事態を読み込めないまま、名前が呼ばれた。

去年の夏、初めて倒れることを経験した。
よくドラマ等で人が倒れるシーンがあるが、倒れたことが無い私は倒れるってどんな感じなんだろう…と想像が出来ずにいた。

それでは去年の夏、始めて倒れた時の状況を説明していこうと思う。

その日は健康診断があった。
健康診断って緊張する。
”気は病から”の“病”が訪れる。

健康診断は視聴覚室みたいな無機質な部屋で行われる。
それは恐さをより一層際だてる要因となっている。

並んでいる時からドクンドクンと頭蓋骨をこだまさせるくらいの鼓動を感じていた。

まず、受付で問診票と尿を渡す。
尿検査の尿は漏れたら恐いので、必ず付属の袋にビニール袋を重ねて持ち歩いている。
見たくもないのに何故だか見てしまう他人の尿とアンモニア臭を感じながら身体測定に移った。

この夏は夏バテが酷く食欲が無かった。
何かエネルギーは摂らないといけないのでウイダーinゼリーをよく食べた。
山Pみたいに10秒で飲み干す事は出来ず、何倍もの時間を掛けてお腹に入れた。
8キロ落ちててさすがにメンタルにきた。

視力検査は難なくクリア。

次は血圧測定。
血圧測定をしてくれる看護士さんはお喋りな人が多いと思う。
血圧はいつもこれくらいか、貧血持ちか、朝ご飯は食べたか…。
こちらの話をよく聞いてくれる。
…いや待てよ…お喋りじゃなくて診察の一環か?だったら少しガッカリだ。仲良くなれたと思ったのに。

血液検査である。
私は血液検査が大の苦手である。
まず血が苦手だ。
サスペンスで人が刺されるシーンを見ると、自分の体から血の気が引いていくのを感じる。
自分の順番が近付くにつれ、気付いた事がある。

(((え、3本も採血するの…!?)))

事態を読み込めないまま自分の名前が呼ばれた。
針を刺す前に何度も「大丈夫ですか?」と伺ってくるので「ひと思いにやってよ!」と思った。
2本目の採血の途中で気分が悪くなってきた。胸が痛くなり頭が痺れてきてじんわり嫌な汗が出て来た。(…あ、ヤバいかも。)と思った時には体が斜めになっていた。
「大丈夫ですか?」と心配する声を聞いた時に「…あー、ちょっとダメかもしれないです…。」と言った後、自分の気持ちが言えた事に安心した私はヘナヘナと床に倒れ込んだ。

辺りが真っ暗だった。
あぁ、こんな風になるんだ、と思った。

「1, 2, 3,」の掛け声でベッドに運ばれた。

その後検査する人は絶対に恐かっただろうし、看護士さんは「無理をしたら倒れちゃいますからね!」と念押ししていた。

一人暮らしを始めて間もない頃で、心が弱っていたんだと思う。
倒れたらすぐに駆け付けてくれる人がいることに安心した。
誰かがいるってこんなにも素晴らしいことなんだ。

30分くらい横になっていただろうか。
片付ける音が聞こえてきた。

看護士さんが、
「ゆっくり起き上がりましょうか?」
と言ってきた。

まだ万全ではなかったので、叶うならもう少し横になっていたかったが、大半が片付けられた部屋を見て、ここにいるワケにはいかないな…と思い、フラフラと部屋を出た。