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【不思議な体験談】死者婚礼「冥婚」を描いた絵馬が導く運命

年度末でバタバタしてまして、久しぶりの投稿になってしまいました😅

YouTubeの方では新しく「不思議な体験談」をまとめた動画が配信開始しましたので、紹介いたします!


〈あらすじ〉
彼女と別れてから奇妙な「そらみみ」が聞こえるようになる。
「そらみみ」に導かれた先には死者婚礼「冥婚」を描いた絵馬だった。
彼女と「そらみみ」の関連性とは……!?


〈完成版の動画〉


〈本文〉

これは3年前、自分が体験した不思議な出来事です。

当時は大好きな彼女と別れたばかりで何をするにも気力がなく、ただ職場と家を往復するだけで精一杯、本当に人生のどん底でした。

同じ年の元カノは何のとりえもない自分にはもったいないくらい性格がよく、笑顔がかわいい女性で友人からは「お前にあの子は奇跡」と言われるほどでした。

しかし、永遠に続くと信じていた幸せな時間は、ある日突然幕を閉じました。彼女から別れを告げられたのです。
理由も言わずただ「ごめんなさい、別れたいの」と繰り返す彼女を引き止める強さも、別れの理由を追求する勇気も自分にはありませんでした。

きっと他に好きな人ができたんだろう、勝手にそう思うことで自分に折り合いをつけていました。

最初にそれが聞こえたのは、同僚と野球談議をしていた時のことです。

「え? ムサカリがどうしたって?」

自分はもう一度同僚に聞き返しました。

「ムサカリ? なんのことだよ。むらかみ、まじゴッドって言ったんだよ」

『むらかみ』と『ムサカリ』を聞き間違えるなんて……彼女と別れたショックで眠れていないせいかもしれない。きっとそうだ。


ですが、それは翌日またしても聞こえました。
客先に向かう車の中で、上司が自分に缶コーヒーを渡して言ったのです。

「おまえやっぱりムカサリだろ?」

自分はムカサリなんて名前ではありませんし、このコーヒーは無糖ですし。
この前は「ムサカリ」だったっけ? で、今度は「ムカサリ」?
考えたすえに自分が知らない業界用語かと思い、上司に質問しました。

「ムカサリってなんですか?」
「ムカサリ? 誰がそんなこと言ったんだ?」
「いま、山田さんが言いましたけど」
「はぁ? 昼はラーメンだろ?って俺は言ったんだ」

いったいどうなってるんだ……確かに『ムカサリ』って聞こえたんだ。
この前といい、今日といい……全く違う言葉を聞き間違えるなんて、いよいよ頭がおかしくなったのか。

それからも度々同じようなことが起こり、仕事上でのミスも連発するようになってしまいました。
さすがに不安になり病院へ行き調べてもらいましたが、問題は見つかりませんでした。

“そらみみ”の正体が判明したのは、Youtube動画をながら見していた時でした。
また『ムカサリ』というワードが耳に飛び込んできました。
今度は“そらみみ”ではなく、『ムカサリ絵馬』というテロップも表示されています。
取り上げられていたのは山形県の村上地方の「ムカサリ絵馬」という風習でした。
「ムカサリ」とは、方言で「婚礼」を意味し、絵馬には死者と架空の相手との結婚式が描かれていました。

ムカサリ絵馬は、もともと東アジアでみられる死者婚礼「冥婚」に由来すると言われていて、戦争や病気、事故などで若くして亡くなってしまった人の家族があの世では結婚して安らかに過ごせますようにと、故人の幸せを願う。そんな遺族の痛切な思いを絵馬に託すそうです。

翌朝、自分は居ても立っても居られず、上司に頼み込み車を借りてムカサリ絵馬が奉納されている山形の若松寺へ向かいました。
山形は生まれて初めて行く場所で、縁もゆかりもありません。
『ムカサリ』という“そらみみ”に導かれ、なぜこんなところまで来てしまったのか説明はつきませんが、彼女と別れてからただ酸素と栄養をほうり込むだけの自分の身体がなぜか寺が近づくにつれ熱く熱くたぎってきました。

