ハイレベルな学芸会〜『るつぼ』作:アーサー・ミラー、演出:リンゼイ・ターナー

ナショナル・シアター・ライヴでアーサー・ミラー作『るつぼ』を見てきた。
17世紀末のセイラムの魔女狩りとマッカーシイズムを重ね合わせて、アーサー・ミラーが1953年に執筆した戯曲である。主役のジョン・プロクターが、カウボーイの祖型のような役どころなのが興味深い。村から離れた牧場に住む粗野で独立独歩の男であり、教会にもめったに顔を出さない。その彼が村と関わりを持ってしまったことから、歯車は動き出す。それに拍車をかけるのも同じはぐれものたちだ。導火線となったのはバルバトスからの黒人奴隷ティテュバであり、また、それを拡大させたアビゲイルは、居場所のない年頃の女性であった(何度も「娼婦」と罵られる)。閉鎖的な宗教共同体に棲む、アメリカが抱える彼ら異分子たちに対する恐怖と抑圧から生まれた歪みが、最悪の形で燎原の火となって村全体を覆っていく。

冒頭と最後に叙事的な説明が挿入されているのは原作にない演出のようだが、あまりに安直で演出の意図が全くわからない。今の時代、そしてイギリスで、この戯曲を上演することについて、演出のリンゼイ・ターナーがどれほど批評性を持ち合わせていたのかよくわからなかった。広田敦郎氏によれば、『るつぼ』は学校でよく演じられることもあり、上映回数が極めて多い劇だという。だからというわけではないが、批評性の欠如から、優れた戯曲を優れた舞台美術で優れた俳優が演じたハイレベルな学芸会、という印象を受けた。

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