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イギリスのエッセンシャルワーカー対象ドライブスルー形式コロナウィルス検査(PCR検査)体験記

 イギリスでは3月23日からコロナウィルス感染防止対策としてロックダウンが行われています。これにより収入を失う人には毎月の収入の80%を政府が補償することとセットです。他に事業主への補助もあります。街ではパブも小売店もレストランも図書館も全てが閉まり、学校も職場もクローズし、自宅からのテレワーク、ネットを使った授業に。人々はひたすら家にとどまり、食品買い出しなどのショッピングまたは健康維持のための運動(ジョギングなど)や、子どもと公園に出かけるなど1日1回の外出のみ認められています。また通院が必要な場合もOKです。そのような状況でもエッセンシャルワーカーと呼ばれる、医療関係、介護関係、運送、スーパーマーケットなどのスタッフは日々現場に出ている、という状況です。毎週木曜の夜8時には、人々は家の前に出てそうしたエッセンシャルワーカーのために拍手を送る「ナショナルサンキュー」が行われています。

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 私はいくつかの仕事を持っていて、そのひとつが、家から徒歩で通える距離と好きな料理ができるということで選んだナーシングホームのキッチンの仕事なので、この状況下、エッセンシャルワーカーと呼ばれる立場になりました。
 ナーシングホームでのコロナ対策は、手洗いの徹底とユニフォームでの通勤の禁止以外の防御策はほとんど行われていませんでした。しかし入居者(60人定員)が亡くなるペースが明らかに上がり始めたのです。毎週1〜2名のペースだったのがその2倍になり、コロナウィルス感染によるものだとしか説明がつかないと思いました。上の画像は咳や発熱の症状のある入居者の居室ドア表示です。この7日間を待たずして亡くなる方が相次ぐようになりました。

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 私は4月第2週からマスクを着け始めました。サージカルマスクが入手困難だったため初めは不織布のキッチンクロスで手作りし、いくつか余分を持ち歩くようにしていました。ヨーロッパでは口元を隠すマスクは表情が読み取れないということで一般に受け入れられない文化のため、マスクをしている私は目立ちました。仕事中の感染に不安を感じる同僚たちから分けてほしいとよく頼まれ、余分をあげていました。職場の偉い人から「マスクはケアホームでは必須アイテムではないから外してください」と注意されましたが、WHOのマスクの有用性への見解を説明したり、「誰もコロナに感染したくないし、知らずに感染して人にうつすスプレッダーになりたいとも思っていない。再考を。」と食い下がり、その2日後にはホームの入り口にスタッフ用の医療用マスクとグローブが用意されるようになった、というようなこともありました。

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 マスクの他に、アトマイザーに入れたアルコール消毒液を持ち歩き、触れる場所やマスクや両手などを頻繁に消毒するようにしていました。キッチンから出て館内を歩く際にはグローブも。このように出来るだけの感染対策は行なって来ましたが、咳や発熱の症状が出て7日間のセルフアイソレーションを経なければ検査は受けられないため、万が一感染していたら家族や入居者も危険にさらすという心配とともに日々の仕事をこなしていました。ナーシングホームでは相変わらず次々と入居者が亡くなり続け、退去用の段ボール箱が不足し、私のいるキッチンにまで段ボール箱は捨てずに保管してくださいという要請が来るほどに。

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 ナーシングホーム内はどう考えてもパンデミックが発生している状況、その建物の中を食事を運び、盛り付けをしてまたキッチンに戻る。ここのように認知症の方を受け入れているケア施設が病院と違う点は建物のブロックからブロックへの移動や出入り口などあらゆるところに暗証番号付きドアがあることです。それだけ不特定多数が触れる場所に触れなければならない機会が多いのです。直接入居者をお世話することがないキッチンスタッフよりもっと大変なのはナースやケアラー達で、マスク、グローブ、プロテクト用の使い捨てエプロン姿で居室に入ったり日々のお世話をしています。職場はまるで戦場のようです。でもみんな努めて明るく振舞っています。イギリスのニュース番組では毎日のように新型コロナ感染で犠牲になったナースやケアラーの顔写真がたくさん紹介されたりしていて、みんな不安でいっぱいなのに。そんな中、館内の4か所のレストランの食器やスナックを整える「ホステス」という職種の女性1人のコロナウィルス検査陽性という出来事も。彼女の親しい方が最近コロナで亡くなったとは聞いていましたが。ホステスとは頻繁にコミュニケーションし、キッチン内で一緒に作業をすることもあります。休憩時間にチャットすることも多かったので背筋が凍るような気持ちに。もちろん彼女の健康も心配ですけれども。

