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画像診断の勉強の仕方 1

授人以魚,不如授人以漁

いきなりですが,これは老子の言葉で「人に授けるに魚を以ってするは、漁を以ってするに如かず」と読みます.
飢えた人に魚を授けるよりも,漁を教えた方がよいという意味です.画像診断においては◯◯signといったものが魚,画像診断の勉強の仕方が漁にあたると考えています.
ここでは老子に倣って,救急医や一般内科医,総合診療科医の後期研修医向けに画像診断の勉強の仕方をお話したいと思います.
そんな偉そうなことを言える立場なのかという話はあるのですが,丸太町病院,救急・総合診療科では,画像診断の立場からも日々指導をしていますので,後期研修医の先生方には勉強になる話ができるのではないかと考えています.

画層診断を勉強するための5つの方法

先に結論を言っておきます.

  1. たくさんの症例,撮影された全ての写真,臓器をみる

  2. 自分が変だと感じたことを大切にする

  3. 画像を画像のまま,絵として感じる

  4. 自分が変だと感じたことを言語化し,比喩で表現する

  5. 物語を紡ぐ

この5つを意識して読影していけば,意識しないよりも格段に読影が上手になると信じています.

画像診断はパターン認識

画像診断の論文や教科書,参考書はたくさんありますが読んでもすぐには読影できるようになるわけではないということを感じる人は多いのではないでしょうか.
もちろん,すぐに使える知識もありますが知識をいくら蓄えても放射線診断医のようにはなれないと思います.
画像診断とはパターン認識なので,言語化できる特徴量だけで認識できるようにならないからです.

パターン認識とは,
自然情報処理のひとつ.画像・音声などの雑多な情報を含むデータの中から,一定の規則や意味を持つ対象を選別して取り出す処理.

環境の情報から規則性や構造を抽出し,新しい情報を解釈または予測するための人間の認知能力を指す.

wikipedia, GPT-4

何を言っているのか?と思う人もいるかもしれません.
絵で例えれば,いくら言葉を尽くしても絵の贋作を見極めることはできない,本物を見るしかないということです.山田五郎さんもYoutubeチャンネルでも同じようなことを仰っています.絵画がお好きな方にはおすすめのYoutubeです.

余計に分かりにくくなったかもしれませんが,よく出す例えを挙げて解説します.

Ricardo Stuckert/ABr - Ricardo Stuckert/ABr 14.Nov.2003,, CC BY 3.0 br, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=15476による
Georges Biard, CC 表示-継承 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=72580707による

上の人がコフィー・アナン,下の人がモーガン・フリーマン(敬称略)です.
二人をどう区別するのかというのが,パターン認識です.お二人には失礼ではありますが,コフィー・アナンを正常,モーガン・フリーマンを病気と例えて鑑別することを考えてみましょう.

簡単な鑑別点は,サングラスやピアス,そばかすでしょうか.
こういったものが画像診断の教科書に載っているような「言葉」になります.〇〇signと言ってもいい.もちろんこういった所見があれば,明日から鑑別できるようになります.
しかしながら,そこしか知らないとサングラスやピアスを外して,そばかすをコンシーラーで隠したモーガン・フリーマンを鑑別できません.
モーガン・フリーマンはピアスを外さないし,コンシーラーで隠さないかもしれませんが,画像診断においては,典型的でないモーガン・フリーマン(病気)が出てきます.

では,どうするか.
これまた失礼な表現ではありますが,人によっては,チャラい方をモーガン・フリーマンと言うかもしれません.片や国連事務総長,片や俳優ですから雰囲気が異なるのは当然です.
ここで,チャラさを言葉で逐一定義することも可能ですが,もはや雰囲気で「感じる」方がわかりやすい様に感じます.おそらくモーガン・フリーマンは,スーツ着ていても崩してチャラい印象を与えてくれるでしょう.私はこの「感じる」過程がパターン認識,画像診断の本質だと考えています.

