2022/11/30(水) FIFA WORLD CUP QATAR 2022 グループステージ第3節 チュニジアvsフランス 〜王者の静観〜

みなさんごきげんよう。アジアンべコムです。このような企画▼に参加しており、私はこのチュニジアvsフランスを担当します。
担当試合はドラフトで決まりました。私はどの試合でもいいですよ😊って爽やかに言って、希望はしてないんですけど、後で試合は選べば良かったなと思ったのは内緒です。

1.ゲームの戦略的論点とポイント

  • フランス、チュニジア、オーストラリア、デンマークで構成されるグループD。フランスはオーストラリアとデンマークに連勝で勝ち点6、ノックアウトステージ突破を既に決めており、普通に考えればターンオーバーする試合。

  • チュニジアはデンマークに引き分け、オーストラリアに敗戦で勝ち点1。チュニジアの突破条件は、フランスに勝って、かつ①デンマークとオーストラリアが引き分けると得失点差でオーストラリアを抜いて2位通過。

  • もしくは②デンマークがオーストラリアに勝った場合、チュニジアとデンマークの得失点差次第。両国は開始前の時点では得失点差で並んでいる。なお得失点差も並んだ場合は総得点で決まるので、フランス相手に1−2だったデンマークがややリード。

  • …といった状況で、チュニジアとしては必ずしも大量点が必要なシチュエーションではない。と言えるでしょう。

✔︎スターティングメンバー

スターティングメンバー
  • フランスは、チュアメニ以外の10人を入れ替え。リュカ エルナンデスが負傷で帰国した左SBにカマヴィンガ。非保持が1-4-4-2になる布陣で、前線にコマンとコロ ムアニ、2列目が右からフォファナ、チュアメニ、ヴェレトゥ、ゲンドゥージの並び。

  • チュニジアも12マールル、21ケシュリダ、5ガンドリ、15ベン ロムダン、10ハズリ といったここまでスタメンで出ていなかった選手を起用しました。システムはここ2試合と同じく1-3-4-2-1、非保持は1-5-4-1。

2.試合展開

✔︎チュニジアのラッシュと想定内のフランスの出来

  • 8分にチュニジアが左サイドでFKを得て、10ハズリの速いクロスボールを5ガンドリが右足アウトか脛に近い位置に当てる見事なボレーシュートでチュニジアが先制、と思いきやオフサイドで取り消し。

  • しかしこの”ゴール”で、元々チュニジアのファンの方が多そうなスタンドは湧き、大声援が後押しというとなんだか甲子園みたいですけど、チュニジアはフランス相手に怯まずアグレッシブな試合運びを見せます。

  • チュニジアは1列目3枚の1-3-4-3でセット。フランスのCBにボールが出ると、シャドーが中央から追い込んでSBに誘導。SBに対してWBがアプローチします。▼

チュニジアのpressing
  • チュニジアのWBが突っ込んでくる、フランスのDFのポジショニングとボールの持ち方、動かし方など諸々の要素があり、フランスSBとチュニジアWBのマッチアップのところで毎回ハマることになる。

  • ハマるとチュニジアがそのままボール回収して、速い攻撃を仕掛けることもあれば、フランスのSBは強引に前の選手(コマンなど)にボールをつけようとして、コマンのところでチュニジアのDFがクリアしたり、その前に対面のWBに引っかかってラインを割ったりして、少なくともフランスのbuild upはうまくいっているとは言い難い状況でしたが、でもそんなことはあまり気にしてないというか、特にフランスはその状況を修正しませんでした

  • それはフランス的には、グループステージ突破が決まってるから手を抜いているとかではなくて、デシャンのフランスは前からこうしたアバウトなところはあって、別にクリーンにbuild ipできなくても前線の強力アタッカーが試合を決めてしまうから、そんなに固執してないのでしょう。決勝トーナメントで同じシチュエーションになれば、ジルーに放り込むのではないでしょうか。

  • ▲の図の通りにならず、フランスCBがGKにバックパスしてやり直す場合は、チュニジアはトップの10ハズリが、GKは無理としてもCBの1人くらいはチェイスする能力があるので1人で特攻してボールを奪えないか頑張る。これがダメなら、チュニジアは撤退して1-5-4-1でセットします。

✔︎カマヴィンガの制御

  • チュニジア陣内にフランスが入ってからの攻防は、チュニジアは当然ながらまず右のコマンをケア。バイエルンなどで見るような、コマンにクリーンにボールが届けられて1on1が始まるシチュエーションはこの試合ほとんど見られませんでした。

  • それならばセオリーとしては、マークされてる三笘、じゃなくてコマンに強引にパスをつけて野に解き放つのではなくて、三笘、じゃなくてコマン以外のフリーの選手にボールを回して前を向かせるとか、もしくはチュニジアのDFを引きつけてスペースを作るとか、になります。

  • ただ、ここでフランスは左にウインガーではなくゲンドゥージを置いていること、そしてゲンドゥージが中央に入って大外のスペースを空けるのですが、フランスは急造ユニットからなる左サイドで特に設計がなさそうだったので、左にボールが回っても何かが起こる気配はなし。オーストラリア相手に、エムバペがぶち抜いてクロスボールだったり、デンベレのクロスボールにエムバペが合わせたりで得点していましたが、フランスはラスト30mは個人能力に裏打ちされたシンプルなオフェンスが基本なので、これらの選手の不在はものすごく大きい、チュニジアには追い風で、残る2チームには少々理不尽だったかもしれません。

