【雑記】アントラーズが目指すデジタルマーケティング ~7万人弱の街に平均2万人を集める戦略とは~ (株)鹿島アントラーズFC 取締役 事業部長 鈴木 秀樹

 前回のこの記事の続き。3/1(金)の展示会での、サッカーマーケティングに関する2本立て講演の2本目である。ユヴェントスの話は、結構既知の話も多かったので、鹿島の方が需要があるかもしれない。 ↓前回記事

<はじめに>

・講演者の概要。JSL2部時代の住友金属サッカー部でプレー。アントラーズ立ち上げ時にフロントへ。
・クラブと街の概要(割愛する)。鹿島市は鹿島臨海工業地帯の開発以降、2016年に初めて人口減に転じた。
・アントラーズの事業部はスタッフ115人!(但しアルバイトも含む)
・これまでは「変えてはいけないもの、守るべきもの」を守っていく方針でやってきた。

<Jリーグ加盟>

・割愛(99.9999%無理だけど15,000人の専スタ作れば考えなくもない by川淵三郎)
・当時、県サッカー協会の推薦がないとJリーグ加盟を推薦できない。県は日立製作所サッカー部のJリーグ加盟に期待していたが、すったもんだがあり日立はJリーグ立ち上げ時の加盟は見送り。「致し方なく」住友金属を推薦した。
・川淵氏はしばらく「鹿島を入れて失敗した」と言っていた。加盟クラブの審査時も落とそうとしていたが、選考委員カトQこと加藤久の「今の時代、専用スタジアムの確保はなかなか容易でなく、それだけで価値があるのでは」との意見により加盟が認められた。
・ホンダからの選手引き抜き、ジーコの加入により強化。
・スタジアムは計画から竣工まで約2年。公共工事としては異例のスピードである。

<経営課題>

・Jリーグのコア圏は「スタジアムから30km圏内」と言われる。鹿島の場合は半径30kmの大半は海。陸地部分も千葉県に含まれる。
・サポーターのスタジアムへの平均所要時間は91分(かつては120分)。43%の来場者が91分以上。それでもだいぶ改善されてきた。

<経営の方向性>

・収益面や年俸総額では、(クラブワールドカップで対戦した)レアルマドリードの1/20しかない。
・しかしレアルの遠征スタッフを見ていると、”選手を勝たせるコスト”(フィジオセラピスト、マッサージ師など)のコストのかけ方は、20倍ではなく3~4倍だと感じた。
→KPIとして「”選手を勝たせるコスト”はレアルマドリードに近づけよう」、との方針を打ち出した。人材や体制面。

<クラブの哲学>

・「全ては勝利のために」
・存続のために、勝つしかなかったのがここ30年。間接部門や、スタジアムの清掃係にも、「勝つために仕事をしている」ことを浸透させている。

<ビジネスモデル>

・一般的なクラブは
1)広告収入
2)入場料収入
3)ライセンス収入(グッズ・放映権) 以上3つがサッカービジネス
鹿島は4)スタジアムビジネス(nonサッカービジネス。ウェルネス、クリニック、イベント、ターフ(芝)等)

<スタジアムビジネス(nonサッカービジネス)>

・そもそもの動機は、県所有スタジアムの賃料が高いことも一因だった。鹿島の田舎にあるのに、国立競技場と同等の賃料だった。(ひえ~)
・2006年に法改正があり指定管理者制度による管理が可能になった時、この問題もあり、すぐに乗り出した。
・ターフプロジェクト:スタジアム稼働率を上げるには芝の改善が不可欠だった。今はキャンプ、盆踊り等を行っている。

<広告収入、パートナー、スポンサーとの関係>

・収入の30%を占める。2019年は90社のスポンサーがいるが、最上位の「オフィシャルパートナー」が15社。この15社でスポンサー収入額の87%を占めている。
・10年以上継続が55社、20年以上継続が19社いることも特徴。
・かつてはスポンサーにとっては、広告価値が唯一のメリットだった。今は「アクティビティ(体験価値)」、「デジタル」、「協業」がポイントである。
 →ex.NTTドコモとの協業(クラブだけでなく地域活性化)
 →ex.学術連携。流経大(人材育成)。産業技術総合研究所(あらゆる研究をやっている。スタジアムの老朽化とか。テクノロジーを使った来場者の満足度測定とか。但し機関の性質上、研究結果を公表できないことが多い。)
・スポンサー間の異業種交流も活発化している。「アントラーズを担当すると出世する」という都市伝説がある。

<デジタルマーケティングの取り組み>

・94年からCRMに関する取り組みは行っていた。当時はスタジアムのキャパシティ15,000人に対し、Jリーグブームで多くの来客が見込まれるため、CRMの目的は「客の選別」(どう選別し、狙い通りの人を呼び込むか)だった。今はキャパ4万のスタジアムなので、キャパを埋めるために人を呼ぶことを目的として行っている。
・事業方針として「常に、10年後の顧客の姿を見たうえで取り組もう」。
→今はアナログな領域が残っていても、10年後にはその領域、その人もデジタル化している。

<デジタルマーケティング戦略>

・①事業収益の最大化、②体験価値の創造、③オペレーションの最適化、を掲げている。
・③は、今のICT化ってなんだかんだでアナログな、人力で作業するような領域が残っている。そこを排除し、各種データベース等のシームレスな融合による効率化を目指しているとのこと。
・ニューヨークに拠点を作った。デジタルマーケティングの最新の情報が欲しいため。検討時、複数の先行的な調査結果や情報を見たが、どれも怪しく信用できなかった。結果的には成功。最新の情報を現地で収集することが重要。(で、何をやるのかは言及されなかった)古い情報で間違いを犯さない。
→http://www.so-net.ne.jp/antlers/contents/sportsdigitalforum2018/ ブルズの話が出てきたのでこれ繋がりか?(北米の先進的なマーケティング手法を収集する)
・他にはAIの活用によるオペレーション最適化、5Gへの対応、が言うまでもなく重要だろう。

