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【Web対談】「ブランド法務」第2回:商標法の核心に迫る~商標的使用とは何か?

松澤: 第2回は「商標的使用」という話を紹介しよう。商標は、商品やサービスを区別するための目印だから、当然ながら商品やサービスに「使用」されてこそ意味があるものといえる。けれど、「商標的」な使用とそうじゃない使用があるというのが、今回のテーマ。
「商標的使用」の議論が分かると、商標法の理解は大きく前進する。商標法の核心に迫る重要な論点だね。
土野: その通りだと思う。「商標的使用」の議論をするためには、「商標的」という意味がわからなくてはいけない。つまりそれは、「商標とは何か」を議論することに等しいからね。
松澤: これまで論じてきた「商標とは何か」という話とつながっているわけだね。

商標的な使用?

土野: そうそう。で、この「商標的使用」という言葉は、文字通り「商標的に使用する」という意味だけど、そもそも商標の話をしているんだから、「商標的に使用する」なんて当たり前じゃないか、と読者には思われるかもしれないね。
これが「議論」になるのは例えばどんなときだろう?
松澤: 確かに使用してはいるけど「商標的」に使用してはいない、と反論する場面で議論になる話だよね。
例えば、フミさんが僕に対して「俺の登録商標『ヒジ農園』を使うな」と警告してきたとして、僕が「いやいや、確かに使用はしたけど、『商標的』に使用していないから、フミさんの権利は侵害していないよ」と反論するような場面を想定しよう。
土野: 登録商標『ヒジ農園』を保有している僕としては、同じ『ヒジ農園』という商標をマツさんが確かに「使用」していることを発見したからこそ、「『ヒジ農園』を使うな」と警告したはず。つまり、商標権侵害だ!と主張するだけの状況はあるはずだよね。
ここで、商標法の条文からみた「商標権侵害」の要件を確認してみようか?

条文上の「使用」

松澤: どういう場合が「使用」に当たるかは、商標2条3項に定義がある。例えば、商品やその包装にマークを付けることは、「使用」に当たる典型的な行為とされている。
土野: そうすると、マツさんが「登録されたマークである『ヒジ農園』を商品(りんご)に付ける」という行為をしたら、条文上、他人の「登録商標」を「使用」したことになる。 
そして、「商標権者(僕)は、指定商品(りんご)について登録商標『ヒジ農園』の使用をする権利を専有」している。
だから、マツさんがした行為に対して「商標権侵害だ!」と主張するわけだね。
松澤: 要するに、勝手にマークを勝手に使われた側(フミさん)としては、「商標権侵害だ!」と文句を言いたい。これに対して、マークを使った側(僕)の言い分として、「商標的使用ではないから、商標権侵害じゃない!」という反論があり得るわけだ。
土野: さて、ここで問題になるのは2つ。
1つ目は、「商標的使用」とはどのような「使用」のことをいうのかということ。
2つ目は、「商標的使用」とはいえない場合、なぜ商標権侵害を否定していいのかということ。

「商標的使用」とは

松澤: 1つ目に関しては、以前から、判例において、出所表示機能を発揮する態様でマークを使用していると認められないときは、商標的使用ではないとされてきた。つまり、商標的使用というのは、「出所表示機能を発揮する態様での使用」と考えられてきたわけだ。
土野: ここで前回の対談で出てきた「出所表示機能」の理解が必要になるわけだね。
出所表示機能とは、平たく言えば「その商品・サービスの出所はどこか」を表示する(あるいは他と区別する)機能、ということになるわけだけど、じゃあ「出所表示機能を果たす態様で使用していない」と言えるような使い方って何?ということになるね。
松澤: 一例をあげると、著名な裁判例に巨峰事件(福岡地裁飯塚支部昭和46年9月17日)というのがある。これは、包装用容器について登録商標「巨峰」を保有している者が、「巨峰」と書かれた段ボールをぶどう農家に納品していた段ボール製造業者を訴えたという事件。
この事件で、裁判所は、段ボールに書かれた「巨峰」の文字は、段ボールの中身である巨峰の表示であって、段ボールについてのマークの使用ではないと判断した。つまり、この事件では、段ボールの出所表示機能を発揮する態様で使用されていないから、商標的使用ではないと判断されたと考えられる。
土野: この段ボール製造業者は、