  • 左SBカマヴィンガは、その気になれば1人でサイドを縦に突っ込んだり、左利きなのですが左から右にカットインしたり(2回くらい見せていました)とかできるようで、ただそれをやると左SBのところに誰もいなくなって、チュニジアはWBやシャドーが背後を突くことでチャンスが生まれる。ですのでカマヴィンガはサイドに蓋をするのが一番のタスクだったのか、割と自制した振る舞いに見えました。

✔︎フランスDFのクオリティ

  • チュニジアがボールを持った時の振る舞いは、デンマーク戦やオーストラリア戦は割とボールを捨てる(手数をかけず、前線の選手にシンプルに蹴る)選択が多かったと思います。

  • 絶対勝たなくてはならないこの試合では、過去2戦ほどはボールを捨てていないように見えました。それはフランスのディフェンスが緩いというかまったりしていたことも理由ではあったと思います。

  • チュニジアのbuild upはセオリー通りというか、3バックの1-3-4-2-1が4バックの1-4-4-2とマッチアップした時にできるミスマッチを突いて前進を繰り返していました。

  • GKやCBがボールを保持する局面からだと、▼のような感じで。フランスはコマンが1列目の右を担当するのですが、コマンはボールを持っているときはウイングとしてタッチライン付近に張るので、フランスの1列目は2トップというよりFWとウイングが並んでいる状態で、コマンは終始右寄りからスタートするややアンバランス(左に誘導する意図がなければ)なものでした。

  • チュニジアのバックラインが見たところ全員右利きなのもあって、必然と右でボールを持つところから始まり、フランスは正源寺、じゃなくてゲンドゥージが出てくる。ゲンドゥージを外せるところで21ケシュリダが受けて、SBカマヴィンガが出てきた背後にシャドーの25ベン スリマンが走る。

  • あとは、フランスの中央2枚、チュアメニとヴェレトゥが、チュニジアの中央2枚(基本的にあまり下がらない、salida lavolpianaしない)を見るので、チュニジアのFWとシャドーがやや引いたとこで結構浮きやすい状態でした。この構図は、10ハズリが足元でボールを収めることでも活用されましたが、それ以上にセカンドボールの争奪戦でチュニジアに利していました。

  • 特筆するとしたら、サイドチェンジはあまり使わないチームだなと感じました。最も使ったとしても、フランスはあまり横幅を圧縮して守らないので、あまり効果的ではなかったと思います。

チュニジアのbuild up
  • しかしチュニジアがフランスDF間のスペースを突くと、フランスのCBヴァランとコナテが動いてケアしに出てくる。このでのチュニジアのアタッカーとの能力差は凄まじいもので、チュニジアとしてはスピード勝負、運動能力勝負になる前にフィニッシュまで行きたいが、なかなかそうはなりませんでした。フランスだとこれでも3,4番手(サリバは5番手なのか)なのはクレイジーですね。

  • そしてチュニジアが後半運動量が落ちたり、トップの10ハズリや交代で入った9ジェバリが開始当初のようなエネルギーで、フランスのDFにプレッシャーをかけられなくなると、チュニジアは1-5-4-1撤退からの局面が増えます。

  • この際に問題なのが、低い位置でボールを回収すると、チュニジアはフランスゴール付近まで誰かが長い距離をフリーランして一気に前進しないといけない。その役割を負っているのは最後にボールが届けられるFWやシャドーなのですが、そうするとフランスDFとのフィジカル勝負になって厳しいところです。

✔︎時短登場のメガクラック

  • その意味ではチュニジアの先制点は、時間的に”ギリ”だったかもしれません。この時はフランスが押し上げる前にボールを回収して、DFとMFの間のスペースで10ハズリの個人技炸裂でしたが、これを1試合に何回もできるかというと体力的にも厳しかったと思います。

  • フランスは68分にサリバ、ラビオ、エムバペ。73分にグリーズマン、79分にデンベレを入れて、意外にもキープレイヤーを休ませない選択をとります。

  • 撤退で凌ぐチュニジア相手に、フランスはフリーマン化するグリーズマンを使ってボールを逃しながら前進。チームのバランスとして、グリーズマンが好きに動いても背後を掃除してくれる選手はたくさんいる。逆にグリーズマンがいないと少しフランスは単調になってしまうというか、中央でボールを循環させる選手不在に映りました。

  • ATには放り込みから、グリーズマンがネットを揺らしますが取り消されて、チュニジアがフランス相手に初勝利を挙げました。

3.雑感

  • フランスはあえて死んだふりをしているというか、ここからまたピークに持っていくんだろうなというようなゲーム。にしても完成度はかなり低くて、このクオリティだと残り2チームには少し不公平にすら感じました。オーストラリアが勝ってよかったですけども。

  • チュニジア。客観的には、ラウンド16に残るチームではなかったと思います。一方、運べて守れるDFがいない(左利きもいない)、前線に傑出したタレントもいないチームのサンプルとしては興味深いものでした。日本がオープンな展開にして、リスク覚悟で点を取りに行くやり方について賛否両論と思いますが、もし日本の監督がものすごく慎重な方で、このチュニジアみたいなスタイルでプレーするというと、見る側にはエンタメとして厳しいかもしれません(ドイツ戦前半はそんな感じだったかもしれませんが)。それではみなさん、また逢う日までごきげんよう。

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