天童駅から細くうねりのある山道を登っていくと、若松寺へ到着しました。
本坊には壁一面に婚礼の絵馬がびっしりと並んでいます。
ホラー系が苦手な自分は不気味でヤバイ場所に来てしまったなと怖気づき引き返そうとしたところ、おかっぱ頭の利発そうな少女に「こっちへおいで」と手招きをされました。

不思議なことに少女のそばに行くと先ほどまでの恐怖心は消え去りました。少女が大事そうに抱いている古いこけしのせいかもしれません。
元カノは「こけ女」(こけし好き)で自分はこけしに囲まれた彼女の部屋で過ごす時間が多く、なかでも彼女が一番大切にしていたこけしと少女のそのこけしがとてもよく似ていたからです。

本坊内には自分と少女しかいなかったので、少女の後について絵馬をゆっくり見て回ることにしました。
和装で厳かな結婚式を行う様子を描いたもの。
白いウェディングドレスやタキシードを着て幸せそうにほほ笑むもの。
絵馬には住所や名前、戒名、そして享年が記されていました。

すると、少女が1枚の古い絵馬の前で立ち止まりました。
悲しそうな顔で何かを訴えるように自分を見つめてきます。
少女から絵馬に目を移すと、そこには優しそうにほほ笑む白無垢の花嫁が描かれています。
驚きのあまり自分は息をのみました。
見間違うはずがありません。
なぜならその花嫁は自分がこの世で一番愛した女性だったのです。
全身に鳥肌が立ち震えが止まりません。

次に横に並ぶ黒紋付羽織袴の新郎に目をやると、それは自分ではありませんでした。
やはり自分と彼女は運命ではないということか。
そうだとしたら、そらみみから始まりこの寺まで、なぜ自分は導かれたのか。その答えを探ろうと、必死にその絵馬を見つめました。

すると、花嫁の側には小さな字で「愛子享年8歳」と書かれていました。
信じられないことに、彼女の名前も愛子です。
混乱している自分はすっかり少女のことを忘れていました。
いったいどうして少女は自分をこの絵馬に引き合わせたのか……しかし、少女の姿はどこにもありませんでした。

静かな本坊内に一人残された自分の目に浮かんだのは、自分に別れを告げる彼女の顔でした。
今まで決して見せたことのない暗く悲しそうな表情。
それは先ほどの少女とまさに同じ表情でした。
もしかしたら少女は自分に彼女を愛子をこのまま黙って手放してはいけないと伝えに来たのではないだろうか。
嫌な予感がしました。
彼女に「冥婚」などさせてなるものか。
自分は慌てて寺を出て彼女の元へ向かいました。


それからの話しを簡単にしたいと思います。
自分と別れた直後、彼女は入院してひとり病気と闘っていました。
彼女の体調の変化にも気づいてやれなかったアホな自分を呪いました。
どうしようもない男です。
ですが、馬鹿がつくほど一途な自分は何があっても彼女を支えていく自信だけはあります。
と、毎日病院に通い彼女を口説き続けました。
闘病中で言い返す気力もなかったのでしょう、しょうがないなと小さく笑ってプロポーズを受けてくれました。

いま自分の腕の中には生まれて間もない娘が小さな寝息を立てて眠っています。
妻は奇跡的に回復してくれたのです。
娘は妻にとてもよく似ていますが、あの時寺で出会った少女にも似ているような気がします。

あれから退院した妻とふたりで若松寺にお礼参りに行きました。
妻から絵馬に描かれている愛子さんは8歳の時に病気で亡くなった妻の祖母のお姉さんで、愛子さんの両親が奉納した絵馬だと聞いた時には仰天しましたが、やはり妻との縁は運命なのだと確信しました。
そして、妻が「こけ女」になったのはなんと祖母から愛子さん遺品のこけしを譲り受けたことがきっかけでした。
きっと意気地のない自分に“そらみみ”を聞かせたのもあのおかっぱの少女、愛子さんだったのでしょう。

自分はこの不思議な出来事がなかったら、今のこの幸せな人生などあり得なかったと思います。

(終)


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