ぱせらいってきたよ嘘レポ
※※※⚠️写真以外全部嘘です⚠️※※※
大阪のド真ん中、道頓堀。
休日に行くには少し気合が必要なくらいには遠く、また、大都会の渦中へひとりぼっちで出かけるのは心が耐えられません。
よしんば一人で辿り着けたとしても、パセラリゾート入り口を守る屈強な警備員に「ここは君のような小汚いオタクの来る場所ではないよ」と門前払いされることでしょう。そうして歩道にころがされた私は町行く人々に「乙女館はあっちだぞ」「K-BOOKSは向こうだぞ」等と嘲笑されることでしょう。
おそるべき街、難波。
まあそういうわけで、友人に推し活を暴露する覚悟を決めたのです。小綺麗な連れ合いがいれば惨劇は回避できることでしょう。
私の街から難波までは最寄りから電車で1時間と少しほどです。昼前に着くようにしてパセラでランチ、その後周辺のオタク屋さんを適当に回ったりしようかなと思っていました。
「これが☀︎さんのお気に入りなわけね」
ホームページのコラボイラストを指しながら友人Bは言いました。私は気色悪くもじもじしながら「まあ、はい。そうです」と小さな声で答えました。
「にじさんじやったらだいたい分かるけど(※ろふまおファン)、知らん子ですねえ」
「ちなみに布教する気はないですので」
「なんで誘ったん!?」
「だって、ひとりで首都圏とか行けるわけないやん」
「いつから大阪が首都になったんだ」
Bは「まあ私もりんくうより北行く機会そんなないですけど」と言いました。
道頓堀へ
天王寺で地下鉄に乗り換えて、なんば駅で降ります。
その日は雲ひとつない快晴で比較的暖かく、脱いだアウターを片手に歩く人もちらほら見かけました。
道頓堀橋の南詰を東に折れてほどなくするとパセラの看板が見えてきます。
私の心臓は高鳴りました。あらためて考えれば、リアルでヰ世界情緒のコンテンツに触れることはこれが初めてです。四年も推して、心の底の煮詰まった感情が蠢きだしました。
そうして入り口前に辿り着き、視と聴にヰ世界情緒が飛び込んできた瞬間、私は思わず両手で口元を抑えました。
「おる〜〜……」
地元とは比べ物にならないほどの人混みの中、そこに”ヰ世界情緒”はいました。さらにそこそこの大音量で流れているのは”シリウスの心臓”。店内に入ってすらないのに既に「ここに住んで一生を終えたい」と思いました。
「今流れてるの、この子の歌なんです…」
「へぇ」
「再生数は500万超えてて…」
「普通にすごいな」
カラオケパセラはパセラリゾート3階にあります。入り口がエレベーターということにあまり馴染みがなく、都会の文化にどきどきしながら乗り込みました。
店内へ
3階。エレベーターのドアが開くと、私は「ハッ……!」とデカめの声を出してしまいました。
いる。
実在する。
受付の存在を無視して、私は彼女に釘付けになっていました。そうして必死の表情でお写真を撮っていると、Bが「撮りましょうか?」と言いました。
「ッ…!お願い!!」
その日、「推しとツーショを撮る」という、人生最大の実績を解除したのです。私は歓喜に打ち震え、撮ってもらった写真を穴が開くほど見つめました。
「ありがとう…ほんとに…」
「オタク仕草だなぁ」
Bは「大袈裟」と言ってけらけら笑いましたが、私は終始、真剣に、ヰ世界情緒に向き合っているつもりです。向き合った結果として挙動がキモチワルくなるのは仕方ないことなのです。
受付で𝑣𝑒𝑟𝑦 𝑝𝑟𝑒𝑡𝑡𝑦なキャラスタンドを受け取り、お部屋に向かいます(物販は会計の際だそうです)。道中、何度も繰り返し聞いた「エンドロール」がBGMとして流れており「情緒さんの曲がお店で流れている」と感動しました。……
え?
ヰ世界情緒の声だけど?
