『奥さまは助手』! 旦那さんと一緒に料理をしよう!

どもども、調理師慈岳です。元精進料理の板前で、料理長に付いて朝から晩まで叱られた甲斐があり、副料理長まで行けました。転職後は板場に立たなくなりましたが、その後結婚したため再び『人のために』料理するように。

同じお寺勤めの夫とはあまり家事分担という意識がなく、なんとなーく2人で回しています。……が、料理は家事の中でも難易度が高く、時間も手間も掛かるため分担がキビしい。

そこで本稿。ダンナさんを料理長に見立てて2人でお料理しましょう!というお話です。会話文を交えながら行きますよ。それではどうぞ!!


●夫が「料理するよ」と言ってくれた日のこと

繁忙期のある日、書き物に疲れて寺務所で死んだ魚の目をしていた私に、夫が突然「今日は俺が何か作るよ。野菜炒めくらいしかできないけど……」と言ってくれました。

いやいやいや!十分でせう! 炒め物は小学校の調理実習で習うので簡単な料理だと思われがちですが、なかなかどうして秒単位の戦いで、実は難易度が高い料理なのです!それをやってくれるという! 

夫「肉と野菜と、エ○ラ焼肉のタレがあれば俺でもやれるかな?」
慈岳「それだけあれば十分よ」
夫「台所の勝手が分からないから、聞くかも知れない」
慈岳「よかよか。私が作業しやすい配置にしてるからそこは慣れてw」
夫「了解!」

そうして夫がキッチンデビューしました。夫はその日、エ○ラのタレと野菜炒め用のカット野菜、そして100g500円の豚肉を200g買って来ました。

●いざ調理実習!

自分の家のことでも、担当外のことは意外と分からないもの。これはプロの現場でも同じで、モノの場所が分からないうちはどれだけ経験豊富な調理師でもワタワタします。

夫「フライパンはこれでいいのかな」
慈岳「うむ。そんでヘラと菜箸はここ。油はこっちで皿はこの棚」
夫「(;゚Д゚)」←すでに処理落ち
慈岳「いけるいける。こういうのの準備とかメシ炊きは助手の仕事。料理長は調理が仕事だから気にしない」
夫「いや料理長は慈岳でしょw」←まんざらでもない
慈岳「今日は夫さんが料理長で私が助手。管理職だから指示するの慣れてるでしょ」
夫「家と職場は違うでしょw」
慈岳「違わない。2人以上の人間がいれば必ず船頭が必要」
夫「慈岳お得意のマネジメント術か」

今回の私は、自分の料理で人が喜んでくれる楽しみを覚えてもらうことを目標としていました。お高めの肉がたとえ焦げても、私は美味いと言って食べるのだフンスッ

●「助手をするのは難しいんだよ」

修行時代の料理長の言葉です。助手をするにはその料理を熟知しており、どの道具や食材をどのタイミングで出すかを知っておかねばなりません。助手の料理能力で担当料理人の作業効率が変わります。ってことは、料理の仕上がりにも影響するわけですね。

夫「油入れて点火したけど炒める順番とかあるのかな」
慈岳「あるよ。油のにおいが立ったら先ずは肉。肉の色が変わったらバットに移して次に野菜を炒める」
夫「お、おう」
慈岳「肉OK。バットに上げて野菜どばー」
夫「よっよし」
慈岳「OK。フライパンを2~3回煽って置いておき、5秒で皿を用意」
夫「皿どこだっけ」
慈岳「出しといたよー。フライパン返して。焦げるでござる」
夫「うわ、野菜炒めって難しいんだなw」
慈岳「だよ。またハードル高いとこ選んだなぁ。野菜いけたね、肉投入~」
夫「よし、肉入れたよ」
慈岳「ヘラで混ぜてエ○ラ投入。フライパン返す。和える。返す」
夫「おおお、楽しいなこれ」
慈岳「料理は楽しいよぉ。いい感じ。皿に移そう。もたつくと焦げるどー」
夫「よっよし、できたぞ!」

料理長が同じように助手に付き、このように教えてくれたことを思い出します。さながら火の海を征服したかのような表情の夫。身体に覚え込ませるまでは本当に疲れるのです。プロはこのノリが1日に8時間以上ですから、私もヒヨコのころは脳ミソが飽和して毎日爆睡でした。

●いつの間にか揃ってるサラダとごはん

野菜炒めに必死な夫の後ろで、私はサラダやらごはんやら、あとはカトラリーやら用意していました。何を作るにしてもスキマ時間は出来ますので、その間にやれることを進めねばいつまでも食事は仕上がりません。

