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大島真寿美 著【渦 妹背山婦女庭訓 魂結び】

noteの読者&クリエイターの皆さま
こんにちは〜 お疲れさまでございます😉

今回は、直木賞受賞作品である大島真寿美さんの【渦】を紹介させて頂きます。
なお、ネタバレを含みますのでご了承ください。

❇️著者プロフィール

大島 真寿美(おおしま ますみ、1962年9月19日)は、日本の小説家。
愛知県名古屋市出身。愛知県立昭和高等学校を経て、南山短期大学人間関係科卒業。

高校在学中より脚本の執筆を開始。1985年より劇団「垂直分布」主宰(1992年解散)、脚本・演出を担当。

小説家へ転身し、高校在学中の講演会で卒業生の山田正紀から受けた助言に従って新人賞への応募を開始。1992年「春の手品師」で第74回文學界新人賞受賞。同年すばる文学賞最終候補となった『宙の家』が刊行される。2012年『ピエタ』で第9回本屋大賞第3位。2014年『あなたの本当の人生は』で第152回直木三十五賞候補。2019年、初めて時代小説に挑戦した『渦 妹背山婦女庭訓 魂結び』で第161回直木三十五賞受賞。

いきつけの書店として名古屋市瑞穂区の七五書店を挙げている。七五書店では2012年頃から大島の作品コーナーを設置している。

ウィキペディアより


❇️物語の背景

江戸時代、享保年間の浄瑠璃作者 近松半二ちかまつはんじの物語り。実在の人物です。
享保年間というと暴れん坊将軍の時代ですね。
この時代、人形浄瑠璃よりも歌舞伎の方が人気でした。

元々浄瑠璃発祥の物語が歌舞伎の方でも演じられることがありまして、
現代でも歌舞伎で人気の演目も、元を辿れば浄瑠璃だった
…という話は、業界あるあるです😝(笑)

儒学者の穂積以貫ほずみいかんは、近松門左衛門ちかまつもんざえもんの大ファンだったため、操浄瑠璃あやつりじょうるり(人形浄瑠璃のことを当時は操浄瑠璃と言っていました。)の芝居小屋である竹本座たけもとざに頻繁に出入りしてました。

穂積以貫に幼い頃から竹本座に連れられていた息子の穂積成章ほずみなりあきは、浄瑠璃が自然と身についていきました。後の近松半二です。

穂積成章が"近松"を名乗るエピソードもまた面白いです

❇️【妹背山婦女庭訓いもせやまおんなていきん】とは

タイトルにある妹背山婦女庭訓いもせやまおんなていきんとは、
近松半二作の時代物の人形浄瑠璃です。

はっきり言って複雑で難解なストーリーなんですが、物凄くオモシロイ!!
あれよ、あれよ…と言うてる間に、テンポ良くストーリー展開されていきます。
テンポ良すぎて『は?なんで??』っていうことが多すぎるのも事実なんですね。それが、近松半二の浄瑠璃の楽しいところでもあります。

三大浄瑠璃(菅原伝授手習鑑すがわらでんじゅてならいかがみ義経千本桜よしつねせんぼんざくら仮名手本忠臣蔵かなでほんちゅうしんぐら)と並び称される演目として今なお人気があります。

そして、舞台芸術としても最高です!
通常、ゆかと呼ばれる大夫さんと三味線さんがいるところは、舞台上手(客席から舞台に向かって右手側)ですが、この妹背山婦女庭訓の妹山背山の段いもやませやまのだんでは舞台下手にも床が設けられて、まさに妹山と背山に分かれて詞章が語られ豪華な三味線の調べが交互に奏でられる!という超豪華版なのでございます。

その妹背山婦女庭訓を書き上げるまでの近松半二の半生を描いた小説がこの【渦】です。

❇️主人公 近松半二を取り巻く個性的な人物たち

穂積以貫ほずみいかん・これつら
近松半二の父。儒学者で町の寺子屋みたいなことをしている。
無類の浄瑠璃好きであり、作者でも演者でもないのに竹本座にしょっちゅう出入りしている。
近松門左衛門ちかまつもんざえもんとも親交があり、近松門左衛門作の虚実皮膜論きょじつひにくろんという書物にも登場する。
偉大な近松門左衛門よりすずりを貰ったことを誇りにしている。
幼い頃の近松半二(この頃はまだ穂積成章)を竹本座に連れていき、半二が成人してからは

『まだ浄瑠璃を書かないのか?』
『近松門左衛門の硯で浄瑠璃を書け!』

と息子に浄瑠璃作者として身を立てる道を強く望むようになる。

◎近松半二のこのお父さんがイイんですよ-!
息子を凄く愛してる。息子をひとりの男として、いつか息子は立派な浄瑠璃作者になるに違いない!と信じている。
穂積以貫本人は少々変わり者として通っているが、そんなこと全然気にしていない。浄瑠璃好きの変わった先生として逆に人気を呼ぶほどである。

