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【小説】女子工生⑪《恋の自覚(2)》

恋心と小さい傷

「お前それ、おやつじゃねえだろ。」

清文(きよふみ)が呆れている。
広樹(ひろき)の前に置かれたトレーの上には、
テリヤキバーガーにチーズバーガー、ポテトに
アップルパイとコーラのLサイズが乗っている。
そもそも 昼過ぎに集合しているのだから、食事の予定は無い。
他の4人は ポテトのLサイズを1つ買って、みんなで摘まんでいる。
飲み物はそれぞれ買っているが、それにしても
広樹のおやつは、食事にしても多いくらいだ。

「なんかちょっと動くと腹減るんだよね。」

早速 テリヤキバーガーにがぶりついて モグモグしている。

「広樹の体は燃費が悪いのかな。たくさんガソリン食う車みたい。」

「体、細いのにね。」

聡(さとし)と徹(てつ)が笑う。
広樹が ゴクンとコーラでバーガーを流し込むと、珍しく真顔になった。

「ちょっとみんなに 相談があるんだけどさあ。」

いつになく真剣な顔だ。

「最近気になる子がいてさあ、終業式にクリプレ渡そうかと思うんだけど、どう思う?」

勇介(ゆうすけ)が、前のめりになって食い付いた。

「え、誰?誰?」

「デザイン科の子なんだけど、少し前に 廊下でぶつかっちゃって、その子が持ってた荷物、落としちゃったんだよ。部活で使う道具?美術の。結構な大荷物だったんで、謝ってソレ自転車まで運んであげてさあ。それから時々話す様になったんだ。で、可愛いなあって。」

「お前、バーガー食ってる場合じゃねえだろ!その金、クリプレに回せよ!」

勇介が本人よりもテンションが高くなっている。
徹が少し考えて言った。

「女の子へのクリプレなら、光り物が定番じゃない?ネックレスとかブローチとか。」

聡が摘まんだポテトの先で、徹を差して言う。

「そう言う徹は、光り物買わないの?真白に。」

一瞬みんなが黙って、徹が飲んでいたコーヒーを吹き出しかけた。
今度は広樹が食い付いた。

「何?テツって、やっぱりそうだったの?仲いいなーとは、思ってたけど。」

徹は、焦って何も言えずに固まっている。
聡がポテトを口に運びながらニヤリとした。

「いや、ずーっと自覚なしでいたみたいでさ。いつ気付くのかなーって 観察してたけど、この前の真白の告白事件の時、『あ、なんかテツ、自覚した?』てな感じ?」

清文もコーヒーの紙コップを片手にとぼけて
言った。

「え、テツ自覚なしだったのかよ。あんなにベッタベタなのに。こいつ、分かりやすいなーって、俺思ってたけど、本人無自覚って、なに
ソレ。」

徹は大混乱だった。
やっと先日、自分が真白の事を好きだと気付いたところだったのに、周りの皆の方が、自分の気持ちに 先に気付いていたと聞かされたのだ。

「え、え?いつから・・・・あの・・・」

うまく言葉が出て来ない。
聡がしれっと言った。

「ん?結構前から。」

清文も続けて

「俺も、斜め前のテツ見ると、その斜め前の真白をテツが見てるって事、よくあったぜ。あれも お前無自覚なの?」

と ニヤニヤしている。
そこへ広樹の駄目押しが来た。

「そう言えばテツ、入学式の日から真白の事
気にしてたもんな。ホームルームの間中、ずっと目で追っててさあ、で、“佐山(さやま)さんの事、きになるの?”って聞いて、俺が真白に声かけたんだった。ヒャー 一目惚れ?」

徹は、軽く握ったてを口に当てて考えていた。

「自覚したのは、真白が告白された時なんだけど、」

考え考え言葉にする。

「4月頃、自転車置場で 初めて清文と話した時、あいつ泣いたろ?」

「ああ、あの目付きが悪いとかの話しの時。」

勇介が思い出して言う。

「うん。あの時 なんかあいつの事、何とかしてやらなきゃって思ってさあ。」

「うん。」

聡が相槌を打つ。

「機械のヤツに絡まれた時、ほとんど清文が対応してくれたじゃん。あれは、清文でかいし、小熊先輩も参戦してくれたから、正解だったんだけど、ちょっと清文 カッコ良すぎって悔しかったり、聡が真白の事可愛いとか言うと、言うと、モヤモヤしたりして・・・・だから 皆の言う通り 随分前からあいつの事好きだったみたい。真白が野崎にコクられた時、俺、絶対嫌だって思っちゃったんだよね。あいつの隣にいるのは俺なのにって。自分から 何もしなかったのにね。」