お部屋へ
私はBの手を引いて速足で部屋に駆け込み、扉を閉めてから「うたみたが流れてる!!」と絶叫しました。
「うたみた?」
「情緒さんがYouTubeに上げてるやつ!歌ってみた!やばすぎる、オタクすぎ」
早口でまくしたてる私に「…まあ、そういうのもあるんじゃないですか?コラボしてんだし」とBは言いました、
「歌ってみたっスよ!?たとえばさ、不破湊コラボカフェの店内で、不破カバーのフォニィ流すと思う!?」
「うーん、ワンチャン流すかも」
「流すかあ」
なんとなくの腑に落ちなさはあるものの、着席できたことでオタク的興奮はいくらか落ち着きました。
(メニュー表はポスターみたいにくるくる巻いて持ち帰りましたが、後から有料でラミネート加工してくれること知り泣きました)
テーブルにはコラボメニューの表が鎮座してしておりました。キャラスタンドと一緒に撮ろう、と思ったところで私は重大なことに気付きました。
「ぬい忘れた……」
最近は遠くにおでかけする機会がなかったため、ぬい撮りの習慣がすっかり失われていたのです。そもそも「だいじなだいじなヰ世界情緒おすわりぬいぐるみをよごしたくない」という気持ちが根底にあるため、ヰぬいとお外でぬい撮りしたことがなかったのも原因としてあるでしょう。今となってはすべて言い訳ですが……。
「これじゃレポに信頼性なくなっちゃうよ…」
Bの歌うコネクトをBGMに、私は肩を落としました。「そもそもぬいぐるみを持ち歩く成人オタクは怖いだろ」というツッコミはご遠慮ください。だってみんなやってるし。
Bはマイクを置いて「ごはん頼も」と言いました。
私はシリウスの心臓ハンバーグプレートとパンドラコールソーダを頼み、Bはかたちなきものパスタを頼んでいました。
「ドリンクいらへんの?」
「部屋代にドリンクバーついてるやん」
「注文した数だけコースターもらえるんですよ!だからドリンクも頼んでよ」
結局私が奢る形でココアを注文させました。胃には最大容量というものがあるので、物理的な意味で複数入手が難しいグッズです。Bには感謝せねばなりません。
「歌ってる最中に来るかもよ」
ごはんが来るまで歌おうかな、と私が曲を選んでいるとBがにやにやしながらそんなことを言いました。
私はふふんと笑って「あれ見て」と部屋の隅を指さしました。
「配膳ロボットが来るんですよ。だからノリノリで歌ってる途中に店員さんが来て気まずい!みたいなことにはならない。これが令和のカラオケです」
「へー。なるほどなぁ」
そうしてうきうきで歌っていると、店員さんが二人分のドリンクを持ってお部屋に入ってきました。店員さんは「こちら特典のコースターです」とコースターを置いていきました。
私が黙って写真を撮っているとBは「今の動画撮っとけばよかった」と笑いました。
ほどなくしてフードもやってきました。宅上のものをソファにガッとどけて写真を撮ります。本来ならここにぬいがあったのに、と思うとまた切ない気持ちになりました。
ステキに盛り付けられたものを崩したくなくて、どうにかこの状態のまま時間を止められないかと思ったほどです。二人ともお腹がすいていたので時間は止まりませんでした。
ハンバーグもめちゃ美味しかったのですが、ソーダの味は輪をかけて不思議な印象でした。見た目はオシャレなモクテルのようですが、甘さの奥に柑橘の純朴さがあるようなエキゾチックな雰囲気のジュースでした。
「おいしいね」
「ほんとにおいし……待って」
曲を入れていない状態だと、廊下のBGMや隣のお部屋の曲が聞こえてきたりします。隣の部屋で男の人が熱唱している曲には聞き覚えがありました。私はハモりながら曲名を思い出そうとします。
「どうしても〜ふふふふ〜ふふ〜………彷徨いだ!」
私は「隣のひともオタクですよ!」と言いました。知らぬ人をオタク呼ばわりするのは失礼なことなので皆さまは気をつけて下さい。
「それもこの子(ヰ世界情緒を指差しながら)の曲なん?」
「えーと……なんていうか、情緒さんと同じユニットの子の曲で……これの子」
(トウキョウ・シャンディ・ランデヴを見せる)「あぁ花譜!知ってます知ってます。へーそう繋がってくるんだ」
「……なんか改めて、私以外にこのグループのオタクがこの世に存在してるんだなって思った」
「ネット見たことない人の感想?」
その後はチューリングラブを踊ることに注力したりサンホラの曲を入れてゲラゲラ笑ったりして私たちはカラオケを満喫したのでした。
現実へ
物販を買えるだけ買うと、Bの分を差し引いても1万円を超えていました。オンラインショップだと無心で買えるからよいのですが、対面でオタク買いをすると店員さんにキモがられないかいつも不安になります。
お外は日が傾き始めています。我々は日本橋目指して歩き始めました。
しばらく歩いても、パセラの店先から流れるシリウスの心臓はまだ聞こえてきます。多国籍な観光客でごったがえす猥雑な街を、彼女の歌がどこまでも響いているというのは、どこか現実味が薄く不思議な感覚になりました。
ヰ世界に暮らす彼女は、たしかに私の世界にも存在する。少しだけ離れたところから彼女の歌を聞くと、どうしてだか強くそのことを実感しました。
私は振り返りました。そうして、異世界のような大都会の真ん中で、ぽつりと呟きました。
「また会おうね」
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