BBC「生成AIによる児童画像」の記事に疑問あり(2)〜既視感の正体それは「非実在青少年条例」〜

「非実在青少年条例」を思い出した

 6月28日BBC Newsの記事「Illegal trade in AI child sex abuse images exposed」(※1)について。続きです。

 このBBCの記事は、如何様にも解釈が可能な悪文とも言えますが、既視感があります。思い当たったのは、2010年の東京都健全育成条例の改正案。漫画やアニメへの表現規制が危惧された、例の「非実在青少年条例」案です。
 この条例案、内容もさることながら条文の曖昧性もまた問題となりました。市民への強制力も発生するのが法律や条例なのだから、条文は拡大解釈の余地を減らし明確性を保持すべしという指摘もされました(※2)。
 この「非実在青少年条例」の時もそうでしたが、今回のBBCの記事のような曖昧な文章というのは本来解決するべき問題を撹乱してしまうということも問題であると考えています。人権侵害から救済すべき人々がいるにもかかわらず、「問題の撹乱」により別の不適切な目的に(資金的・人的)リソースが奪われてしまうことにもなりかねません。

まず情報を整理するべし

 問題を撹乱すれば情報を混沌化するばかりで、問題の解決から遠ざかります。何かの問題の解決を目指すならば、そうではなく、まず情報を整理するべきではないでしょうか?

・どういう状況があり
・何が問題で
・どのような手段で、その問題を解決するのか
・その手段は実現可能な手段となっているのか
・その手段を成し遂げるための予算は
・その手段を成し遂げるための期間は
実はこうした情報の整理は、一部に「(問題の)解決策の提示」を含むデザインという仕事においても用いられています。デザインに限らずあらゆるビジネスで、このような整理をいったん行うのではないでしょうか?

今回のBBCの記事の件も本来ならば同様に、「生成AIによる性的な児童画像」があるとして何らかの問題解決を目指そうとするのならば、まずは整理するべき点があったのではないでしょうか?

・人権侵害がされている児童がいるのならば、救済しなければならないが…
・守りたいのは個人の人権か社会的な道徳か(混同はないか?)
・当該画像を「児童ポルノ法」で取り締まるべきか?(「児童ポルノ法」を用いるのは本当に妥当か?)
・当該画像が実在する個人に激似である場合、名誉毀損の問題として考えられないか?
・当該画像があることで何らかの問題を起こすのならば、法律による取り締まり、それとも、企業による自主規制(ガイドラインを設けユーザーに遵守を義務づける等)が適切なのか?(状況に応じた手段の検討)
※なお、一言付け加えるが、Pixivは以前から厳しいガイドラインを設けており、時代の状況に応じて改訂をし続けている。

 そして、予算や人員、時間等のリソースは限られているということも、考慮しなければなりません。情報の整理に基づき、適切な目的・その目的を実現するための適切な手段のために、限りあるリソースは使われなければなりません。そのためにも、まずは、人権がない「生成AIによる児童」と、人権がある実在する児童とを混同するのをやめるべきではないでしょうか? 急がれるのは、今現在、人権侵害の状況

「児童ポルノ法」での取り締まりは妥当か?

 とはいえ、仮に私に激似な「生成AIによる性的な画像」が流通しているとするならば、私ならまず弁護士さんに相談しようとするのは確かです。ただ、私が仮に「児童」の年齢であるとしても、「児童ポルノ法」での取り締まりは本当に妥当なのかについては、疑問があります。「児童ポルノ法」では、立法趣旨とズレてきてしまうのではないでしょうか?

最後に

 最後に、第186回国会衆議院法務委員会議事録が残っているので、リンクを共有しておきたいと思います。日本の「児童ポルノ法」の改訂のいきさつや、どんな問題がありどんな整理に基づき制定された法律なのかを少しでも知ることができるかと思います。
第186回国会衆議院法務委員会議事録
https://kokkai.ndl.go.jp/#/detail?minId=118605206X02120140604&spk

この法務委員会、実は私も傍聴しました。今でも、全体を通して大変興味深く読むことができますが、「011」谷垣さんの部分は必読かと思います。保護法益は個人的法益であり、実在の子供の権利を守ることを目的として立法されていることがわかります。

[注釈]

(※1)6月28日BBC Newsの記事「Illegal trade in AI child sex abuse images exposed」
https://www-bbc-com.translate.goog/news/uk-65932372?_x_tr_sl=auto&_x_tr_tl=ja&_x_tr_hl=ja&_x_tr_pto=wapp

(※2)興味ある方は、当時の文献やSNSを掘り起こしていただければ良いかと思います。

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