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 キッチンには常に明るいラジオの音楽が流され、みんなで冗談を飛ばし合い、そこで調理をしながら、ふと我に返ると突然涙が溢れそうになったり、「こんなパンデミック状況の中で普通に働いているなんてきっと私は狂っているのだろう」と思うこともありました。そんな仕事場から家族のいる家へと帰る。もし自分が感染していたら、コロナウィルスを運んでいたら、あるいは発症して最悪死んでしまうのかも知れない、という不安とで頭がおかしくなりそうでした。戦場の兵士が心を病むと言いますが、その手前にいるような心地でした。

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 そんな中、4月下旬、イギリス政府はようやくエッセンシャルワーカーは無症状であっても検査を受けられる体制を整えました。1日10万人ずつです。職場のレセプションにも検査の申し込み用紙が置かれるようになりました。職場を通さなくても個人で政府のホームページにアクセスして検査を申し込めるので、私はそちらから申し込みました。
 この検査の申し込みはオンラインで、名前、携帯電話番号、メールアドレス、車のナンバーを入力します。ほかに症状があり18歳以上の家族は3人まで同時に申し込みが出来ます。我が家は該当しなかったので私だけ申し込みました。検査可能な日程リストから、翌日(5月1日)夕方の予約を取りました。

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 検査当日、車で検査会場へ。会場は広い駐車場。プレハブの建物が建っていました。イギリス軍の兵士たちがスタッフ。窓は開けないで、のサイン。登録時に折り返し届いたQRコードをスマホに表示させ、ガラス越しに見せて読み取ってもらい、職場のID提示も求められたのでカードサイズの職場名と顔写真の入ったネームプレートを見せて本人確認終了。
 ここで感心したことがあります。申し込み時には職場について記入する必要がなく、エッセンシャルワーカーかどうかの確認は現場の担当者がIDや証明書を見て現場で判断します。これは非常に合理的だと思いました。
 窓を開けてはいけないので声が聞こえづらいため、ゼスチャーで進行方向を指示されました。

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 誘導に従って進むと電話番号の書かれたボードを持ったスタッフが立っていました。ここにかけて、の指示に従って自分の携帯からかけると、目の前のスタッフが「Hi how are you?」と明るく応答。なるほどそういうことか。窓を閉めた車内とスタッフとの会話にお互いの携帯電話を活用するというのもまた非常に合理的だと思いました。そこで検査のおおまかな流れが説明され、助手席の窓を1インチ(約3センチ)だけ開けるよう指示され、その隙間から検査キットのバッグが押し込まれました。

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 画像は中身を出したところ。パンフレット、検査方法の説明、検体容器、検体採取用の長い綿棒、検体提出用のビニル製の内袋と外袋、グローブ1枚、ティッシュペーパー1枚、個人識別用バーコードシール4枚。なぜティッシュ?その意味を間もなく知ることになるのですが。
 そしてまた次のポイントに移動。駐車スペースに車を停めるようジェスチャーで指示され、駐車。またスタッフが携帯番号のボードを持って現れ、その番号にかけると、「僕が検査の方法を説明しますからその通りにしてください。」
 長い綿棒で喉の左右を各10秒ずつ擦り、次に鼻の穴の奥の方も擦ります。喉を擦るとき、痛くはないんですが、涙がボロボロ出てくるんですよこれ(そういうわけでキットの中にティッシュペーパーが一枚入ってたのですね〜)。で、ハンカチで涙を拭いてると、ハンズフリーにしている携帯から明るいスタッフの声。
「Are you alright? You well done!!」
(大丈夫〜?よく出来ました😊)←褒めてくれた
 検体容器に綿棒の先端から入れ、容器のサイズに合わせてスティックをポキっと折り、スクリューキャップを閉めて、外側にバーコードシールを貼り、ジップの内袋に入れ、そこにもバーコードシールを貼り、提出用の透明バッグにもバーコードを貼り、それらをダッシュボードに置くように言われ、そのポイントは終了。またジェスチャーの誘導に従って次のポイントへ。携帯番号ボードを持ったスタッフが待っていて、かけると、
「検体容器の入った内袋を外袋に入れて封をしてください。できた?オッケー!そしたら運転席の窓を1インチだけ開けて、そこにポックスが差し出されるから検体の入ったバッグを投入してください。」
 言われた通りにして検査終了。所要時間は待ち時間含めて30分。
 結果は48時間後に、遅くとも72時間以内に携帯にテキストで届きます、と言われました。
 そして2日後の早朝、携帯にテキストが届いていました。48時間より早い、35時間後です。
 結果は陰性。これまでの感染対策の努力に意味があったのだと思えて、気持ちはずいぶんと楽になりました。仕事のほうは今まで通り、マスク、グローブ、アルコール消毒スプレー携帯、頻繁な手洗い、人と距離を取るといった感染対策をしながら続けます。
 思ったより長いレポートになってしまいましたが、最後までお読みいただき本当にありがとうございました。
 みなさん、どうぞよい1日を!

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