39歳主婦が風俗を利用するまで

「女の性欲のピークは30~40代」「女は妊娠できるタイムリミットが近づくと性欲が爆発する」などと世間ではまことしやかに語られているけれど、ほんまかいな、そんなことないでっしゃろ、と私はつねづね思っていた。

結婚して8年。交際から数えると15年近く夫をパートナーとしている。交際していたころはそこそこ意欲的にセックスに取り組んでいた。各種お道具やら動画撮影やら屋外やら、相互協力してエンジョイしたものである。

だが、結婚後にはじめてセックスしたとき、新居の寝室の天井を見上げながら愕然としたのだ。――生活とセックス、相性悪すぎ、と。ホームセンターで妥協して選んだカーテンや布団カバーや照明器具、そんなものが視界に入る場所でエロティックな気分にはなれない、と。

日本性科学会によるセックスレスの定義とは「特別な事情がないにもかかわらず、カップルの合意した性交あるいはセクシュアル・コンタクトが1ヶ月以上ないこと」だという。これはかなり厳しい基準じゃないだろうか。そんなこと言われたってさあ……と困惑する夫婦は多いのではないか。

ここ数年、われわれ夫婦の性生活は月に1回あるかないか、という頻度になっていた。タイミングが合わなければ、3ヶ月ぐらいあいだが空くこともある。それでも性交までは至らないちょっとしたセクシュアル・コンタクト(なんだろうな、この言いまわしは)はあるし、セックスレスだとは思っていない。このぐらいでまあいいや、いまの私にとっては適正な頻度じゃないかなと認識している。夫のことは変わらず好きだが、セックスの相手として欲情するのは難しくなってしまった。そもそも若いころのように玄界灘の波のごとく荒々しい性欲がこみ上げることもなくなった(地理に弱いので玄界灘がどこの県にあるのか知らないが)。

とはいえ男性に会う機会があると、「このひととセックスしたらどんな感じだろう」とつい想像しがちではあった。しかし、リスクを冒して浮気セックスしたところで、満足できる結果になる可能性はかなり低い。顧客満足度100%なんてありえない、全米は泣かない、せいぜいロッテントマト28点がいいところ。やさしい最愛の夫を裏切るに値する、エロのクリエイティビティや超絶テクニックや伝家の宝刀を有している男なんてそうめったにいない。

このまま私の性の火はだんだんとちいさくなってやがて消えるのだろうと思っていた。だが、そんなある日、いつになく性欲が高まることがあった。自慰をしてもなんとなくすっきりせず、数日その状態が続いた。

ああ、夫以外の男性といたしてみたい。それが偽らざる本音だった。だけど前述のように素人男は駄目だ。……じゃあ、プロだったら? ふと魔が差して、「女性向け 風俗 ○○(都市名)」で検索してみた。ここ2年ほどで女性用風俗が盛り上がりつつあると聞いたことがあったが、おらがまちにもいくつもあることがわかった。

「知りたい」「体験したい」という好奇心が男子中学生のセンシティブな陰茎のようにむくむくと頭をもたげた。好奇心は猫を殺す、というのはイギリスのことわざだが、私はいつか好奇心に殺されるかもしれない。

女性用風俗はデリバリー型の性感マッサージが現在の主流であり、男性用デリヘルと同じく本番行為は禁止されている(とはいえやっているひともそれなりにいるだろう、男性用と同様に)。多くの店はうさんくささがぬぐえず、心の警告ブザーがビービー鳴った。施術者のおっさんの欲望がだだ洩れな店も多い。

風俗店としての届け出を出している、性病検査を定期的にしている、うさんくささが限りなく薄い、「やりたい」という下心を発していない、という条件で絞っていった。そして私はひとりの男性に決めた。ネットで顔出しをしている男性で、なんとなく、サイトのつくりやSNSなどでの言葉に真摯な人柄を感じられたのだ。年齢は30をちょっと過ぎたところで私よりも若いが、この業界が長いというところも信頼に繋がった。安くはないお金を払うのだから、手慣れていないと意味がない。新規のフリーメールアドレスを取得して予約のメールを入れることにした。メールのレスポンスは早く、馴れ馴れしくも慇懃でもないほどよさで、信頼は高まった。

「風俗は浮気にならない」とのたまう人間は男女問わずいるようだけど、浮気かどうかを判断するのは当人ではなく、パートナーだ。私がよその男の前で裸になり、肌を触らせる――間違いなく夫は浮気だと言うだろう。なにも言わなければおそらく夫には気付かれまい。だが知られたが最後、夫を取り返しのつかないほど傷つけてしまう。愛情にも生活にも不満はなく、ただ好奇心と性欲を満たしたいだけの私の行動には一切の弁明の余地がない。離婚される可能性は高いし、むしろ離婚しないほうが茨の道になる。

夫を裏切ってまで自分の好奇心と性欲を満たしたい私のエゴはなんなのだろう。どうしてこんな人間になってしまったのだろう。そんな葛藤も湿った桃色のもやに覆い隠されていく。

予約したのは1週間近く先の日だった。待っているうちに不安は薄れ、期待が高まり、いや、期待すると失望が大きくなるだけだとそれを押さえ込もうと努めているうちに、当日を迎えた。

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ヴァジャイナ子

地方都市で暮らす39歳既婚子なし女性が、冥土の土産として風俗を体験していく好奇心発→地獄行きかもしれない旅路の記録。女性用性感マッサージからはじまり、いまは女王様とのSMにドハマり中。
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