「巨峰」という文字(文字もマークの一種)を、商品「段ボール(包装用容器)」に付ける

という行為をしたわけだけど、この行為は、商標法の条文に形式的に当てはまると

他人の登録商標である「巨峰」の文字を、その登録商標の指定商品である「段ボール(包装用容器)」に、「使用」した

ということになる。

そして、登録商標を指定商品に「使用」する権利を商標権者(この事件で訴えた方)は専有する。
だから、段ボール製造業者の行為は、商標権侵害ではないか?
ということで訴えたわけだね。

<ダンボールに「巨峰」の文字が付されている>

土野:だけど、

「ぶどうである巨峰を入れるための段ボール」に「大きく目立つように『巨峰』とプリントされている」とき、
その「巨峰」の文字を見た人は、その「巨峰」の文字はあくまでも「中身のぶどうの名前を表示したもの」であって、「段ボールの出所を表示したもの(=段ボールの商標)」とは思わないだろうと考えられる。

だから、たとえ形式的には「他人の登録商標を包装用容器に付けた」としても、実質的には「他人の登録商標を包装用容器の商標として使用した」とはいえない、と判断したということだね。

「商標的使用」でないとなぜ商標権侵害が否定されるのか

松澤: 次に、2つ目の点で、「なぜ商標権侵害を否定していいのか」ということだけど、まさに前回の話である「商標の機能は何か」とつながってくるところだね。
出所表示機能は商標の本質的な機能だから、その機能が害されていないならば、商標権侵害として扱わなくていいという考え方が背景にある。つまり、出所表示機能を発揮する態様で使用されていない場合には、他人の登録商標の出所表示機能は害されていないから、商標権侵害にはならないという理屈だね。
土野: 商標権侵害というからには、「商標権により守られるべきもの」が害されているといえなければならない、ということだね。
松澤: 「守られるべきもの」は出所表示機能であり、出所表示機能を発揮する態様での使用でないなら、他人の登録商標の出所表示機能は害されない。よって、商標的使用でないなら、商標権侵害と扱わないということになる。
土野: 商標の世界では常に「ここに付されている商標は何の商品・サービスの出所表示になっているだろうか?」「自分が想定している商標の使い方だと何の商品・サービスの出所表示になるだろうか?」という視点を忘れてはいけない。
今回の「商標的使用」の話を通じて、「商品の出所を表示する態様でマークが使用されてはじめて、そのマークはその商品の商標として機能する」ということを覚えていただければと思う。

さて、「商標的使用」についてはいったんここまでにしようか。
第1回からここまでの話を通じて、「商標とは何か」が少しでもわかっていただけたら嬉しいね。
では、また次回をお楽しみに!

<著者プロフィール>

■土野 史隆(Fumitaka Hijino)

「知的財産 × ブランド × 身近さ」で、ブランド目線の商標戦略をサポートする「ブランド弁理士」。特許業務法人Toreru/株式会社Toreruのパートナー弁理士/COO。株式会社アルバックの知的財産部にて企業目線からの知的財産保護に従事した後、秀和特許事務所にて商標・意匠分野のプロフェッショナルとして国内外のブランド保護をサポート。2018年9月より現職。知財の価値を最大化させる「速い × カンタン × 専門性」を兼ね備えた新しい知財サービスを創っている。


■松澤 邦典(Kuninori Matsuzawa)

東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。2015年に弁護士登録(東京弁護士会)。骨董通り法律事務所For the Arts所属。著作権・商標権を中心とした知的財産権を専門とし、映画・音楽・出版などのエンタテインメント業界の紛争事案を多く扱う。著書に『わかって使える商標法』(共著・太田出版)、『Q&A引用・転載の実務と著作権法〔第4版〕』(共著・中央経済社)。


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