見出し画像

「GUITARHYTHM」完璧という言葉が相応しいコンセプトアルバム

音楽であれ、映画であれ、その他どんなアートであれ、未知の作品に初めて触れた時の衝撃は忘れられないものとなる。

私にとって、BOØWYとの出会いがそれであった。

歌謡曲や、その他テレビから流れる音楽しかしらなかった私。当時放送していたTBSの「ザベストテン」の11位~20位の紹介で流れた、ほんの一瞬の映像に自分の中でうごめく強烈な気持ち悪さを感じたのが始まりだった。中学1年の私にとって、ジュリーこと沢田研二以来の化粧をした男性だったロックバンド、BOØWYの音楽に虜になってしまうのに時間はかからなかった。

インターネットも無く、中学から高校の時期のお小遣いには限界があり、雑誌を断ち読みするくらいしか情報源はなかった。それでもBOØWYに関する記事はたくさん読んだ。そんな彼らが最高のロックバンドのまま、解散した。授業を抜け出して公衆電話から何百回とかけた「LAST GIGS」のチケットは、東京都の電話回線がパンクするアクシデントもあり、とれず、一度も観たことのないままBOØWYは伝説となった。

その喪失感に対して、ギタリストである布袋寅泰のソロアルバム「GUITARHYTHM」はBOØWY最後のライブから9か月後に発売された。

画像28

画像1

正直、早っ!と思った。

もちろん予約をして発売日当日に買いに行った。驚いたのは、全編英語だった。ヒムロックの歌を愛していた自分には布袋のヴォーカルは、なんだか新種の爬虫類が叫んでいるように思えた。

BOØWY最後のアルバムである「PSYCHOPATH」と唯一似てると思ったのは、1曲目から最後まで全編を通してなにか統一感というか、ストーリーが背景にあるように感じたことだった。そして、その感覚は「GUITARHYTHM」の方が「PSYCHOPATH」よりも遥かに上回った。

聴いているのはアルバムなのに、まるで近未来と中世を融合させたような世界観のファンタジー映画を見終わったかのような気分になれる、それが布袋寅泰のソロデビュー作「GUITARHYTHM」だった。

画像2

では、そのアルバムの世界を紹介しましょう。

画像3

画像4

1曲目は「LEGEND OF FUTURE」写真にもクレジットがあるようにインスト(ヴォーカル無し)カヴァーである。目を瞑って耳を澄まして聴いて欲しい。壮大なアドベンチャー映画のオープニングのようなこの曲は、日本のロックの頂点に立った男の新たなスタートである。クラシック音楽など聴いたことのない中学3年当時の私には、こんな音楽を聴いてちょっと背伸びして大人になったような感じさえした。オーケストラの演奏なのか、短いながらも徐々に盛り上げ、最後はこれからコンサートが始まるかのように弦楽器と管楽器が一体化し、ティンパニーがそれに続く。ぼくの胸のドラムが高まる。

画像5

画像6

2曲目「C'MON EVERYBODY」イントロから印象的なリズミカルなギターの音色が布袋寅泰のギターから弾き出される。一度聴いたら忘れないキャッチーな音。心の中に期待していた通りのジャンルの音楽であったことは、まだ子供だった当時の私には嬉しくて仕方なかった。そして、BOØWYの代表曲「ONLY YOU」での名コーラスである「under the moonlight(歌詞)」に代表されるような布袋寅泰の声がメインになって帰ってきた!しかも全編英語だ!度肝を抜かれた。当時の私の英語力では意味は後からゆっくり訳さないとわからなかったが、とにかくカッコイイのである。2番になる頃にはクラップを入れ、一緒に「C'MON EVERYBODY」と叫んでいたのである。冷静になってわかったのだが、これもカヴァーだったのは少し残念だった。(数年後にUFO(バンド名)など、いろいろと知ることになる。)

画像7

画像8

3曲目「GLORIOUS DAYS」全曲でかかった脳内ホルモンを産み出すマシンのエンジンは、この曲に入り早くも最高潮に達する。この4年後に自分がアメリカに移住するなんて未来はまだ見えていなかったが、このアルバムは私が英語を好きになるきっかけのひとつであったことは間違いないであろう。とにかく、カッコイイの一言に尽きるのである。この曲で使われるフレーズ「うぉおおぉぅ」は、後に色々な方がモノマネで誇張するフレーズの原点であると思う。私はバイクを運転したことがないが、この曲を聴いている時は、レーサーだ。まだ失恋どころか恋すらしたことのなかった男子校の中学生にとっては、ちょっぴり憧れる恋の歌なような気がした。

画像9

画像10

4曲目「MATERIALS」オンワード樫山のCMで使われていたので、初めて聴いた瞬間、あ!あのわけのわからないCMの曲だっ!となった。オンワード樫山は、勝手にジュエリーか何かの会社だと思っていた。15歳の少年が知るロックではなく、この曲は完全に前衛的で当時の最先端の音だった。後にファーストライブで布袋寅泰が来た衣装がその音を具現化したかのような未来的要素があり、この曲はまさにその代表な気がした。そしてこのアルバムの中では、当時の私の英語力でもすぐ歌えそうな歌詞が大好きだった。でも訳しても全く意味はわからなかった(笑)。

画像11

画像12

5曲目「DANCING WITH THE MOONLIGHT」えええ!なんで?ガキの自分には盛り上がってるんだからバラードやめよぉーよっ!そんな気にさせたゆったりとしたテンポの曲。第一印象は悪かったのだが、再生が数回目になると・・・あれ?この曲、すごく気持ちいい!という感想に変わる。それはサビにある「Holding you tight」と「Dancing with the moonlight」という歌詞と歌詞の間にある「うぉおおぅ」という布袋寅泰のシャウトに対して、女性コーラスが入れる「ふぅぅ~」が最高だからだ。カラオケで歌うなら、絶対これをやってあげたい!もしくは、やって欲しいのである。