<集客について>

・総来場者数は右肩上がり。ただし、2018年はACLと金Jの平日開催も多かったため、平均は減少。平日は首都圏からの集客が難しい。
・マーケティングリサーチ会社に委託して調査したところ、「アントラーズの潜在ファン」(「関心がある」人)の属性(性年代)を把握した。量、質的にほぼ予想通りだった。(データ裏付けしたことに意義がある)。その人たちの情報源は、「Youtube」「インターネット」「Facebook」「LINE」等。→一般的な話とほぼ同じ。
→よってマーケティング面のKPIは「オフィシャルサイト来訪数(ユニークユーザ数)」(マネタイズの基本である)。各種SNSアカウントを始める前は、年200万ユーザーだったのが、現在は274万ユーザー、6,100万PV数に。

<JリーグIDの活用>

・CRMの基盤となっている。これまで想像だったものをデジタルで裏付けることができた。
・来場者の居住地:茨城29%、東京18%、千葉11%、他埼玉、大阪が上位。
・属性を把握したことで、セグメント別に施策を打てるようになった。(グランパスの話と同じですね)
→「家族構成」「DAZN契約/未契約」「性別(女性グループ)」等で内容を変えてメール、告知する等。
・来場者のカテゴライズ:新日鉄住金SSと協業し、居住地域で単純に分けて考えた。
→「大都市に住むエグゼクティブ」「エリート」「中高年」「ファミリー」「若者」(など、20属性くらいに分けられたマップを見せてもらった)単に地域で分けただけだけど、居住地だけでもけっこう特徴が現れる。
→これらにより、求めるグッズが違う。マーチャンダイジングに活用。
・「Thank Youメール」:来場者に試合終了後、すぐにメールするようにしている。アウェイサポーターにも届くようにしている。鹿島はアウェイ限定サポーターが多い。そういう人に「次は鹿島にも来てね」とする。
・横断的なデータ活用。フィットネスクラブの利用者は、実は殆ど試合観戦に来ていない。これどどう捉えるか。①サッカーに来てね、とする、②サッカーが関係なくともアントラーズブランドが信用されている、と捉える。後者だと思っている。

<スマートスタジアム>

1)マッチデービジネス:スタジアム内Wi-Fi、大型ビジョン等の環境整備。
・Wi-Fiは、来場者の20%しか利用していない(一般には40%)何故だか聞いたところ、「観戦中はスマホのバッテリーを温存したい」という意向がわかった。鹿島まで来る最中に暇だからスマホを使い、バッテリーがない。
→充電ステーションの設置
→モバイルバッテリーの貸し出しサービス(東京で返却できる)を開始した。
2)サッカー以外:スポンサーアクティティ(チラシ、クーポン等)もデジタルクーポンにした。

<Jリーグアプリの活用>

・3フェーズあり、今は2フェーズ目と思っている。
1)情報収集
2)デジタルチケット(2019年より。開幕戦で7,000人が利用)
3)(時間なくメモとれなかった)

<クラブの将来ビジョン>

・2011年にこれまでの歩みを検証したところ、「(この商圏で)消滅しなかったことが奇跡」との認識に至った。たまたま成績が良かったから、存続していた。
・今後に向けてのビジョンを設定した。
1)フットボール:世界に向かう
2)コミュニティ:育成
3)ブランド
4)スタジアム
5)夢:地域に夢を
ビジョンを設定し、中間評価(これで間違ってないね、となり)、この中で次に投資するものは「育成」だと判断した。2019年にユース寮を作る。
・スタジアムについては、適正なキャパシティは2.5万人と思っている。客の枯渇感と入場料収入のバランス。今後、県と調整が必要。

<最後に>

・どのクラブも、「地域と一緒に何ができるか」、がポイントだと思っている。
・地域に人を呼ぶために、DMOを設立した。インバウンドとして、スポーツ合宿の誘致をしている(年数百人程度?と言っていたような)
・年間来場者数44万人。観光消費額で言うと、5,500人の定住者に相当する経済効果。

【雑感】

・スタッフ数が多い。
・ここ5年ほどで、Jリーグ各クラブは「スタジアムを役所に」「資金源を老舗大企業に」で頼るクラブが逆境に陥っていると感じている。意思決定が遅いし、役所は様々な制約・しがらみがあり中々win-winとはいかない。鹿島は資金面はともかく、スタジアムで早期に行政依存を脱却できたのは先見の明があったと思う。
・何でNYに?と思ったが、書き起こしてみると北米市場を取る話ではないんですね(ユベントスの話と絡めて話していたので、混同して聞いてしまった)
・今デジタルチケットやってないチームは・・・あと、リーグの財源確保って大事だね。
・札幌と比較すると、やはり札幌はオフィシャルサイトの構成と誘因が課題だと思われる(個人的には、情報の羅列の仕方が役所みたいでメリハリがないと思っている。今後改善されるだろうが)。あと「Thank Youメール」も勉強した方がいいかも。後は、ところどころ「大企業の動き」である。組む相手とか。札幌は地理的な性質もあるが、社長が大企業出身か否かは、その組織のカルチャーやイデオロギー等に結構影響していると思う。

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