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吉瀬美智子理論 クロユリにおいて

 水っぽい汗の匂い。いい匂いではない。
 見入ってしまう美しさがあって、いい匂いまでしてしまったら逆にここまで惹かれなかったかもしれない。美しく強い女性それは魅力的。でも自分なら理解できる、自分なら寄り添って助けてあげられるそんな人間に人は希望を見出す。それがクロユリなのかもしれない。
 真っ黒じゃなくて金箔を散りばめたような色合いで覗き込むとどこまでも続いているような漆黒。
 あまり黒い花をつける植物は多くない。そういった珍しさは花を見つけたときの目に映る新鮮さがある。付け加えクロユリはそこら中にあるものじゃなく、探してやっと見つけられる。(すくなくとも槍穂高の範囲では)そういった稀少性に惹きつけられる面もある。

このクロユリは猿が食い荒らした残骸を救出した

 向日葵のようにお日様と顔をあわせたりはしないでうつむいて微笑む愁い。もはやなんかエロくも見えてきた。それではいってみよう。
 例えるならば彼と別れたばかりの吉瀬美智子。四畳半のおれに家に傷心癒やしに転がり込んできて、浴びるように飲んで酔い潰れる。おれと吉瀬美智子はいつの間にか寝て(睡眠の方)朝になるのだけれど、朝となりを見ると衣服がはだけて、黒い下着をつけた吉瀬美智子が無防備に寝ている。でもその美しさのあまり手を出すことはできない。(クロユリで言えば摘み取ることをためらう)もちろん酒くささもある(クロユリで言えばあの独特な匂い)。そんなふうにぼーっと吉瀬美智子を見ているうちに彼女は目覚め、おれも今起きたかのように振る舞う。もう正気の彼女は手際良く荷物をまとめて「ごめんね」と爽やかに一言。帰っていく。
 あのとき手を出さなかったおれ。手を出さなかったことの肯定と後悔。少なくとも正解ではなかった。美しかった吉瀬美智子。
 好きです。美智子さん。
 
 という方程式があり、クロユリに人々は惹きつけられる。以上が吉瀬美智子理論 クロユリにおいて。

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