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世にも美しいものを見た

2023年6月11日、PM6時
関西国際空港に向かう快速電車の中で、私はひとりで涙を流していた。
手にしたスマホから流れる動画は、Wifiの電波が不安定なせいでとぎれとぎれではあったけれど、まさに今、
東京宝塚劇場で終わりを迎えつつある大千秋楽の様子を伝えてくれている。

そう、今日は、宙組トップスター・真風涼帆さんの退団の日。
最後の日を(配信だけど)友人と一緒に見送りたいという一心で、
LCCの深夜便に飛び乗って帰ってきたのだ。
なんとこの『カジノ・ロワイヤル』大千秋楽は宝塚初・全世界配信されている。
それを聞いたとき一瞬「あれこれ日本に行く意味あったっけ?」と
思ったけれど、全世界配信にサヨナラショーはつかない!
やっぱ日本でみるっきゃないね!と自分に言い聞かせてアラフォーの身体に
鞭打ってきっちきちの座席のLCCで飛んでみて、本当によかった。

私は宝塚ファンの歴が浅く、その大半が宙組の演目の観劇だったので、
サヨナラショーの曲がすべて分かったのは初めてだった。
私が宙組にはまるきっかけになった『天は赤い河のほとり』のテーマ曲から始まったサヨナラショーは、組子全員の熱量高く「こんなに見せてもらっていいんですか?」と思うくらい豪華だった。
添い遂げ退団の潤花さんも、まばゆいばかりに輝いていた。
最後の大階段を下りてのご挨拶、渡される花束。
このあたりから移動しないといけなくなったので記憶も音も飛び飛びになってしまったけれど、それでも電車に乗り込んでからは食い入るようにスマホの画面をのぞき込んでいた。

真風さんが、次期トップとなる芹香さんを呼び、二人が並んだ時。
芹香さんが泣き出したのだ。
私はシンプルに驚いた。
芹香斗亜さんと言えば、「待たされすぎた2番手」であり、
いつも余裕綽綽な態度で、クールなイメージだった。
何かのトーク番組で、真風さんとやってみたい役についてきかれても
「いやぁ、この人とはいろいろやりましたから、もうないですね」
と茶目っ気たっぷりに(けどいくらかは本音のように)
言っていたくらいだ。
真風さんの任期はコロナの関係で当初より伸びたと言われている。
そこをして、「トップと2番手は不仲だ」という噂が立ったこともあった。そんな2人が、まるで音高時代に戻ったかのように、涙ぐんで抱き合っている。
「すごい泣いちゃってるじゃん……」
芹香さん自身も、涙を止められなくて動揺しているようだったし、
そんな芹香さんに真風さんもびっくりしているように思えた。
真風さんの衣装の肩口に、ドーランがついてしまって慌てる芹香さん。
「この人、強がってるけどしんどい時ほどこうなんで(うろ覚え)」
とフォローの言葉を発する真風さん。
人と人との関係性は、「仲がいい」「仲が悪い」なんて一言で表すことはできない。
もっと複雑で、多面性があって、だからこそ尊い。
あの時の2人の姿には、2人が積み重ねてきた時間が垣間見えて、
全く部外者の私でも感動してしまった。

世にも美しい夢の引継ぎを見せてくださったお2人に心から感謝します。
そして次代のトップである芹香さんが見せてくださる舞台を
心から楽しみにしています。

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