5: 本邦における深頸膿瘍と沈降性壊死性縦隔炎のDPCデータ解析


Title of the article
Hidaka, H., Tarasawa, K., Fujimori, K., Obara, T., Fushimi, K., Sakagami, T., Yagi, M., & Iwai, H. (2021). Identification of risk factors for mortality and delayed oral dietary intake in patients with open drainage due to deep neck infections: Nationwide study using a Japanese inpatient database. Head & neck, 43(7), 2002–2012. https://doi.org/10.1002/hed.26660
I Summary
1. Research hypothesis
深頸部膿瘍からの沈降性壊死性縦隔炎は稀ではあるが致死的と報告されており死亡率は40%とされている。本邦からの報告はcase reportが主であり、大規模の報告は少ない。そのためDPCデータを用いて、死亡率や経口摂取、手術について検討を行う。
2. Study design
後ろ向きコホート研究(DPC)
3. Study subjects
・対象者は2012年4月から2017年3月までのDPCデータベースに登録された3820万件の入院患者を対象にし、①深頸部膿瘍や咽頭間隙膿瘍に対してドレナージを行った、②縦隔開放を行った、症例を選択した。
4. Data collection
年齢、性別、BMI(18.5以下、18.5-30、30以上)、喫煙(喫煙者、喫煙歴あり、非喫煙)、糖尿病、敗血症、手術回数、投薬歴、デバイス、嚥下リハビリ、入院期間、退院時の状態について評価した。
 
BMIは774件が欠損しておりmissingとした。喫煙歴は337件が欠損しており、喫煙、非喫煙、missingに分類しなおした。
 
アウトカム指標 
primary outcome: 生存かどうか
secondary outcome: 経口摂取再開までの期間
 
5. Data analysis
 
連続変数はKruskal-WallisまたはMann-Whitney U testを行い、カテゴリー変数はchi-squared testを行った。Multiple Logistic regression analysisはprimary/secondary outcomeを評価するため行った。secondary outcomeの評価のために中央値である9日で2群に分類し、経口摂取ができているかどうか評価した。既報を参考にし、深頸部膿瘍のリスクファクターは年齢、性別、肥満、喫煙、沈降性壊死性縦隔炎は糖尿病と敗血症、再手術、気管切開 and/or 人工呼吸、広域抗菌薬とした。p<0.05を有意とし、EZRを用いて解析を行った。
 
 
6.Conclusions
Figure1: 6405件が①深頸部膿瘍や咽頭間隙膿瘍に対してドレナージを行った(6040件)、②縦隔開放を行った(365件)が特定された。①外傷や異物・腫瘍による症例を除外(1245件)、②腫瘍・異物・深頸部膿瘍とは関係ない(211件)は除外した。最終的に4949件を解析対象とした。
 
Table1: 患者背景(A群、B群、C群):4979件のうち4791件は生存退院し、158件(3.2)は死亡退院した。9日でA群(10日未満)とB群(10日以上)に分類し、死亡はC群とした。3群を比較したところ、年齢・糖尿病・沈降性壊死性縦隔炎・敗血症、再手術、気管切開、人工呼吸、ICU入室、嚥下リハビリ、広域抗生剤使用期間は有意差を認めた。喫煙や糖尿病は有意差を認めなかった。
 
Table2: 沈降性壊死性縦隔炎の有無で分類した患者背景:年齢は非合併群で若く、合併群では糖尿病合併率や敗血症が高かった。気管切開・人工呼吸・ICU入室も合併群で頻度が高かった。沈降性壊死性縦隔炎では8.4%が死亡した(非合併群は2.55%)。
 
Table3: 死亡に寄与するリスクファクターの多変量解析(他の変数で調整): 50歳以上(aOR 2.96, 95%CI: 1.51-5.80)、75歳以上(aOR 5.57, 95%CI: 2.80-11.1)、糖尿病(aOR 2.47, 95%CI: 1.69-3.62)、敗血症(aOR 3.32, 95%CI: 2.29-4.82)、人工呼吸(aOR 3.96, 95%CI: 2.51-6.23)、であった。
 
Table4: 経口摂取までの期間: 沈降性壊死性縦隔炎がなければ9日以内に56.5%が再開可能であった。逆に縦隔炎がある場合は56.5%が20日以上経口摂取できなかった。
*入院前の経口摂取の状態評価が難しかった。
 
Table5: 経口摂取困難に寄与するリスクファクターの多変量解析(他の変数で調整):75歳以上(aOR 1.88, 95%CI: 1.51-2.33)、沈降性壊死性縦隔炎(aOR 1.41, 95%CI: 1.04-1.92)、再手術(aOR 1.71, 95%CI: 1.17-2.49)、気管切開(aOR 1.69, 95%CI: 1.44-2.00)、人工呼吸(aOR 1.91, 95%CI: 1.52-2.40)、ICU入室(aOR 1.53, 95%CI: 1.22-1.93)、嚥下リハ(aOR 2.04, 95%CI: 1.43-2.91)、広域抗生剤使用期間(aOR1.18, 95%CI: 1.17-1.20)
 
Limitation:
①    国内のDPCデータのため海外への外的妥当性に乏しいかもしれない
②    合併症については精確性に乏しいかもしれない
③    バイタルサインや血液検査や培養の結果は除外されており、敗血症の厳しい評価基準にあてはまらないかもしれない
④入院のみの評価になるため、それまでの診断・治療の遅延については評価できない

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