初代 吉田文三郎しょだい よしだぶんざぶろう
浄瑠璃作者でもある人形遣い。
三人遣いさんにんづかいの発案者。それまでひとりで操っていた人形を三人で操ることにより、人形がまるで生きているかのように表現できるようになった。蘆屋道満大内鑑あしやどうまんおううちかがみで初披露。

吉田文三郎の得意とした人形(まるで生きているようだと評された)

【蘆屋道満大内鑑】の安倍保名あべやすな
【仮名手本忠臣蔵】の大星由良之助おおぼしゆらのすけ
【義経千本桜】の狐忠信きつねただのぶ

作者としては、恋女房染分手綱こいにょうぼうそめわけたづな三好松洛みよししょうらくと合作にて発表している。

まだ浄瑠璃をひとつも書いていない近松半二に対して、半ば強制的に浄瑠璃を書かせようとする。そして、書かせては書き直しの連続。

◎父親の以貫とは全く違った野性味溢れる“漢”と書いて”おとこ”と呼ぶ的な性格がいろいろ騒動を起こしてくれて凄く楽しかったですね。
野心家でもあったので、ハラハラさせられる展開になったりして、ストーリーにどんどん惹きつけられましたね。

並木正三なみきしょうざ・しょうぞう
歌舞伎作者として大成。人形浄瑠璃と歌舞伎の地位を逆転させるほど歌舞伎人気を盛んにする演目を次々に発表していった。
近松半二の幼馴染みで幼名を久太きゅうたといい、芝居茶屋を営む和泉屋正兵衛いずみやしょうべえの息子である。
はじめ泉屋正三いずみやしょうざの名で歌舞伎の世界で有名になり、浄瑠璃作者の並木宗輔なみきそうすけに師事して名を並木正三とする。
水船の仕掛けを考案するなど、仕掛けやからくりに天才的な才能を発揮していく。廻り舞台まで作ってしまい半二をビックリさせる。

この並木正三との切磋琢磨の日々が、後の近松半二の浄瑠璃作者としての創作活動に多大な影響を及ぼしていく。

若くして並木正三は亡くなってしまうが、そのときの近松半二の姿が非常に細やかに描かれている。

◎幼馴染みとは、イイもんですねー♬
並木正三と近松半二のふたりの関係がとても素敵なんです。
自分より年下で幼い頃を知っているだけに、自分よりも早く大成して世の中に認められている正三に対する近松半二の心理描写。
歌舞伎と操浄瑠璃というジャンルこそ違えど、正三と同じように頑張っているにも関わらず、一向に芽が出ないのはなぜか?
正三は新築の戸建、半二は長屋住まい。
現代でもこのような境遇の差に思い悩み煩悶としている人は少なからずいるのではないだろうか? まさに私がそうだ(笑) いや、笑えない。。

これらの人物の他にも強烈な個性の人々が登場します。
近松半二の母親、妻など。

❇️【渦】全体を通しての雰囲気

主人公 近松半二の問わず語りの形式で物語が進んでいきます。

時代背景が、江戸享保年間の大坂道頓堀なので、まず大坂弁。
多少違和感のある大坂弁だが、慣れてくればさほど気にならないでしょう。

ただ、行替えなしでストーリーが展開していきます。
人物のセリフの部分が『』(かっこ書き)なしでト書き部分から続きで語られるので、慣れるまですこし脳内での処理が必要な気がします。

邪推なのですが、浄瑠璃の詞章を意識して書かれているのでは?

史実に忠実ですので、登場人物や功績など、グーグル先生に登場ねがってさらに詳しく調べていっても楽しいでしょう。
登場人物それぞれの個性を十分に引き出しながら、虚構と現実の見事なミックス加減が絶妙です。

いま自分が読み進めているのは、現実におこってることなのか?
主人公の近松半二の想いを描写しているのか?
ちょっとわからなくなることがありました。

あぁ、自分もまた登場人物たちとともに”渦”にのみこまれてるんだな…

そんな不思議な感覚に陥ることが何回もありました。まさにタイトル通り。

❇️最後に・・・

今まで人形浄瑠璃に縁がなかったという方も
妹背山婦女庭訓をご存知の方も
どなたさまでも
お楽しみいただけるはずです。

物語最終章では、人形浄瑠璃ならではの演出で物語が展開していきますので、そのあたりもぜひお楽しみに〜🤗




今回も最後までお付き合い頂き有難うございました。

この本が皆さまにとって素敵な一冊となりますように〜😉

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