心の揺らぎ【短編的なもの】

ふっと我に返ると、目の前には後ろ姿の私が離れたところで立っていた

どうして私とわかるのだろう

不思議に思いながらも違和感は無い

ただ、周りは暗闇で光も何も存在しないその空間で私は私を認識した

何をするでもなく後ろ姿の私はぼんやりと足元を見つめているようだった

「どうしてだろう…」

小さく呟いたのは私か後ろ姿の私か

抑揚のない棒読みのその言葉は決して感情が無いわけではない

私からすれば充分に感情がこもっている

「どうして頑張っているのに非難されるのだろう」

後ろ姿の私が静かに頭を抱えた

「どうして助けたいのに何も出来ないのだろう」

後ろ姿の私がゆっくりとしゃがみこむ

「どうして役に立ちたいのに出来が悪いのだろう」

「どうしてこんなに要領が悪いのだろう」

後ろ姿の私がどんどんと背中を丸めていく

困らせたくないのに、わがまま言いたくないのに

本当は助けてと言いたいのに、すがりつきたいのに

次から次へと出るその言葉は私から発せられてるものだと知った

口が勝手に動いていたのだ

その言葉をぶつける度、後ろ姿の私は弱っていく

「助けてもらう資格も権利もないのに、軟弱なこと言わないで」

後ろ姿の私が初めて言葉を発した

背中を丸め、しゃがみこみ、頭を抱えているその姿は何から身を守っているのだろう

「いつも感情を他人にぶつけるのに、どうして一線引いて距離をとるの」

「どうして仲がいいと思えないの」

後ろ姿の私の言葉は私の心を攻撃する

私は無意識に頭を抱えた

「執着と依存が強いのに、どうしてそれが一瞬でなくなるの」

「どうして友達と仲がいいが分からないの」

私はしゃがみこみ背中を丸めた

「大切と思っているのに、どうしてすぐに手放そうとするの」

「知らない」

私の後ろで私の声がした

私はこの世界からまだ目が覚めないようだ


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