オリジナル文書の威力って、どこで発揮されるんだろう?

久しぶりに「袋とじ・割印」入りの契約文書を見て、なんだか新鮮な感じでした。きちんとした会社さんで、文書の取り扱いに絶対間違いがなさそうな印象を受けました。でも好印象と同時に、なんでここまで。。。とも思ってしまいました。。。

契約内容はいわゆる「MOU(兼NDA)」、有効期間1年の短いものです。金銭的対価はなし、MOUの主旨に沿って協議を進め、本契約に向けて条件交渉をしましょう、というものです。

袋とじ製本された二部の契約書(双方に一部づつ持つ)、然るべきところに保管されて、社内の記録保持ポリシーに従って5−7年後に廃棄されるまでそのキャビネで眠る運命だと思います。このオリジナル文書が引っ張り出されて活用される場面って、何が想定されてるんだろう?100%に限りなく近い確率でお蔵入りするものに時間と労力をかけるのはもったいないの極み、と感じるのは私だけではないはず。。。海を越えて当事者のオリジナル署名を取得して、二部製本して、割印入れて、また海外の契約相手に発送して。。。そのコストや時間はもっと意味のあることに有効活用できないでしょうか。

いつまでも根強い「オリジナル神話」、いつまで続くのでしょう?

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シリコンバレー弁護士歴20年ほどなのですが、その間に私が見たオリジナル文書に対する変遷をまず振り返ってみたいと思います。

(1)契約関係文書 (90年代〜2000年代初め)

弁護士事務所入所の1994年、オリジナル文書はほぼ必須でした。ファックスで契約書サインを取り交わしてても後日オリジナルを「正式版」として送るのが通常だったように記憶してます。

ファイナンス案件のクロージング時はオリジナル収集作業が大変でした。ベンシャー投資であればオリジナルは最低でも4枚(+予備に一枚)必要。4部のオリジナルは(1)ベンチャー企業、(2)その弁護士、(3)リード投資家、(4)その弁護士、にそれぞれ配布されます。契約書だけでなく付随する証明書も多々あるので、クロージングの日は会議室にずらっと書類を並べて、抜けてるものがないか確認・確認・再確認してました。

大きな投資案件、M&A、IPOになると関係者数も増えるので(監査法人用とか複数の引受人とか、M&Aアドバイザーとか)オリジナル署名を10部くらい集めた気がします。(サイン文書に不足があって、IPOクロージング前夜にCEOご自宅にサインを頭を下げながらサインを取りに行った恥ずかしい経験もあります。)

(2)契約関係文書 (2000年代以降)

「オリジナルで契約書交わしましょう」という場面が徐々に徐々に減っていきました。「オリジナル、いらないよね」と言いながらも、「オリジナル、ください」という相手を嫌がる風潮も最初はなかったと思います。

2005年に弁護士事務所からシリコンバレーの大手企業に社内弁護士として転職したのですが、そこではちょうど「オリジナル契約書不要」ポリシーに移行しているところでした。他社さんも同様だったと思います。「相手がどうしても必要なら出すけど、うちは要らない」とクリアでした。その後オフィスから文書がどんどん消えていき、各自机がすっきりしていきました。署名も最初は直筆サインだったのが「サイン型ハンコ」になり、そのうちデジタルサインになりました。オリジナル署名を求める相手は説得して、よっぽど重要なお客様でない限りそんな余計な作業はしない、ということになりました。

日本のパートナーさんとの契約を多く担当したのですが、やはり日本のお客様は「オリジナル大好き派」が多かったです。それも徐々に、特にインターネット業界の大手さんからデジタルOKになっていきました。とても良い傾向で、嬉しかったです。

でも今なお、オリジナルへの執着が根強いようで、

「オリジナルを求める(迷惑な存在は)アジア、特に日本の会社だけ」

との評判が定着してしまってるようです。

(3)公的期間への提出書類 (90年代にデジタル化が浸透)

私が携わったところでは主として(1)IPO等でSECに提出するもの、(2)ベンチャー企業の設立及び投資時の登記簿改定手続き、がありました。

SECへの提出書類は1996年にEDGARシステムが導入されて以来、全てデジタルになりました。それまでは基本的にオリジナル提出だったので、まずファックスで送って、あとからオリジナルをFedExで送る手法でやってました。本当に時間が切羽詰まると弁護士もしくは投資銀行の下っ端がSECまで自分で持っていく、といったドラマも存在しました。

会社設立手続きは設立する州の「Secretary of State」という機関が管轄なので、そこに提出します。シリコンバレーベンチャー企業の場合、設立場所のオプションは(1)ベンチャー投資家が好む「Delaware州」(2)会社所在地である「California州」の二つあります。90年代半ばの私の記憶では、「Delaware州は署名文書をファクスで24時間体制で受付てくれるので、手続き的に便利」という優位点がありました。その後1997年にCalifornia 州でも「Digital Signature法令」が導入され、その点では同じになりましたが。

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話を戻すと、オリジナル署名はどう考えてもやっぱり不必要だと思います。ビジネス慣習として、「持っておくと安心」というのは分かるのですが。。。

オリジナル署名が不要な理由を改めて考えてみました。(契約相手がアメリカの場合に限定した話です。また、念のため、これは私の個人的意見で、法律アドバイスではありません。)

✔︎ 契約文言に「ファクス等のデジタル化された署名はオリジナルと同様とみなす」と記述されている

英文契約書の文言で見覚えがあると思います、以下の規定が一般条項に入っています:

"This Agreement may be executed in counterpart, and may be executed by way of facsimile or electronic signature, and if so, shall be considered an original." 

Counterpart =契約書はバラバラに(別々のページに)サインするのOK
Facsimile or electronic signature = ファックス・デジタルでサインするのOK

✔︎ オリジナルの署名がなくても契約として成立する

有効な契約の基本要素は(1)Offer (オファー)(2)Acceptance (受諾)(3)Intent to enter into transaction(契約の意図) (4)Consideration (対価)。当事者間で契約意図を持ってオファー内容が受諾されたことを示すのが「署名」なのですが、署名行為そのものが「直筆」である必要や、オリジナルでないが故に有効性が失われる、という法的根拠はないと思います。

また、オンラインのClick-through Agreement(「合意します」ボタンをクリックすることで成立する契約)で何千億の取引が日々動いている世の中なので、オリジナル・直筆に依存する必要性はどんどん薄れていっていると思います。

✔︎ 紛争が生じた時、契約の有効性・存在を確認する議論の中で、署名が手書きオリジナルなのかデジタルか、に依存する必要はない

昔の映画で、証言台に立った人に契約書を見せ「これはあなたの筆跡で書いた署名ですね」と詰め寄る場面があったと思いますが、最近の法廷ではこのプロセスはないんじゃないか、と予測します。(訴訟扱ってないので間違ってるかも知れませんが。)訴訟にまでなるということは、争点は他にあるとも思うので。

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冒頭写真は米国初代大統領George Washingtonが大工さんを起用する際にサインした契約書で、1760年代くらいのものです。(オリジナルはこちら)読みにくいですが、「Articles of Agreement」との題目でエンボススタンプ入り。こんな歴史的文書として残るならオリジナルのとっておき甲斐があるというところでしょうか。

今日も読んでいただきありがとうございました。

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インドは未だに紙が主流ですよね
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