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伝えていきたい道具・画材の物語 Vol.1 クレヨン・絵の具編①

図工・美術の授業に欠かせないのが、子どもたちの自由な表現を引き出す道具や画材の数々です。
あまりに身近な存在であるがゆえに、それらがどのようにして作られているのかを意識することはほとんどないかもしれません。
道具・画材ができるまでには、どんな物語が隠されているのでしょうか。
Vol.1では、筑波大学附属小学校で図工を教える笠雷太先生とイラスト作家のもちがわさんが、クレヨン・絵の具の製造工場を訪ねました。

知ってるようで知らないクレヨン・絵の具のこと

クレヨンや絵の具にはどんな種類があり、どんな材料から作られているのか、知らない人も多いのではないでしょうか。
工場見学に出かける前に、クレヨン・絵の具の基礎知識をおさらいしておきましょう。


笠先生ともちがわさん

笠雷太先生(以下、笠先生):僕たちは日々当たり前のように画材を使っていますが、画材がどのように作られているのか、どんな人が関わっているのかといったことは、まったくと言っていいほど何も知らないですよね。例えば、クレヨンや絵の具の色のもととなる「顔料」や、絵の具の材料として使われている「アラビアガム」はどこから来るものなのか、もちがわさんは考えてみたことがありますか?

もちがわさん:いえ、これまで意識してみたことはなかったです。どこで採れたものを使っているんだろう? 海外から輸入しているものもありそうですよね。

笠先生:なかなか勘がいいですね! 顔料は国内のもののほかに、ヨーロッパや中国、インドといった海外から輸入しているものも多いみたいですよ。その時々で入手できる顔料の種類は変わったとしても、生み出されるクレヨンや絵の具の質が一定になるように調整しているスタッフの皆さんの努力には頭が下がる思いです。ちなみに、絵の具に使われている「アラビアガム(水に溶ける糊の原料)」は、アフリカ東部のスーダン共和国が世界最大の生産国で、スーダンで内戦が起きたときは輸入が一時的に困難になったこともあるそうです。こういうお話を伺うと、身近な画材を通じて、私たちは世界とつながっているんだと実感しますよね。

もちがわさん:世界各地から集められた材料が、工場でクレヨンや絵の具に形を変えて、私たちのもとに届いているんですね。画材って、子どもたちもよく使うものだからこそ、特別な愛着がありますよね。
実は私、小学生の頃に学校で使っていた、「ぺんてる」のパスを今でも大切に持っているんです。

もちがわさんが幼稚園から大事につかっているパッセル

笠先生:紙の上にきれいな色で何かを描けるときの喜びって、特別なものがありますよね。僕は以前にも一度、「ぺんてる」の工場を見学させていただいたことがあって、クレヨンやパスの製造工程では、要所要所で職人さんの手仕事が重要な役割を果たしていることに感銘を受けたんです。画材作りというのは、日本の文化・技術そのものだなと。こういうことは図工美術教育
に関わるものとして子どもたちにも伝えていけたらいいなと思います。

もちがわさん:画材ができるまでの様子や、こんな人たちががんばっているんだということがわかれば、今まで以上に大切に使おうと思えますよね。クレヨンや絵の具のこと、私ももっと知りたいです!

クレヨン

種類
クレヨンのような棒状の描画材は「固形描画材」と呼ばれている。大きく分けると、先が細くてやや硬めの「クレヨン」、先が平たい円柱型でやや柔らかめの「パス(オイルパステル)」の2種類がある。ワックス、オイルを含まない「パステル(コンテ)」も固形描画材の仲間。

特徴
クレヨンはパスよりやや硬めで、紙の上を滑らかにすべるため「線描き」が得意。色を重ねやすいので、棒などで引っかいて描画する「スクラッチ」にも適している。パスはクレヨンよりやや柔らかく、紙に着色しやすくて伸びもよいため「面塗り」が得意で、色を混ぜやすい。

素材
色のもととなる「顔料」、顔料の発色を調整する「体質顔料」、クレヨン・パスを棒状に形作る「ワックス」、顔料を紙に接着・定着させる「オイル」から作られる。クレヨンは固体のワックスが多く含まれ、パスは液体のオイ
ルが多く含まれているという違いがある。

絵の具

種類
一般的に「透明/不透明」と「乾いたときの耐水性の有無」によって分類される。耐水性のないものは「水彩絵の具」、耐水性のあるものは原材料にアクリル樹脂を含むことから「アクリル絵の具」と呼ばれることも。「ポスターカラー」は、耐水性がなく不透明な絵の具を指す。

特徴
耐水性のない絵の具には、定着剤として水に溶ける糊(アラビアガム)が使われているため、筆などについた絵の具が乾いても水で洗い流すことができる。耐水性のある絵の具には、乾くと水では洗い流せなくなるアクリル樹脂が使用されているため、取り扱いには注意が必要。

素材
ぺんてるの「エフ水彩」絵の具の場合、色のもととなる「顔料」、顔料の粘度や発色を調整する「体質顔料」、顔料を紙に定着させる「定着剤(アカシア属の植物から採れるアラビアガム)」、定着剤を液状にする「水」、カビを防ぐ「安定剤」などの材料から作られている。

「ぺんてる茨城工場」って、どんなところ?

今回、見学させていただくのは「ぺんてる茨城工場」。
クレヨンと絵の具の製造工程を見学する前に、ぺんてる茨城工場がどんなところかご紹介します。

7万㎡の敷地に18の建屋が並ぶ茨城工場は、1964年にサインペンの生産工場として設立されました。その前年に発売された「ぺんてるサインペン」は、米国のジョンソン大統領が一般教書演説の署名に使ったことで世界的ヒット商品となり、増産に対応する工場が必要になったのが設立のきっかけとのこと。

不動の人気、ぺんてるサインペン

“私たちは、感じるままに想いをかたちにできる道具をつくり、表現するよろこびを育みます。”をビジョンとして、現在は各種ボールペン、マーカー、修正具、ぺんてる筆、絵の具、クレヨン、のり、消しゴムといった、ぺんてるの国内における全ての文具製品や化粧品容器の生産・品質管理を行っています。ぺんてる社内の機設部で製作された自動化設備・省力化機械の導入により、以前は1日あたり約1万本だったサインペンの生産量は約6万本にまで増加したそうです。

全芯で折れにくいパスティック

クレヨン・絵の具編②では、いよいよクレヨンの作り方を見学します。
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