ですから,結果である画像からパターン認識することも重要ですが,疾患の病態生理,表現型について勉強することも重要になります.何故なら,俳優だから国連事務総長と比べればチャラいのと同様に,癌細胞だから他の細胞と比べて浸潤傾向を示すわけです.そういった組織学,病理学的な知識も重要になる理由です.
例えば,癌病変をみたとき,その細胞の特徴をイメージし,その細胞の気持ちだったらどちらに浸潤したくなるだろうかと考えるようなことも重要になるわけです.モーガン・フリーマンだったらスーツであっても,ピークドラペルやショールカラーのスーツを着ていそうだ,みたいな想像をするのと同じです.普通の人はそんな想像しないかもしれませんが,そういった想像力がとても重要だと思うのです.

感じるために「たくさんの症例,撮影された全ての写真,臓器をみる」

さらなる高みを目指してみます.
ここで,コフィー・アナンのお母さんを呼んできましょう.いくら一流俳優とはいえモーガン・フリーマンがどれだけ変装しようとも,「あんたは私の息子じゃない」と言うでしょう.
どうやってそれがわかるの?と聞いたところで,うまく表現できないと思います.
少なくとも画像診断の教科書に載っている所見のように,サングラスsignの有無とか,おでこのシワの数が2本以下だとコフィー・アナンだなどと,特徴量を作る事はできますが,お母さんからすれば無意味なことです.
チャラさも違うでしょう.息子は息子としか言いようがない.言語化できない感覚的な部分が大きい.それがパターン認識の難しいところで面白いところです.

つまり,ここで最初に言った結論「画像診断とはパターン認識なので,言語化できる特徴量だけで認識できるようにならない」になります.

なぜ,会ったこともないモーガン・フリーマンをみても息子と間違えないのか.当たり前の話ですが,コフィー・アナンを何十年と見てきたからです.コフィー・アナン(正常)を数多く,長年見ておけば,初めて出会ったモーガン・フリーマン(病気)を正常ではないと感じることができるのです.
皆さんの周りにもいませんか?非常に稀な疾患で初見のはずなのに,さらっと診断する内科医や放射線診断医.
彼らは,正常症例や頻度の高い鑑別疾患を何度も見ているので,どれにも属さない稀な疾患に違和感を感じ,診断することができるのです.

以上のことから,1つ目のたくさんの症例,撮影された全ての写真,臓器をみるのが重要であるという結論になります.
放射線科医以外でよくあるのがMRIのT2WIやDWIしかみなかったり,腹痛で消化器しかみない,論文だけ読んで所見をわかった気になるというようなパターンです.
せっかく撮影したCTです.正常をみて自分の中に基準を作るチャンスだと思って全ての写真,臓器をみる方が読影が上手になる早道です.

自分を信じて,自分の違和感を大切にする

このように,パターン認識とはそのプロセスが必ずしも容易に言語化できるものではありません.ある程度読むようになると,「なんか変だな?」と感じることが出てくるようになります.
それが正しいこともあるし,外れることもあります.しかしながら,その感覚こそがパターン認識であり,外れたとしても成長途中にあると自分を褒めてあげてください.そこで,教科書や論文によるとこう見えるはずと書いているからと,そちらに引っ張られて自分の認識を歪めてはいけません.ましてや〇〇signを殊更に強調するのはよくありません.自分の感覚を信じてあげてください.

〇〇signで診断するということは,サングラスしているからモーガン・フリーマンだと言っているようなものです.あるいは,絵画で言えば,鑑定書や書類による証拠で絵そのものを感じずに本物/贋作を見分けているようなものです.

もちろん,最初は〇〇signの方が鑑別能は高いかもしれません.〇〇signだけでやっていては,いつまでたってもパターン認識できるようになりません.

ここで触れておかなければならない話題として,最近のAIはパターン認識が可能になっているため,人にしかできないと思われることとAIに任せることとで棲み分けをする必要があると考えていますが,これについては,別の記事でお話したいと思います.

もう一度強調します.間違っていてもいいので,自分の感じたことを大切にしてあげてください.これが2つ目のポイントになります.

以上,重要な2つのポイントについてお話しました.
長くなったので,残りの3つについては,別の記事でお話します.

今日のポイント

・パターン認識は必ずしも言語化できるものではない
・むしろ,言語化が難しい部分こそ価値がある
・そのために,たくさんの症例,撮影された全ての写真,臓器をみる
・自分が変だと感じたことを大切にする

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