幽霊たち

 誕生日は祝ってほしい、なんなら特に生まれた日とかでなくても毎日を祝ってほしいくらいだ。そんなわけで(どんなわけだよ)初上映日が誕生日に重なっていた「サマー・ゴースト」を見に行った。イラストレーターのloundrawが監督、ホラー作家の乙一が脚本ということで、近頃のライト文芸的な風味の作品になることはまず間違いないだろうと思っていたので心構えをして臨んだところ、予測通りすぎてむしろ怖かった。内容もセリフも登場人物の考えも全体的にふわふわしていて掴みどころがなく、何に共感していいのかわからなかった。セリフはまるで「青春ライト文芸的セリフジェネレータ」で自動入力されたのではないかと思うほど既視感に満ちていて、演出は要所で的確に出力を間違えて、タイミング良く強火にするつもりが誤って厨房を爆発させてしまったくらいの加減違いを起こしていて、これはエモすぎてむしろお笑いにすらなりうるなどと思ってしまった。怖かった、というのは何も揶揄して言っているのではなくて、そういう要素の一つ一つが「青春ライト文芸」をそのままなぞっているとしか思えなくて、作品そのものが「ライト文芸」というよくわからない大きな概念の忠実な模倣ではあるけれど、誰の物語でもない。そういう実態のなさ、それこそ幽霊みたいなこの作品のあり様が、怖かった。実は本当の狙いはそこにあって、あえてこういう脚本にしたのだろうか。皮肉にしてはあまり笑えないと思う。物語が、登場人物が、泣いてる。物語が終わる時、解決しようのない色んな問題がなんとなくいい感じに解消したことにされてしまうあのやり口がライト文芸の嫌いなところで、あれは物語に対する一番の冒涜だと思うから、制作側にどんな意図が、どんな想いがあろうと、許せない、腹が立つ。
 脚本と演出については色々思うところがあったけれど、やはりloundrawの絵は好きだと思った。アニメーションはBUMPの「66号線」で作った自主制作PVに比べて確実に進化していて、それでいてインディーっぽい荒削りさが残っているのも好みだった。その他にもサマーゴーストと主人公の関係性について言及したとあるセリフには結構グッときたし、脚本は改善しようのある一要素でしかない。もしまたloundrawさんが映画やるって言ったら俺はまた懲りずに見に行くと思う。ポスト新海誠なんて、そんな鈍臭い呼び方はどうも好きにはなれないってわけよ、とか言って、ファンの期待するエモみたいなイメージを全力で突っ返して欲しい。というのは俺の好みとか願望であって別にどうでもいいことなのだけれど。
 青春は、どうやったってコケにされてしまうものだからこそ、青春が青春をコケにしちゃいけない。これもまた青春、と言いたげなツラで僕らは前に進んだ、みたいな雰囲気にするのはいいけれど、悲しむ暇もなくただただ急ぎ足で立ち直らされて元の日常へと追い返されるようなこの作品のテンポ感は、毎日感情を殺して電車に乗るあの時の、世界という大きな獣に呑み込まれたような絶望感に似ていた。そりゃ悲しいに決まってるよ。

2021/11/12


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