「テツって女の子、まじで好きになったのって もしかして初めて?」

広樹が聞いた。

「うー。普通に好きな子はいたけど、・・・
うん、たぶん今までと何か違う。」

「だよな。9ヶ月近くも好きなくせに気付くの遅すぎだもん。」

広樹が笑いながら、アップルパイを食べている。
清文もからかう様に言う。

「テツ、そろそろ動かないと 第2、第3の
野崎が出てくるぞ。真白、普通にいいヤツだし、大体 工業は女子少ないんだからさ。
冗談じゃなく、クリプレ買ってったら いいんじゃねえ?ちゃんとアピって意識して貰わねえと、お前ずーっと良いお友達だぞ。その内親友に格上げされて、彼氏の相談なんか受ける羽目になるぞ。」

「それは嫌だな。」

「じゃあ、俺と見に行かねえ?皆は?」

広樹が言うと、清文が、首をふった。

「俺はいいや。友達が好きな女のプレゼント買うのに 付き合うのも何か虚しい。」

聡も続く。

「アハハ。僕も遠慮しとく。相手の事、よーく考えて選びなよ。間違っても さっき買ったハンカチとお揃いになんか しない様にね。」

勇介が、自分のジンジャーエールを ズズーっと飲み干してカップを机においた。

「じゃあ、ここで解散にしねえ?テツも、ヒロも、1人でじっくり考えて買った方がいいだろうし。」

「そうだね。そうしようか。」

聡が賛成すると、皆が頷いた。

「2人とも月曜日に何買ったか、教えろよ。」

勇介が笑って言った。
帰り際、聡が清文に並ぶ様に歩き、小声で言った。

「やっぱり清文、優しすぎ。損な性分。」

チラリと聡を見て清文も言う。

「お前もな。」

目を少しだけ合わせて小さく笑った。
2人の小さな恋心と、少し付いた傷は、2人だけの秘密になった。

広樹と徹は、さっき聡達がいた 雑貨屋を覗いていた。
ネックレスや、ピアス等、学生でも買える値段のアクセサリーが並んでいる。
広樹は、そのアクセサリーの棚の前で悩んでいる。
さすがに、初めてのプレゼントで、指輪はないが、ネックレス、ブレスレット、ブローチ、イヤリング、ピアス、アンクレット、髪止め・・
高校男子が選ぶには かなり難しい。
徹も、しばらく一緒に眺めていたが なんかピンとこないので、広樹に声をかけた。

「俺、違うとこ見て来るから、決まったら帰っちゃっていいよ。時間、かかるかもだし。」

「うん。また学校でな。」

売場を離れてぶらぶらしてみる。
モール内のどの店も クリスマスをイメージした飾りが、ショーウィンドウや、店内にキラキラと、光っている。
ふと、あるショーウィンドウに目が止まった。ポーズをつけた人形達が、冬物の洋服をコーディネートされている。
その中の1つが、薄紫色の毛糸のマフラーをしていた。
少し長めのマフラーの両端が、キュッと細くなっていて 先端に濃い紫の大きなボンボンが、ひとつづつ付いている。
真白に似合う気がした。
値札を見ると、2500円。

さっき買ったハンカチもあるので、持っていた
小遣いは ほぼ終る。
でもネックレスや、ブレスレットよりも 真白にぴったり来る様な気がした。
思い切って店に入る。
定員に声をかけ、人形から、そのマフラーを
外してもらった。

「すみませんが、なるべく小さく包んで貰えますか?」

と、頼む。
真白の家に行く時に持っていくのであれば、目立たないように、いつも持ち歩いている バッグの中に入れて行きたい。
店員はニコニコと笑って

「かしこまりました。」

と、手際よく くるくると小さくまとめて 包んでくれた。
クリスマス仕様の包み紙に、赤いリボンが付いたシールを貼ってくれた。
広樹にラ○ンを送る。

 (買い物終ったよ。先帰るな。)

広樹は、まだ迷っている様で、

 (了解。後で何買ったか教えて。)

と、返って来た。

 (OK 月曜学校でな。)

と 返し、クリスマス前の人混みの中を
ちょっと浮かれた足取りで 帰路に着いた。

                 ⑫に続く






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