夫「えっいつの間に」
慈岳「夫さんに炒め方を述べつつ後ろで作業していただけだよ」
夫「ぜんぶ俺の野菜炒めが仕上がるタイミングを狙って定刻通りに仕上げる、これがプロか…」
慈岳「頻繁にやってれば出来るようになるよー」
夫「俺、炒めてしかないよね」
慈岳「仕上げは料理長の仕事。私はメシ盛りの助手」
夫「そういうものなのかw」
慈岳「少なくとも私の感覚ではそう。炒めと揚げはコンロに張り付かざるを得ないから、担当してくれたら時短になるぞよー」
夫「おーなるほど、調理場に調理補助さんがいるのは単なる人員合わせや雑用任せのためじゃないんだね」

これも料理長の教えですね。コンロに張り付けば他の作業ができないので、料理長もまずはここを覚えてほしいと仰有ったのです。

●料理長には意見するな

ひとたび夫を料理長に設定したら、助手の奥さまは不必要なおしゃべりをすべきではありません。間違っても「そんなことも分からないの!?」とか「なんでそれくらいできないの!?」は禁句。料理人見習に対する最低最悪のパワハラです。

その料理を作ってくれる旦那さんに基本は任せて、質問があったときだけ答えたり、料理として成立しなさそうになったときだけ話しましょう。おしゃべりな女性がやりがちな失敗ですが、料理は時間勝負ですから必要なことを明瞭簡潔に。

慈岳「モヤシは余熱でいける。多少生焼けで大丈夫」
夫「余熱?」
慈岳「仕上がり100℃として、食卓に出すとき80℃。モヤシなら配膳中に余熱で通る」
夫「おお、それで慈岳が作るようにシャキッとしたものになるんだね」
慈岳「そそ。料理は物理化学のカタマリ。別に慈岳が優秀なわけではない。法則に従えば誰でもやれるのさ」
夫「そかそか。それなら俺も練習したらやれるかな?」
慈岳「いけるいける。まずは野菜炒めを極めよう。得意レシピ1つ持ったら自信持てる」
夫「よしきた野菜炒め魔神になるぞフンスッ」

あれこれやると混乱するので、最初のうちは1つの料理の錬度を上げるとよいです。そしてその料理を旦那さんがある程度覚えたら、奥さまは黙って助手に徹して、旦那さん自身で探究してもらうためにも余計な意見をしてはなりません。

●作ってもらったら全て「美味しい!」と言え

いよいよ食事。いやぁ人に作ってもらったものは美味い。自分で作ると味見のせいで味覚がバカになって、いざ食事となったときにウマー!ってならないんですよ。いやまじで。

そして料理人は、人に美味いと言ってもらえるとヤル気出します。特に夫は『人からの評価』を私の10倍気にしますので、多少肉が焦げていようが水分を飛ばしきれていなかろうが、ディスりはぜったいにダメ。不味くなければ美味いと言うのです。フツーとか言ったら次からやってくれません。

慈岳「うます。メシがすすむ」
夫「喜んでくれてよかった。エ○ラさまさまだよ」
慈岳「ここは料亭じゃない。使えるもんは使ったらいいのさ」
夫「でも俺炒めてエ○ラ混ぜただけだしなぁ」
慈岳「エ○ラ焦がすヤツいるよ」
夫「まじかw」
慈岳「肉もかっちかちだし」
夫「それは今回は高い肉買ったから……」
慈岳「高い国産食材をゴムや消炭にする人が世の中には実在するんだ」
夫「うわっそれはさすがに」

夫の両親は良いものを食べさせていたようで、舌は決してオンチではありません。技術経験が伴えばプロのようなメシも作れるようになるかと。

●まずは料理を楽しんでもらおう

ここで「なんだ、奥さんちっとも休めてないじゃん」という悪口が浮かんだそこのオネーサン。アタシができることはダンナもできてアタリマエって気持ちが顔に出てますよ。自ら進んで醜女になるのはやめませう。これは労力的投資です。

プロ料理人は実働8時間の月休8日のホワイト寄りとしても、年間で2000時間余りの経験を積めます。特に料理に力を入れない、中食やレンチン利用の専業主婦で推定1000時間。外食活用のフルタイムの奥さんで400~600時間。週イチ1食担当の旦那さんだと、年間で僅か100~200時間しか台所に立たない計算となります。

料理は非常にやり込み要素があるため、男性はハマって凝れば高価な調理器具を買い揃え、食材にもこだわり、1日掛けて立派な料理を作ってくれるようにもなります。しかしそれは料理に楽しみを見出だして、奥さんや子供を喜ばせたい気持ちが生まれてからの話。

奥さんが愚痴を言いながらイヤイヤめんどくさそうに手伝いをすれば、旦那さんは『料理=おもしろくないもの』と誤認して、キッチンを嫌ってしまうことにも繋がります。これから旦那さんに料理をしてもらいたければ、まずは2人で楽しくやりましょう。

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