画像13

画像14

6曲目「WIND BLOWS INSIDE OF EYES」この曲でロックコンサートから全曲でちょっと落ち着かされた私の心は、再び映画のワンシーンの中にワープする。そうワープするのだ。砂漠の中に現れた敵のボスが登場する。まさにそんな場面がピッタリの曲である。英語でさえ、いっぱいいっぱいの中坊にとって、もう何語だかわからない言葉が紛れ込み、砂漠の魔法使いの呪文にやられてしまうのではないか、大ピンチだ。

画像15

画像16

7曲目「WAITING FOR YOU」なんとか砂漠の魔法使いから逃げることができた(倒してはいない)私は、急にフットルースのような世界観の曲の中を旅する。めちゃめちゃ明るくて、そして何度も何度も言うがカッコイイ、あれ?もうBOØWYだとか、布袋寅泰初のヴォーカルだとか、そんなこと、とっくに忘れている自分に気づく。コーラスワークが掛け合い風なのも手伝って、本当にミュージカルの世界の様な気になる。ギターソロは、流石は布袋寅泰と言わんばかりで圧巻である。そして、驚いたのはこの曲の終わり方である。ヴォーカルが楽器の一部、そんな手法なんだ!そんな評論家みたいな気分にさせてくれたのも、私には心地よかった。

画像17

画像18

8曲目「STRANGE VOICE」うわ~砂漠の魔法使いじゃなくて、今度は、世界一の雪女が降臨してきた!なんかギターじゃない音(当時の最先端のエフェクターを使ったギターの音)も入っちゃってるし、えええサビ、布袋寅泰じゃないの???ビブラートのかかったオペラ調の女性の声にびびったのも束の間、あ、こっちがサビかとちょっと安心する。そんな不思議な曲である。でも意外にも終わり方はシンプルなのであった。

画像19

画像20

9曲目「CLIMB」登るという意味の英単語、印象的なスペルです。なんで語尾に「B」が付くんやねんっ!と当時の私は思ったものでした。そして、時を同じくしてこのアルバムが出た年、当時全盛期の巨人のクロマティーが同名のバンドでデビューしました。とまあ、そんなことは置いておき、この曲はイントロの声なのか、楽器なのかわからない効果音から始まり、シンセサイザーと布袋寅泰のドライブするギターリフで始まります。そうです、正義のヒーローが砂漠の魔法使いやら、雪女の女王と戦いますっ!どの曲もそうですが、もちろんこの曲もギターソロがカッコイイ、この4倍は弾いて欲しい!そう思わせます。そして、ソロの後には、布袋寅泰が声をオーバーダブしてるパートがあります。シンプルなシンセサイザーのメロディと重なって盛り上がっていき、最後にはフェードアウェイします。

画像21

画像22

10曲目「GUITARHYTHM」アルバムタイトル曲だけに単純な私は期待でいっぱいです。もうBPM最速なすげ~かっけ~曲が来るのかと身構えちゃいます。妄想映画のシーンで言えば、最後の戦いで必殺技で勝つ!そんな見せ所のはずでした。しかし、実際には、主人公も砂漠の魔法使いも雪女の女王も全員一緒に踊りだすのであります。そして、ファンタジーアドベンチャーだった世界は、マッドマックスや北斗の拳の様な近未来に変化したように思わせる。ロックでありながら、それを超越したダンスミュージックなのである。いや、布袋寅泰というジャンルだ。いや、「GUITARHYTHM」という音楽なのである!

画像23

画像24

11曲目「A DAY IN AUTUMN」映画で言うとエンドロールだ。1曲目が始まりを予感させる曲調だったから、この曲は終わりに相応しい曲になるのでは?と思っていたら3分を超えたあたりから盛り上がる盛り上がる!映画で言えば、これパート2へ続くタイプのエンディングやな~と唸ってしまう。しかし、5分を超えてからは、鳥が大空を羽ばたきながら、いろいろな大陸、いろいろな景色を見せながら、最後は悪役がニヤリと笑って終わる。なんて、考えてしまう。最後の一音は、CDプレーヤーで聴いていたら思わず、もう一度再生ボタンを押しちゃう。そんな、思わせぶりな音なのである。

画像25

私の「GUITARHYTHM」にはジャケットと歌詞カードが無い。クラスメートに貸したら、なかなか返ってこなかった。何度も催促してやっと返って来たら、歌詞カードは汚れ、折れ曲がっていた。思春期真っただ中だった私は、2階の自分の部屋の窓を開け、その歌詞カードとジャケットをビリビリに破き、隣の平屋建ての長屋(珍しいね)の屋根に紙ふぶきのように投げた。宙に舞う色とりどりの紙を見て、もう取返しがつかないことはわかっていた。でも、そうするしかなかったのだ。もちろん、苦情が来て親に怒られ、隣の家に掃除に行かされた。

画像26

今となっては寄生獣に脳を取られちゃうような裏ジャケの布袋さんだが、私にとっては革命的なアルバムなのだ。

画像28

「GUITARHYTHM」のロゴにはスペルよりも、ひとつ「H」が多い。布袋の「H」を加えたのだろう。そんなビジュアルコンセプトも含め、まだ聴いたことのない方は、是非、46分なのでカセットでもいいし、CDでもいいし、配信もされているので、一度でいいから、全編ノンストップで聴いて欲しい。



サポートさせて頂いたら、まだ復興の終わっていない西日本豪雨の被災地への寄付とさせて頂きます。