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どうかしてる! 「道化師の蝶」(円城塔)

2011年に発売された円城塔氏の書籍「道化師の塔」。芥川賞受賞作。私が読んだのは10年近く前で、私にとって初めての円城氏の作品でした。読んだきっかけは、電子書籍で無料試し読みができたから。特に期待せずに読み始めましたが、冒頭から遥か遠くに意識が持っていかれました。最初に書いておきますが、私はとても好きな本です。ただしものすごく苦手(というか読んでられない)という人の方が多いと思いますのでご注意を。

以下のような始まり方をします。

それは東京-シアトル間を結ぶ飛行中の出来事で、わたしの膝にはキオスクで買った『腕が三本ある人への打ち明け話』が載っている。ぱらぱらとめくるくらいはしたものの、例によって内容が頭に入ってこない。飛行の速度のせいなのか、文字が紙面にわずかに遅れ、慌てて追いついてくる気配がある。そちらの動きに気をとられ、一体何が書かれているのか印刷ばかりが目についてきて、注意はどうしても散漫となる。

円城塔「道化師の蝶」

これが2ページ目に現れます。一体何を言っているのか、と笑えてくる。最初の話の本筋は「旅をしているときは、読書をしても頭に入らない事があるよね」であり、その事自体は同感なのに、三本腕ばかりが気になる。しかも打ち明け話。どんな秘密があるの!?と思ってしまう。ストーリーが頭に入ってきません。

しかし作者は手を緩めません。一行ごとに突っ込みたいような会話を続けつつ、話は二転三転する…どころか「アレ、いま何をしてたんだっけ?」という世界。180度違う、ではなくて、そもそも次元が違う感覚。展開が斬新すぎて、読者を振り落とそうと嫌がらせしてる事を疑うレベルです。すごい。振り落とされる感覚を味わって欲しいので、以降の展開は触れません。

ストーリーは全然頭に入って来ないですが、浮世のしがらみを忘れさせてくれます。こういう読書、何年かおきにしたくなってしまい、また円城氏の作品を探してしまうのです…(そしてまた振り落とされる…「オブ・ザ・ベースボール」とか)。ハマる人には世界が変わって見えるので、興味を持った方はお試しください。文句は受け付けませんのでご了承を。

最後にバランスを取るため、芥川賞受賞時の審査員である石原慎太郎氏のコメントを記載。ストレートすぎて面白い。いや、よく分かります。よく受賞させましたね…

最後は半ば強引に当選作とされた観が否めないが、こうした言葉の綾とりみたいなできの悪いゲームに付き合わされる読者は気の毒というよりない。こんな一人よがりの作品がどれほどの読者に小説なる読みものとしてまかり通るかははなはだ疑がわしい。

芥川賞 第146回受賞「道化師の蝶」 石原慎太郎氏 選評


最後までお読みいただき、ありがとうございます!少しずつ想いを残していければ、と思います。またお越しください。