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ラジオはもう壊れかけない

『壊れかけのRadio』という歌がある。

昔、ラジオはよく壊れかけていた。


昔、何故か私の部屋のカセットレコーダーには、非常用のラジオが備わっていた。

夜、親が寝静まった後に、たまにラジオを付けていた。

そして、私の地域では、本来聴こえないとされていたラジオが奇跡的に聴こえることを期待して、たまにラジオのチューニングを鬼のように微調整していた。

ギリギリ入るか入らないか微妙な地域のAM放送局のラジオが聴こえるかもしれないと思い、チューニングを手動で合わせているうちに、30分番組は既にラジオが終わっていたりした。

運良く聴こえても、ザラザラとした音が大きすぎて、人の声が聴こえるか聴こえないかで、半分くらいは心の声を聴いていた。

アンテナを伸ばしたら聴こえるかもしれないと思い、伸び縮みを繰り返したアンテナは、遂に根元から折れて、
折れたアンテナは、小柄な地理の先生にプレゼントした。


今はラジオはradikoで聴くから、壊れかけることはない。

だから、ラジオのチューニングを微調整することもないし、折れたアンテナを誰かにプレゼントすることもない。

明瞭に聴こえるラジオは快適で、話し手の声も意図も正確に届けてくれる。

壊れかけのラジオにノスタルジーを憶えた時代は、もう遠くなりつつある。


でも、ラジオが壊れかけない時代には、壊れかけない時代のノスタルジーを未来に残しているに違いないのだ。

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