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利他のこころを育てるために ~災害ボランティアに参加して~

臨時のメルマガが届いた。「急募」とある。世田谷ボランティア協会からだ。来週 末、2 泊 3 日で秋田市水害支援のためのボランティアバスを出すらしい。東日本大震災 は海外にいたので経験していない。あるのは「防災意識の低さ」だけ。これは現場を 肌で感じ、危機意識を高めるチャンスになるかもしれない。初ボラ、初秋田、予定な し。応募以外の選択肢はなかった。

個人で災害ボランティアに参加するのは、技術面、費用面ともにハードルが高い。 しかしベテランと一緒に行動できる団体なら参加が容易になる。とはいえ、ボランテ ィア保険への加入や踏み抜き防止インソールの入った靴など、それなりの準備は求め られた。金曜夜 10 時。ボランティア 25 名、職員 3 名、ドライバー2 名。それぞれの期 待と不安を乗せ、バスは出発した。

目が覚めると窓の外には色づき始めた田んぼが輝いていた。秋田でも熱中症アラー トが出されるほどの暑さが続いている。朝食も着かえも車中で済ませた。コンビニお にぎりをペットボトルのお茶で流し込む。世田谷区の赤いヘルメットと緑のビブスを 装着し身支度完了。あとは VC(ボランティアセンター)で作業を割り振られるのを待 つだけだった。

水害からすでに 1 カ月が経過し、報道もされなくなっていた。関心が薄れ、次第に ボランティアの数が減っているという。壁や床をはがしたり、家財の搬出作業を手伝 ったりする覚悟で駆け付けた。だが、良くも悪くも期待は裏切られた。今回の水害 は、排水できなくなった雨水が浸水する内水氾濫で、乾けば問題なしとのこと。今は 乾くのをじっと待っている状況らしい。

長袖、安全靴という重装備で臨んだにもかかわらず、依頼されたのはニーズ調査 だ。被害状況の確認ができていない地域に赴き、一軒一軒訪問して聞き取る。ローラ ー作戦が展開されることになった。担当するのは、JR 追分駅にほど近い秋田市下新庄 長岡字毛無谷地(けなしやち)。田んぼの中の住宅地だが、すでに片づけは終わり、す っかり落ち着いていた。

リーダーが呼び鈴を鳴らし、記録係として後に続く。「こんにちは。社会福祉協議会 から参りました。少しお話聞かせもらえませんか」「被害はいかがでしたか」「床上 何センチくらいまで水が上がりましたか」。「罹災証明書の申請はお済ですか」。1 軒目 のお宅で「5 年前にもあったっけぇ、慣れでるぅ~」と言われた。秋田弁を翻訳しなが ら調査票を埋める。

3 軒目で用件を伝えると、「ちびまる子ちゃんのおじいちゃん」そっくりの方が現れ た。手にはオリジナルの住宅地図と 2 色の蛍光ペンを持っている。聞けば去年まで町 内会長をしていて、町内の被災状況をすべて把握しているらしい。白い地図はみるみ る塗り分けられていった。ピンクは床上(浸水)、きいろは床下。地図の 9 割がピンク に染まり、ハザードマップの想定通りだった。

元会長は続けて、被害の件数、被災率、罹災証明書の申請数、申請割合、といった 数値データをそらんじた。記録係は一言一句聞き漏らすまいと、耳をダンボにして書 き留める。罹災証明はまとめて申請し、町内会報を 7 号出し、住民への情報発信をし ていた。慣れているとはいえ、完璧な対応に感心した。都会の町内会は高齢化が進 み、機能していないことが問題になっている。だがここでは、禍が転じた結果なの か、見事なまでに機能していた。

割り当てられたのは 47 軒。そのうち訪問できたのは、1 日目が 30 分で 4 軒、2 日目 は 90 分で 16 軒のみ。床下を確認してほしいという依頼が 2 件あった。VC に報告する ため、揺れる車内で情報を整理する。この時ばかりは、几帳面な性格が役に立った。 今回、災害ボランティアに初めて参加し、多くのことを学んだ。災害支援車両は高 速料金が無料になる。活動費用の大半は日本財団から助成金が支給される。VC ではオ ープンジャパンやピースボートといった NPO 法人が活躍している。彼らの影響力は大 きく、介入度合いにより復興スピードに違いが生じるという。ボランティアに必要な 物資は全国から届けられ、被災地に十分にある。足りないのは、災害コーディネイタ ーの数やスキル、マンパワーだった。

最大の収穫は、同じバスで行ったベテランボランティアたちとの出会いである。彼 らは、災害ボランティアをライフワークとしている。志が高く、利他心に篤い。現地 で合流した男性は、自費で現地に入り前日から活動していた。彼はベテランボランテ ィアなのだが、実は北区在住である。職場が世田谷区にあるため両方に関わってい る。職員はじめ他のベテランたちも意識が高く、尊敬の念しきりである。

当初の目的は、防災意識を高めたいという利己的なものであった。しかし今回の活 動を通して、ボランティアとは利他の心を育てる次元の高い行為である、ということ に改めて気づかされた。災害ボランティア以外にも、様々なニーズがある。利他心を 育てるためにも、経験を積んでいきたい。


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