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江戸川区と金魚のはなし

はじめに

東京で金魚に縁のある地域、と聞けば土地勘のある人は江戸川区と答えるだろう。実際、同区では「金魚のふるさと」をキャッチコピーの一つとし、行船公園では毎年「金魚まつり」が開催されている。
 平井・小松川について、「金魚」をきっかけにして街の魅力を掘るならば、まずは江戸川区と金魚についてを知る必要があるのではないか。本記事はこの目的のもと、郷土史を中心に、以下のことについてを明らかにしたい。

1、江戸川区(平井・小松川)の金魚養殖はいつから・どのように始められたか?
2、どのあたりに存在し、どのような経過をたどったのか?
3、江戸川区の金魚の特徴とは?

1、江戸川区(平井・小松川)の金魚養殖はいつから・どのように始められたか?

江戸で金魚養殖が始められたのは、元禄年間(1688~1703)以前のことであったが、発祥の地は現台東区の不忍池付近であったようだ(鈴木,2019)。ついで、入谷や根津方面でも行われ、明治期に入ると本所・深川に移った。大正期には震災以後、亀戸・大島・砂町に多くの業者が土地を求めた、という(江戸川区郷土資料室,1992)。

これらをまとめると、
江戸期=不忍池・入谷・根津→明治期=本所・深川→大正期:亀戸・大島・砂町
という変遷の中で、江戸川区の金魚養殖が始まったようだ。

広重「東都名所 不忍之池」。このどこかで金魚が養殖されていたのか。

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2、どのあたりに存在し、どのような経過をたどったのか?

明治30年代に平井に6軒、小松川に1軒が移転してきたことが江戸川区の金魚養殖の始まりらしい(江戸川区郷土資料室,1992)。明治末年には他に、葛西・篠崎・小岩の各村でも水産養殖が行われたが(江戸川区,1976)、盛んになるのは関東大震災以降であった。需要拡大による養殖業の専業化、規模拡大を目指した養殖家たちにとって、江戸川区は良い条件が揃っていたのだろう。これは私見だが、西郊の近郊農村は人流に沿って雑木林→畑→住宅地と変遷し、植木屋・種苗店を誕生させたが、東郊でも池・水田→住宅地と変遷する中で新たな金魚養殖業者を生んだのかもしれない。

昭和8年末には金魚養殖場22ヶ所、養殖高383万尾という多額の生産高を記録し、昭和15年頃には23軒(東小松川地区5、小岩地区1、春江・一之江地区12、宇喜多地区3、平井地区2)の業者で5000万匹以上も生産していた(江戸川区,1976)。当時の復元地図には平井一丁目に「佐々木金魚池」、平井二丁目に「藤井金魚池」が見える(長島,2004)。江戸川が愛知県の弥富、奈良の大和郡山に並んで「金魚の三大生産地」と呼ばれるのはこの頃だと思われる。

戦後、戦災やカスリーン台風・キティ台風の被害から立て直しが図られたものの、昭和30年代より都市化が進み、昭和44年の東西線開通による地価上昇や、水質の悪化、固定資産税の高騰により、他県に移転もしくは転業する業者が増えた。昭和47年には17軒、1979年には6軒となり、1992年には石川・橘川・佐々木・堀口の4軒になってしまったという(江戸川区郷土資料室,1992)。

2022年現在、Googleマップ上で確認できるのは、佐々木養魚場と堀口養魚場の2軒となっており、その盛衰が見受けられる。この佐々木養魚場とかつて平井にあった「佐々木金魚池」と関係はまだわからないが、今後調べてみたい。


3、江戸川区の金魚の特徴とは?

重要なのは、江戸川区の金魚が生産地(養殖場)として発展してきたことにあるだろう。そこには広大かつ豊かな水辺空間が横たわり、養魚技術の粋が集められ、そしてそれを販売する消費ルートが存在した。土地に結びついた職業ゆえに、そこにはいくつもの土地の記憶が重ねられており、街を捉えるのにいくつもの手がかりを与えてくれる。

ちなみに、人気の品種であるリュウキン、その中でも江戸川区産のものは「江戸川リュウキン」としてブランド化している。先に挙げた堀口養魚場がその養殖に力を入れているそうだ。

「江戸川リュウキン」(「揺らぐ赤い影 金魚の養魚場(東京・江戸川)  今昔まち話」『日本経済新聞』2018年7月21日 より)

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金魚も私たちも、いくつもの記憶を重ねながら、泳いでゆく──。

引用文献

鈴木克美『金魚と日本人』講談社学術文庫、2019
江戸川区『江戸川区史』第三巻、江戸川区、1976
江戸川郷土資料室『特別展 江戸川区と金魚』、江戸川郷土資料室、1992
長島光二『郷土史 わが街小松川・平井の歩み』明光社、2004
「揺らぐ赤い影 金魚の養魚場(東京・江戸川)  今昔まち話」『日本経済新聞』2018年7月21日 より
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO33256790R20C18A7CC0000/

文責:伊東 弘樹


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