった花もあった。
心身共に疲れてしまって ここへ来たのだ。

「そなたも我と同じ嵐で身を削ったのだな。
 小さな体で難儀なことよ。」

「暁飛は優しいわね!」

「・・?」

「体は大きいけど 心は優しいわ。何でみんな怖がるのかしら。」

ついこの間までミリーちゃんも暁飛の姿を見ると サッと隠れていたのに、そんなことは忘れてしまっている様子だ。

「我の姿が恐ろしいのだろう。」

「暁飛も、もっとみんなと話せば良いのに。」

「話す前に皆逃げる。」

「そっか。あ!じゃあ私が暁飛は怖くないよってみんなに言ってあげるわ!」

ミリーちゃんは暁飛の顔の前で、えっへんと胸を張った。
一点の曇りもない瞳を 大きく見開いて、鼻息荒く話す姿に 暁飛はわらった。

「あ!笑った!いつもそういう顔をしていればいいのに。」

「可笑しくもないのに笑えん。」

「今は笑っているじゃない。何が可笑しい 
 の?」

暁飛は『そなたが可笑しい』とも言えず、笑いを堪えていた。
どうも調子を狂わされっぱなしだ。
もっとも、人とこんなに話したことも無かったのだから、致し方ない。

「ねえ!暁飛、ゲキリンって何?」

「!!」

暁飛は表情を固くして 警戒した。

「何故そんなことを聞く?」

「前に誰かが言っていたの。龍のゲキリンに触ると殺されるって。でも暁飛はそんなことしないでしょ?」

「我も命を奪うかも知れんぞ。」

暁飛はジロリとミリーちゃんを睨み付けた。

「フフッ。暁飛はやらないわ。私には分か
 る。わざとそんな目をしてもダメよ。」

暁飛は小さく溜め息をついて クイッと顎を上げた。
ノドの脇辺りに 一枚の銀色に輝く鱗が見えた。

「キレイ・・・」

他の鱗は黒いのに、一枚だけ月の光を受けて
キラキラと輝いている。

「この鱗だけ逆に付いているから『逆鱗』。」

「逆鱗。」

「さよう。これは我の命。心底信じ合った者、もしくは愛した者、あるいは主と定めた者に渡し 命尽きるまでその者を守り慈しむ。」

「そうなんだ・・・」

逆鱗は龍の心だ。
逆鱗を渡す事は 心を渡す事。
命を預ける事だ。
時に無理やりそれを手に入れ、龍を従えようとする輩もいる。
意に反して逆鱗を奪われても、龍は手に入れた者を守らねばならなくなる。
だから龍は、勝手に逆鱗に触ろうとする者に
怒りを顕にするのだ。
寿命が尽きるまでに その相手に出会えれば
幸運。
出会えず終わる者も たくさんいる。
出会えず生涯を終えた龍の逆鱗は その身が朽ちてもそのまま残る。
それを見つけて自身の物にすれば、生涯飢える事もなく、幸せに暮らせるラッキーアイテムになると言う。
それくらい力の強い鱗なのだ。

「ねぇ、そーっと触ってもいい?」

「は?」

暁飛は 龍らしからぬ声を出してしまった。

「絶対にとらないわ。そーっとそーっと触るだけ。だってとっても美しいのだもの!」

「そなた、我の話を聞いていたか?」

「聞いていたわ!だからそーっと。」

またもや大きな目を目玉が落ちるのではないかと言うくらい見開いて、キラキラとさせている。

暁飛は、また小さく溜め息をついた。

「・・・少しだけだぞ。」

普段なら絶対に触らせない。
月の光で心が柔らかくなっていたせいか。
ミリーちゃんに根負けしたせいか。
暁飛は、首を持ち上げた。
ミリーちゃんはそーっと 人差し指と中指で
逆鱗をなでた。
その時、龍の体に甘い痺れが走った様に感じた。
ピクリと暁飛は 身を震わせた。

「すごいスベスベだねー。」

暁飛は、訳の分からない痺れと感情を持て余し
立ち上がった。

「我は もう戻る。傷も塞がった。」

ミリーちゃんはまた暁飛の顔の前まで飛び上がった。

「ねえ、暁飛はいつもどこに居るの?今度遊びに行ってもいい?」

暁飛は黙ってミリーちゃんを見つめていた。

「だめかしら?」

「清涼の谷。滝の裏が我の寝床だ。」

ミリーちゃんはパッと明るい顔を暁飛に向けた。

「そうなのね!必ず行くわ!少し遠いけど
必ず!!」

「・・・そなたの好きにすれば良い。」

暁飛は高く舞い上がり、あっと言う間に姿が見えなくなってしまった。
ミリーちゃんもフワリと飛び上がり鼻歌を歌いながら 自分の花畑に戻っていった。

さて、種族の違うこの二人、育つのは友情か
はたまた何か違うものか。

龍の逆鱗に初めて触れた妖精ミリーちゃんと
他人の優しさに初めて触れた龍、暁飛。
二人の物語りはこれから始まる・・・
・・・のかもしれない。

                 おしまい

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

最後までお読み下さってありがとうございました(*^▽^*)
短編はどうも苦手で、結局、前後編になってしまいました。
しかも後編はちょっと長い💧
KeigoMさんのイラストと、冒頭のお話しを拝読して、続きを書いてみたくなりました。

拙いお話しですが、お許し下さいね。
KeigoMさんには、快くお話しを作ることをお許しくださって感謝致します。
他にも妖精シリーズや、夢の中のシリーズなど
ステキな作品を描かれていらっしゃいます。
そちらも、ぜひご覧になって見てください。

皆様の上に たくさんの幸せがあります様に。
                光川 てる


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