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【Web対談】「ブランド法務」第3回:商品・役務、先にありき!

土野: さて、第3回のテーマは「商品・役務、先にありき」ということで話していきたいと思うんだけど、そういえば、この「商品・役務、先にありき」という言葉は、マツさんの商標のお師匠さんから言われたことだ、っていうエピソードがあるみたいだね。
松澤: 僕に最初に商標の面白さを教えてくれた人の言葉だね。僕にとっては商標の師匠ともいえる存在。
ブランド戦略では、パッケージデザインをどうするとか、ホームページをどうするとかいったことよりも先に、まず「何を誰に提供するのか」を明確にした方が良い。同じように、商標の世界でも、「その商標をどんな商品やサービスに使うのか」を先に決めるのが良い。
「商品・役務、先にありき」とは、文字どおり、「まずは商品・役務を決めよう!」という意味だ。

「商標」と「商品・役務」は常にセットである

土野: 「商品・役務を先に決めるべき」というのは、前回までに話をしてきた「商標は、商品・役務の出所を区別するための目印だ」ということとリンクする。
つまり、それが「商標」であるかどうかはあくまで「商品・役務」との関係で決まるものだから、「商標」と「商品・役務」は常にセットなんだよね。
松澤: 権利という観点から補足すると、商標権というのは、登録の時に指定した「商品・役務」について商標の使用を独占する権利だ。登録の時にどの「商品・役務」に使うのかが定まっていないと、権利化しようがないよね。
土野: さらに言えば、商標権というのは、「商品・役務」が全く違えばたとえ同じ商標であっても別の人が取得することができる。つまり、「商品・役務」が決まらないと、その商標が登録できるかどうかも決まらないということ。
これらの意味で、「商品・役務、先にありき」というのは正にその通りだね。
じゃあ、「商品・役務」はどうやって決めたらいいのか、ということになるわけだけど・・・これが簡単そうに見えて以外と難しいんだよね。

指定した「商品・役務」は本当に合っているか

松澤: 指定されている「商品・役務」が実際にやっているビジネスと整合していない例も見かけるよね。
土野: 典型的な例でいえば、自分の商品のチラシ(宣伝広告物)に商標を使うからということで、第35類「広告」を指定しちゃう、みたいなことが起きてたりするね。
松澤: 僕が経験した例では、「商標権侵害の警告状が届いた」という相談を受けて、相手方の登録商標を調べてみたら、的外れな商品・役務で登録していて、「何だこれ、全然怖くないな」と思ったことがあるよ。
土野: 「商品・役務」が的外れになっていると、主に次のような不都合が起こってしまう。だから「商品・役務」の指定ミスがとても怖いんだ。

適切に「商品・役務」を指定するには

松澤: 商品・役務の指定ミスが起こらないようにするには、どうすればいいだろうか?
土野: 一番は、「中途半端な知識で商品・役務を選ぼうとしないこと」だと思うな。はっきり言って、今回の記事を読んでもなお自信があると言える人以外は、プロに頼んだ方がいいと思う。
特に、商標実務が「一見簡単そう」に思えるところが落とし穴。何故簡単そうに思えてしまうかといえば、「特許庁が公表している商品・役務リスト」から選んでくれば、出願書類自体は整ってしまうから。
このリストから選んでくれば商品・役務の「書き方」自体には問題がないので、商標の方に登録できない理由がなければ、無事登録できてしまう。でも実際は、そのリスト上の商品・役務表記がそれぞれどんな内容の商品・役務をカバーするものかを正しく理解していないと、不適切な権利を作ってしまう。
土野: 深く理解した上で「リスト」を使うのはいいんだけれど、ただ「リストから選んでくる」という考え方はおすすめできない。
書き方に一定のルールやコツはあるとはいえ、商品・役務は基本的に自由に書くことができる。だから、まずは自分がその商標を使う「事業」を商品・役務レベルに落とし込んで、それを自分の言葉で表現してみようとすることが大切だと思う。

松澤: まずは特許庁のリストを見ないで、自分の言葉で商品・役務を書き出してみた方が良いということ?
土野: そうだね。「自分の言葉で書いた商品・役務」をそのまま出願書類に書くかは別として、自分の言葉で書き出すという作業はした方がいい。最終的に特許庁のリストから持ってくるとしても、出願の内容は、「特許庁のリスト合わせ」ではなく「実際の事業(自分で書いた商品・役務)合わせ」にすべきだからね。
それに、最近世に出てきたこれまでに無い商品やサービスは、そもそも「特許庁のリスト」には載っていないことも多いし。
松澤: なるほど。「実際の事業合わせ」をすべきだというのは、本当にその通りだね。実際、「何でこの会社はこんな商品・役務の書き方をしているのかな?」と疑問に思う登録例はよく見かける。特許庁のリストから持ってこようとする意識から、歪(いびつ)な書き方になった可能性は確かに高そうだ。
土野: 一方で、「自分の言葉で書いた商品・役務」とは言っても、どんな書き方でも特許庁が認めてくれるわけではないのも事実。
要するに、特許庁が認めるポイントを押さえつつ「実際の事業合わせ」にする必要があるのだけれど、これが専門知識の要るところなんだ。
松澤: 確かにフミさんのように数多くの出願を代理してきたプロは、特許庁との間合いも分かっているし、専門知識に自信がない場合や特に大切に育てていきたいブランドの場合などはプロに依頼するのも手だよね。
自分で出願する場合はもちろんだけど、プロに依頼する場合にも最低限の知識はあった方がいいだろう。
そこで、次回は特許庁のリストについて基本的なところを確認していこう。

それでは、次回もお楽しみに。

<著者プロフィール>

■土野 史隆(Fumitaka Hijino)

「知的財産 × ブランド × 身近さ」で、ブランド目線の商標戦略をサポートする「ブランド弁理士」。特許業務法人Toreru/株式会社Toreruのパートナー弁理士/COO。株式会社アルバックの知的財産部にて企業目線からの知的財産保護に従事した後、秀和特許事務所にて商標・意匠分野のプロフェッショナルとして国内外のブランド保護をサポート。2018年9月より現職。知財の価値を最大化させる「速い × カンタン × 専門性」を兼ね備えた新しい知財サービスを創っている。

■松澤 邦典(Kuninori Matsuzawa)

東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。2015年に弁護士登録(東京弁護士会)。骨董通り法律事務所For the Arts所属。著作権・商標権を中心とした知的財産権を専門とし、映画・音楽・出版などのエンタテインメント業界の紛争事案を多く扱う。著書に『わかって使える商標法』(共著・太田出版)、『Q&A引用・転載の実務と著作権法〔第4版〕』(共著・中央経済社)。



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