その老人は開口一番、こう呟いた。
「人間に効くクスリをください」
３秒後、土星の輪のように
クエスチョンマークが
私の頭部をぐるぐる回り始める。

まずは話を聴く。耳感度MAXで。

かゆみをとめたいのに
先日買った塗り薬は
人間に効かないと書いてある。
別のものと交換したい。
ざっくりまとめると
このような主張だった。

ありとあらゆる感情を押し殺し
私は後期高齢者と相対した。
イントロを間違えてはいけない。
持参した交換希望のそれは
どこからどう見ても人間向き。

購入した製品の特長を説明する。
蚊、ダニ、ノミ、毛虫
それらの虫に刺されてからの痒み
じんましんなどの皮膚疾患に…

「違う違うそうじゃない。
　ここに書いてある虫専用ではなく
　人間に効く薬が欲しい。」

方向転換が必要だと感じたので
切り口を変えてみることにした。

「かゆみを感じるところは
　体のどのあたりですか？」
老人はハニカミながら
ぽそぽそと呟いた。
「背中と腕と足です」

投げられたハニカミボールは
見事キャッチャーミットに収まった。

乾燥性皮膚炎のお悩みを
無事解決できたかどうかは分からないが
老人は大事そうに抱えて店を後にする。

私は天を仰いでこう言う。
本日もありがとうございました。
難問クイズ大明神様･･･

著者　じゃむのアレ