「Copyright」の和訳ってなんだっけ?

最近立て続けにCopyright関連の裁判判決が話題になりました。どちらもGoogleがらみで長年続いた係争なので直接的に今すぐ何かが変わります!という即時性はないものの、大きな法律的意義を持つものでした。(判決そのものは日本でも広く報道されたのでここでは紹介にとどめます。)そこで今日は判決のポイントだった「Fair Use(「ファエユース」「公正利用」)」と、「Copyright」という言葉の由来について考えてみました。

まずは2件の裁判の話。(それぞれのリンク先New York Times記事もご覧ください)

(1) 米国著作家団体Authors Guild vs Google 

10年続いたGoogle Book Search訴訟。図書館から提供を受けた書籍をスキャン・デジタル化したGoogleの書籍検索エンジンに対して、米国最高裁判所が上訴審議を拒否しました。結果として控訴以前のNew York連邦地方裁判所の2013年の判決が残り、Googleの「Fair Use 」主張が勝ち抜きました。

(2) Oracle vs Google/Android

GoogleがアンドロイドOS設計において、Oracle社の(Sun Microsystems買収で引き継いだ)Java API の侵害があったかをめぐる特許・著作権侵害訴訟で、Googleの使用は著作権のFair Useにあたるとの陪審員判決でした。

二つの判決の共通項は「Fair Use の勝利」。著作権の効力を認めはするけど(特にOracleのJavaAPIの著作権確立はソフトウェアの著作性において大きな意義を持っています)Fair Useなので著作権者への被害はない、との結果でした。

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まずは「Fair Use」とは何か、簡単におさらい。(本当はFair Useだけで本になるくらいふか〜いトピックなのでこんなに端折ってしまってすみません。)

固い説明:「米国著作権法などが認める著作権侵害の主張に対する抗弁事由の一つ」

くだけた説明:「これなら侵害じゃないよ、と法的にOKとされている著作物の使い方」

Fair Useがあることのメリット:著作物とはそもそもアイデアや表現を具現化したもの。著作者の権利を尊重しつつ、自由伝達や派生的創造クリエーションを促すことで広くその価値を享受することができ、世の中が良くなる。

Fair Useに対する批判:全てがデジタル化し、著作物が無作為に複製・侵害されやすい状況にあって、Fair Useを認めると事実上著作権が一切保護されない状況にもなりうる。そもそもオリジナルの特定すら難しく、著作権者の利益が希薄化している。著作権の保護が薄れることで、新たな著作物の創造メリットがなくなってしまう。

Fair Useは主にアメリカで発展したコンセプトです。何をもってFair Useとするか具体的な規定はなく、以下の一般的な四要素を考慮すべし、となっています。(17 United States Code Chapter § 107 )

✔︎ the purpose and character of use. (利用の目的と性格)
✔︎ the nature of the copyrighted work. (著作物の性質)
✔︎ the amount and substantiality of the portion taken (著作物全体に対比して、利用された部分の量および重要性)
✔︎ the effect of the use upon the potential market. (著作物の潜在的商業価値への影響)

イギリスには類似の「Fair Dealing」がありますが、商業利用を認めてないなど、性格を異にしています。イスラエルでは10年ほど前に法改正を行い、アメリカに近い形の法体制を導入しているようです。

日本では一般的に「(アメリカ・イギリスのような)コモン・ロー体制でなく制定法が重視されているので、思想的に合わない」との意見があるようです。確かに、アメリカ法体系では色んな実例をもとに「これならOK、でもこっちはダメ」というような判例を長年積み上げていき、著作物にまつわる技術・流通方法に合わせて進化するものです。逆に制定法の場合は条文で枠組みを設定してしまうので、Fair Useに該当するか否か、判断の委ね先をどうするのか曖昧になって、何の解決にもならない気がします。よって「原則禁止、一部の個別具体的(非常に限定された)例外だけを認める」というのが理にかななっているように思います。

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それぞれの法体系にあった考え方なのでどっちが優れているとかいう議論では決してないのですが、それぞれの土壌となった歴史を紐解くと面白い違いが見えます。

まずそもそもの言葉の違い。
英語では「Copyright」。
日本語では「著作権」。

普通にお互いの訳語として使われてますが、実はちょっとずれがあると思います。

Copyright とは本来は文字通り「Copyの権利」でした。最古のCopyright 法は1710年のイギリス、アン女王政権が制定した「British Statute of Anne,  An Act for the Encouragement of Learning, by vesting the Copies of Printed Books in the Authors or purchasers of such Copies, during the Times therein mentioned」。グーデンベルグ・プレスが発明され印刷技術時代の幕が開けたころ、「本のコピーをとって公衆に教育・知識を広めるのは良いこと。本の作者はそのコピーに対して一定期間、権利を持つことができる」というコンセプトでした。(実際の法律文はこんな感じ ↓)

一方「著作権」はちゃんと直訳すると「Right of Authorship(作者の権利)」が正確かと思います。コピーの話をする以前に、それを作った人の権利を守ることを主目的にしています。著作物を作り、権利を保有し、著作物の利用をコントロールする権利を保護することで著作活動の推進を促す。このコンセプトももちろん、大事です。

情報作成およびその流通がどんどんデジタル化し、「著作者のオリジナル」と「コピーされたもの」の識別が難しくなればなるほど、著作権 vs Fair Use議論も複雑化するように思います。技術発展は裁判手続きよりはるかに早いので判例だけではなかなか追いつかない気もしますが、これからも興味深いケースがたくさん出る分野だとは思います。

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最後に、個人的に好きなFair Use事件について。(Fair Use判決事例を著作物のカテゴリーごとに「Fair Use」「Not Fair Use」に分けて整理した素晴らしい資料がStanford University Copyright & Fair Use プロジェクトにあるので、ぜひご覧ください。)

(photo source: NPR.org )

写真は8年前(2008年)の大統領選で大活躍したポスターでした。ストリート系アーティストのShepard Faireyが独自に制作したものがオバマ氏の選挙キャンペーンの一つの象徴になりました。私もこのイメージ、大好きでした。ポスターだけでなく、Tシャツ、マグカップ、バッジ、シール、様々なところに登場しました。

ところがその後、Fairey氏はオバマ氏を撮影した報道写真をベースにこれを描いたことが判明。元ネタがどうやら左側のAP報道局の写真だったらしいです。Fairey氏は侵害を完全否定し、コピーではなく「Fair Use」だ、と主張しました。ところがその後「実は嘘をついてました、この写真を参考にしてた証拠も裁判開始後に破棄しました」と告白。AP社の侵害訴訟は和解合意に至りましたが、証拠隠匿および偽証罪で刑事罰金およびコミュニティー奉仕を命じられました。

彼の描いた絵がFair Useになるか否か? Copyright法専門家はこの訴訟から生まれる判例を楽しみにしていたので裁判が途中で終わってしまって残念でしたが、Fairey氏の「嘘の告白ストーリー」が面白く、またHOPEポスターも絵として気に入ってて、長く記憶に残る話です。

今日も読んでいただき、ありがとうございました。

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